国土整備開始3
俺は昨日のように暗い空間に居ることに気づいた。しかし周りを見渡しても光る場所はなく結衣の姿はなかった。
「あれ?結衣が居ないって事はこれは夢か?」
そう言って耳を引っ張ってみると結構痛かった。
「何をやってるんだ?普通は頬に何かをするのではないのか?」
俺が振り返ると後ろに魔神様が立っていた。
「いや、頬はありきたりだし試しにしてみました。」
「お前少し子供っぽくなってないか?まぁ、いいか。お前は結衣という子供を捜していたみたいだが基本的には真夜中にしか交信能力は発動しないぞ?俺の力は夜の方が力が増すから効率がいいのだ。」
「それなら俺がここに来たのは魔神様が呼んだんですか?」
「そうだ。お前の力の説明をしておこうと思ってな。お前と結衣の繋がりは共に寝ていることが条件だ。しかしその条件にも少し違いがある。お前が夜寝ることで繋がるのに対し、結衣の場合昼寝などで一定時間寝た場合なら交信が可能だ。その際に時間が同期される。例えばお前が二日寝ずに過ごした場合でも、昼寝をしている結衣にとっては自らが起きていた時間分しか時間が流れない。」
そうなると結果的に俺の方が時間が経つのが早いことになるのか。
「そう言えばまだ礼を言ってなかったな。すでに魔素の管理を始めてくれたようだな。礼を言う。」
「まだ、ほとんど何もしてませんよ。あぁ、そう言えば俺の性別変えるなら前もって言っておいて下さいよ。風呂に入る直前に気づいて焦りましたよ!」
それを聞いた魔神様は首を傾げ聞いてきた。
「お前は男の姿のままで卵を産みたかったのか?そうなりたいなら体を一度壊して作り直しても良いが?」
「やっぱりこのままで良いです!」
「まぁ、それでも俺の力で造った体だ、不滅だとは言えあまり無茶はするなよ?仮にも俺の子供の様な物なのだからな。」
そう言って頭をなでてきた。元の年齢からしたら嫌な気持ちが湧くかと思ったが、予想外に不快感は起こらなかった。魔神様は俺から手を離すと何かを俺の頭に乗せた。
「それは三神の力を受けた者の証だ。少なくともまともな国家代表なら馬鹿な真似はしないだろう。お前はこれから他の大陸へも行くことが在るだろう。それが少しは役に立つはずだ。」
「他の大陸って、この大陸内でまだ色々やることがあるんじゃないの?」
「確かにやることは沢山あるだろう。しかし家畜や魚などはどうするつもりだ?お前が名付けた魔人族も成長すれば果物だけではなく野菜や肉も必要だろう。それを仕入れるために必要な通貨はこの国にはないからな。」
確かにこの国には通貨がないから買い物は出来ないな。でもこの大陸外に行かないと買い物が出来ないのは不便だな。
「別に買い物は他の大陸に行かなくても港さえあれば、大海移動船団から仕入れることが出来るぞ?家畜などはそこから買うことになるだろう。名前の通り陸地で暮らすのではなく、海で生活することを選んだ自由貿易を認められた集団だな。」
「ここから近いのはどこの国?地図には地名とか載ってなかったけど。」
「近さで言うならサザンクロス連合国の国家代表がいるサウザンクロスが近いな、だがここから移動するならウェストクロスがいいだろう。移動にはマーチを使うことになるしな。」
そう言って地球儀を出し位置を教えてくれた。サウザンクロスがオーストラリアでウェストクロスはその西にある島国のようだな。
「リリーの神術で移動するのは駄目なんですか?それならマーチじゃなくても良いと思いますけど。と言うかマーチ海移動出来るんですか!?」
「マーチは空以外なら対応可能だ。ホバー船の様な感じだな。それに転移先に行った事があるか、知った者やマーカーがある場所でないと転移は出来ない。それと、神術や神技は俺の加護の強いこの大陸なら無制限に力を使えるが、他の大陸では著しく効率が落ちる。他の大陸からの長距離転移は難しいだろう。」
「なら俺の神言も効率落ちます?」
「いや、お前は神の体を持っているから魔素操作の効率はほとんど落ちない。まぁ、神器を具現化出来ないお前では吸収位しか出来ることはないだろうがな。」
そうか、リリー達の力が落ちるこの大陸以外のことを考えると早めに具現化出来るようにならないといけないな。
「ウェストクロスの神殿にいる三神教の神官に、お前が近いうちに訪れる事を伝えておこう。そこでマーチの中に溜まっている魔素結晶と通貨を交換すると良い。神殿で港の認識票を受け取り港に設置すれば大海移動船団が寄港してくれるようになるだろう。」
「ありがとうございます。なるべく早く港を作ってウェストクロスに向かうことにします。」
「気にするな、仮にも俺の娘のようなものだからな。そうだお前の頭につけた髪飾りは力を注げば短時間なら障壁を張ることが出来る、強度はお前の技量次第だ。それではな。」
そう言って魔神はさり、俺はこの空間での意識は薄れていった。
俺が目覚めたのは湖ではなく自室のベッドだった。俺が寝ている間にリリーが転移させたんだな。周りを見渡すとベッドの横の棚にベルの様な物が置かれていた。
「これって昔の貴族とかが使用人を呼ぶのに使ってるのを見たことがあるな。これを使うのか?」
俺は手を伸ばしベルを持つと振ってみた。すると綺麗な音が鳴った。そして数秒でドアを開けてリリーが入ってきた。
「お目覚めですね。先程鳴らしたベルはソーヤ様が鳴らせば私達がどこにいても聞き取ることが出来ますので、用があるときはいつでも使って下さい。そろそろ夕食の時間ですので浴場へ行きましょう。」
そう言ってリリーは俺を連れて歩き出した。俺は途中で窓から外を見るとすでに夕方となっていた。
「あの二人はどうした?」
「あの二人なら先程までは中庭で遊んでいましたよ。バーンズが見ているはずです。あの二人も下の浴場に向かうでしょう。」
そうか、俺の浴場は専用だったな。でも広いし問題無さそうだけどな。
「あの二人も一緒はだめか?」
「二人もですか?それはソーヤ様が問題ないのならかまいませんけど。そうですね、バーンズに伝えておきましょう。」
そう言って二つの球を浮かせ交信と呟くとバーンズに神術で伝えたようだ。
「その神術ってのはどうやってるんだ?」
「神術はこの球に神言を簡易化した文字を表示して組み合わせで発動しています。今の場合なら交と信ですね。」
そう言って俺の前まで球を近寄せる。確かに中にはその文字が見えている。これは漢字みたいだな。俺が読むからそう見えてるんだろうけど。
「これは漢字だったよな?」
「そうです、この世界に漢字が残っていないので魔神様がソーヤ様が神言を扱いやすいように日本語を元に作りましたから、自然と神術等も漢字を元に作られました。」
確かに使い慣れた言葉の方がやりやすいな。魔神様に感謝だな。
俺が浴場に着いたときにはまだ二人は来て居なかったので、先に俺とリリーは中に入り俺の体を洗った。俺がのんびりと浴槽に入っていると二人が中に入ってきた。流石にバーンズは脱衣場までしか入って来なかったので、隙間からみえた扉の向こうにはバーンズの背中が見えた。
二人は順番にリリーに体を洗われると俺の居るところまで走ろうとしてリリーに捕まえられていた。二人がリリーに連れられ浴槽に入った所で注意をすることにした。
「二人共、お風呂では走っちゃだめだよ?滑ると危ないからね。約束できるなら、お風呂は一緒に入っても良いよ?」
そう言うと二人は元気良く頷き直ぐそばまで近づいてきた。俺は二人の頭をなでながらこれからの事を二人にも聞こえるようにリリーに話しかけた。
「リリー、もう少し人数が増えて手狭になるまでは、子供達も一緒に入ろうと思うんだけどどうかな?」
「それは構いませんが、あまり人数が増えますと私達だけでは手が回りませんよ?」
「そうだな、孵化させる速度も考えないとな。疾風と麻白も弟や妹が出来たらお手伝いよろしくね。」
「うん!」
そう言って二人は俺に抱きついてきた。なんかプニプニしてて面白いな。そう思って二人の頬をつつくと二人はくすぐったそうにしながら笑っていた。
リリーははしゃぐ二人と俺に服を着せると、バーンズを伴い食堂へと向かった。
リリーが用意したのは小さめに切られた果物の盛り合わせと、鳥を骨ごと煮込んだ物だった。多分串焼きの鳥と同じだろうな。料理を食べるために用意されていた道具は使い慣れた箸だった。
「へぇ、箸があったんだ。この大陸で作れる植物が増えたら料理が楽しみだな。」
「その時は私達が力の限りおいしい料理を用意すると誓います。」
俺はリリー達からの返事に笑みで返し、おいしい料理を楽しんだ。子供達二人は料理を食べ終えた俺とは別室に向かうことを聞かされると予想通り抵抗した。俺が頭をなでながら説得すると、二人の反応には少し違いが見えた。疾風は我慢をすでに覚えたようで、俺に悲しそうな顔を向けてはいる物の自分から離れた。だが麻白は甘えたいのか離れようとはせず俺から半ば強制的にはぎ取られ、リリーに連れられて行った。別室へと向かう麻白が、時々振り返っているのは少し可哀想かな。
「ソーヤ様の精神の影響を受けていますので、普通の子供よりは精神的に発達しているようですね。普通の子供は産まれて初日にあれだけのことを理解することは出来ないのですから。」
そういえばそうだな、あの見た目だから忘れてたけど、産まれてまだ一日だった。
自室に帰ってきた俺は、リリーにも後で伝えることをバーンズに頼み、昼寝の時の魔神様との話を伝えた。
「港ですか。ここから南、城の正門から先に海があります。現在は浅い海岸線が続いているのでマーチに指示を出し港造りを優先させましょう。道に関してはマーチの眷属に任せれば何とか成るでしょうし。」
「そうだな、そうしてくれ。それと、基本的にはこれからの事はバーンズとマーチである程度は自由に整備してくれ。勿論魔素の吸収には行くけど、俺には国作りの知識は無いからな。」
「分かりました。ところで今日はもう休みますか?」
「さっきまで寝てたから眠くないし、卵を産んだ後はのんびり過ごすよ。」
そう言って俺は産卵管を操作しベッドに卵を産んでいったが、今回は昨日と明らかに違う卵が二つあった。
「なぁ、色々混ざった青は水系、真っ赤なのは火だと分かるけど、真っ白なのが在るがこれは何だ?」
「恐らく私達しもべから漏れている力を睡眠中抱いてマーチで長時間移動したので、無意識に取り込んだのでしょう。魔神様と会ったことも影響しているかもしれません。そうですね、この卵は私とリリーが育て、子供達の世話係として育てましょう。」
「世話係?流石に子供の世話を子供がするのはきついんじゃないか?」
「最初は確かに難しいことは出来ないでしょう。簡単なことから教え込むつもりです。予行練習にも成りますし。」
「予行練習?」
「私達はそれぞれが種族を問わず子孫を作る機能が備わっています。リリーとの子供を作ることは出来ませんし、こらからも機会があるかは分かりませんが。」
なんか二人が子供を育てているのを考えると、複雑な気分だ。独占欲か?
「そうだ、これから産む卵は属性や種族などを産み分けることはしないと決めたよ。」
「なぜですか?狙った属性の子供を産めば色々と都合が良さそうですよ?」
「勿論、必要が在れば調整はする。でもどんな奴が産まれるか分からない方が楽しみじゃないか。」
「わかりました。この国の主はソーヤ様ですから、好きになさって下さい。我々はその手助けをするのが仕事ですから。」
そう言ってバーンズは卵を持って部屋から出ていった。
俺はベッドから降りると窓の外を眺めた。遠くの方で何かが光っているのはマーチやその眷属だろうか?
「港が出来たらこの星の人間と会うのか。魔人族が人間に受け入れられるかは不安だけど、バーンズが言っていたように、俺がこの大陸の主だ。出来る限りのことはしていこう。」
そう一人空と大地を眺めなら決意をした。
そして外が暗やみに包まれ真っ暗になった頃、リリーが俺の部屋を訪れた。そろそろ寝ることにした俺は卵に力を注ぎ、昨日のように眠りについた。
昼のように暗い空間に着いた俺は周りを見渡したが、そこには予想通り昨日と同じように結衣が眠っていた。俺はがっくりと近づくと目を開けた。どうやら光に俺が触れるのが条件のようだな。
「あ、宗也お姉ちゃん!」
「おはよう、結衣。今日は子供が産まれたことを教えてあげるよ。俺には新しい種族を作り出す力が在るんだよ、魔人族って名付けたんだけどね。」
「そうなんだ。ねえどんな子?」
「そうだな、男の子は割と頭のいい優しい子かな。女の子は甘えん坊でかわいいよ。まだ産まれて一日しか経ってないけど、最初から結衣位の見た目なんだ。」
「そうなんだ、なんか不思議だね。いつか会ってみたいな。」
「そうだね、いつか会わせてあげられたらいいね。」
そんな話をしていると光が薄くなってきた。
「どうやらここまでみたいだね。」
「うん、バイバイ!」
俺も手を振る結衣に手を振り返しこの場所から消えていった。