人としての最後の時間
「こうして高校生活最後の夏は何もなく終わりを迎えるのであった。」
「何下らないこと言ってんだ?海にも行ったし祭りにも行ったろ?」
つまらなそうにスマホを弄りながら歩く友人(赤城友也)と珈琲を飲みながら歩く俺(万里宗也)。
「そうは言うが、海はナンパしようとしたら彼氏持ちで俺は殴られるし、祭りは出店の手伝いで殆ど回れなかったじゃないか!」
そう言ってスマホを見せてきた、画面にはデートスポットの詳細が載ったページが表示されていた。
「こうして準備は万端なのに、なぜもてないんだ!?」
「多分そう言うところだよ。暑いしそこのゲーセンに行かないか?」
「いいね、かわいい子もいるかもしれないし。」
俺はため息をついてゲーセンへ歩いていく友也を
追った。
ゲーセンの中は騒がしいが涼しくいい感じだった。俺達はレースゲームをやったり格ゲーを楽しんだ。
「久しぶりにやったけど相変わらず強いな、多分反射神経が活かせる仕事なら敵なしだな。」
「現実で役にたたない特技だけなら沢山あるからな。せめて運動神経がましなら役に立つんだろうけど。」
俺はなぜか反射神経だけは良い、なのに極端なほど体力が無い。そのせいでスポーツは苦手だ。ゲームなら手だけで良いからなかなか役に立っている。
「一応、就職先は義兄の会社で事務員として働くことになってるけどね。」
「ああ、あの可愛い姪が居る香織さんの所か。結衣ちゃんだっけ?」
「可愛い事は否定しないけど、手は出すなよ?」
「出さねえよ!流石に3歳に手を出すか!」
そんな話をして自販機の所へ歩いていると辺りが騒がしくなった。逃げろと叫びながら出口へと走る人もいる。
「何かあったみたいだな。火事とかじゃないみたいだけど、何かあったんだろうなどうする?」
「とりあえず俺達も避難するか「キャー」何だ!?」
声のした方を向くと刃物を持った男が笑いながら小さい女の子に近づいて居るのを見つけた。近くには父親なのか男性が倒れていた。
「原因はアイツか、お前は回り込んでくれ。」
「捕まえる気か?警察を待った方が良いんじゃないか?」
「見捨てると後悔しそうだしな、結衣に年も近いし。」
友也は頭をかくとゲーム機に身を隠しながら近づいていった。俺もゆっくりと近づき犯人が良く見える場所までやって来た。犯人はニヤニヤ笑いながら子供の顔の前で包丁の様な刃物を揺らしている。子供は怯えて涙を流して泣いている。
ようやく友也が配置についたのか、犯人が居る場所の裏にあるゲーム機の影から合図が来た。俺も友也が動いたらすぐ動けるように移動しようとした時男が刃物を振りかぶる姿を見た。
その瞬間俺はとっさに走り犯人に殴りかかった。犯人は俺に気付き体の向きを変えようとしたが俺の方が早く、犯人の顔へ先に拳が当たって吹っ飛んだ。
それを見た友也は慌てて犯人に飛びかかるとベルトやどこから見つけてきたのかロープを使って拘束した。そして周りを見渡し何かを探している。何を探しているんだ?
それを口に出そうと口を開けたとき吐き気と共に咳が出た。俺は手で口元を隠してもう一つ咳をしたが、咳と同時に何かで手が濡れた。
「え?」
そこには真っ赤に染まった掌が有った。
「宗也!?」
俺はゆっくりと下に視線を移すと胸の真ん中当たりに刃物が刺さっていた。それを意識した瞬間熱さと共に目眩が襲い俺は崩れ落ちた。
「宗也、しっかりしろ!誰か、救急車を!!」
慌ただしく動く友也をぼんやりと見ながら、小さな女の子が男の人にすがりついているのを見て、あの子は護れたんだなと考えながら俺は意識を手放した。
俺がゆっくりと目を開けると目を開けたはずなのに真っ暗な視界だった。疑問に思い体を起こすと足下に手を伸ばすが何も手に当たらない。
「なんだここは?俺は・・・、そうだ刺されて病院に運ばれたはずだ。そうか、夢か。」
「近いが違う、ここは俺の管理する世界との狭間だ。」
こんな空間現実に在る訳ないし夢かと思ったがいきなりの声に驚いて周りを見渡すが周りは何も変わらないが、聞こえた声からするとわりと若そうな声だな。
「誰だ!」
「お前にわかりやすい言葉で言うなら、異世界の神だよ。」
「いわゆる、俺は間違いで死んだから転生させてやるって奴か?」
俺は少し複雑な感情を浮かべ神様に聞いてみた。
「神に人の寿命を決める権利があるわけ無いだろう?そんなのは人間の勝手な思いこみだ。体を酷使すれば勝手に死ぬ生き物の寿命を決める理由など無い、ただ指定した人間を殺すことはできるがな。それにお前はまだ死んではいない。」
「死んでないならなぜ俺はここに?」
「ただの偶然だな。偶々この世界を覗いてみれば魔素に取り込まれた男がいたからな、それを眺めていたらお前がその男に刺された。魔素で守られていない生き物が魔素で攻撃された貴重な例だからな、興味がわいたから呼んでみただけだ。」
そう言って指を鳴らすと空間の一部が明るくなりどこかの部屋が現れた。
「あれは病院の治療室か?」
そう言いながら俺が近づくとそこには色々な機械がつながれた自分の体がベッドに横たわっていた。そしてそこには涙を流しながらすがりつく姉の姿もあった。そしてすぐ隣には姪の結衣も不思議そうな顔で俺の体を眺めながら座っていた。
「いったい俺の体はどうなってるんです?」
「お前は魔素を纏った刃物で刺され倒れたのを覚えてるな?そのせいで中々血が止まらず血を流しすぎた、その結果脳にダメージが残り二度と目覚めることはない。」
俺はその宣告に目眩がしたが、何とか踏みとどまり質問をした。
「回復の見込みはないのですか?神様なら何とかできるんじゃあ…」
「おい、神は万能ではないぞ?それにそこまでしてやる理由はない。」
その言葉で俺の人生は終わりなんだと理解しその場に座り込んだ。その時病室のドアが開き医者と一緒に義兄が入ってきた。
姉は義兄に駆け寄ると何かを聞いている。そして俺の状態を聞いたのか後ずさり椅子に座り込むと涙を流しながら結衣を抱きしめている。
「泣いてる香織姉さんを見てるだけしか出来ないなんて、せめて声だけでも掛けたかったな。」
「なら、俺と取り引きするか?」
俺が姉の姿を眺めて悲しんでいると神様が声をかけてきた。俺が振り向くと続きを話し始めた。
「ちょうど俺の世界の問題を何とかしないといけないと考えていたからな。お前がその役目を果たすならそこにいる子供となら交信できるようにしてやるぞ?」
「詳しく知りたいんですけど、俺は何をするんですか?それとなんで、香織姉さんじゃなく結衣なんです?できれば姉さんと話したいんですけど。」
「仕事の内容は増えすぎた魔素の管理だよ、それ以上は機密だ。それと、選んだ理由は純粋な子供の方が交信用の回路を作ることが簡単だからだ。大人になると疑い深くてな中々難しいんだよ。それと転生すれば当たり前だがこちらの体は生命力が尽きる。」
魂が抜ければそうなるか。それにしても仕事の内容は教えてくれないのに選択しないといけないのか・・・
「結衣に何か害とか無いんですか?」
「無いな、それと今回は直接繋ぐからお互いが起きていても繋がるが、普段は子供が寝ている時にしか繋がらない。どうする?」
俺は姉の涙を流す姿を見て提案を受け入れることに決めた。
「わかりました、お願いします。」
それを聞いた神様は再び指を鳴らした。すると結衣と何かで繋がった事が感覚的に理解できた。結衣も違和感があるのか抱きしめられながらも周りをキョロキョロと見回し始めた。
俺は結衣が怖がらないように注意して出来るだけ優しく声をかけた。
(結衣、俺の声が聞こえるかい?宗也だよ、わかるかな?)
(宗也おじちゃん?あれ?口が動いてないのになんで喋れるの?)
(それはね、心でお話をしてるからだよ。)
(そうなんだ、すごいね!宗也おじちゃんはいつまでもお昼寝するの?もう夕方だよ?)
(実はねおじちゃんは遠いところに旅に出ることになったんだ。それを伝えたいから香織姉さんに今言った話を伝えてくれないかな?)
「うん、わかった!ママ、宗也おじちゃんがねこれから遠いところに旅に出るんだって!今、宗也おじちゃんがママに伝えて欲しいって言ってた!」
その言い方だと信じないと思うぞ・・・、まぁ俺も良い手は思い付かなかったけど。
「結衣?宗也おじちゃんはここで寝てるでしょ?」
まぁそう思うよな。
「えっとね、心でお話しできるようになったんだって!」
「そうなんだ、良かったわね。でも宗也おじちゃんは寝てるから旅には出れないわよ?眠いなら先にパパと帰る?」
香織姉さんは眠いから変なことを言い出したと判断したようだな。すると結衣も香織姉さんが信じてないのがわかったのか涙目で主張を始めた。
「嘘じゃないもん!おじちゃんとお話しできるようになったんだもん!」
「わかったわ。それじゃあ宗也おじちゃんは他に何か言ってる?」
「ちょっと待って。宗也おじちゃん?」
(やっぱり中々信じてくれないみたいだね。それなら昔在ったことを話してあげるよ。香織姉さんの他では、結衣のおじいちゃんとおばあちゃんしか知らない話だよ。)
「わかった!宗也おじちゃんが昔のことを話してくれるって言ってるよ。」
「へえ、どんな話?」
そこで俺は結衣に夏休みを利用して親にも内緒で自転車で旅に出たことを話した。
「えっとね夏休みに自転車で秘密の旅に出たんだって!」
「へえ、そうなんだ。」
(その後は自転車で移動して3日目に、タイヤがパンクをしたところに運悪くパトカーが来て、そのまま家に連れ戻されたんだよ。あの後は掃除や手伝いで大変だったよ。)
「えっとね、3日目にパンクしてパトカーに乗ってお家に帰ったって言ってるよ?パトカーに乗れるなんてすごいね!その後も掃除とかお手伝いをしたなんて宗也おじちゃん偉いね!」
「確かにそんなこともあったわ。でも結衣はまねしちゃ駄目よ?他には何か言ってる?」
香織姉さんはそこまで聞いて少し動揺したみたいだけど少し考えて小さいときに亡くなった母さん達に聞いていたのかもと思ったのか他にも言ってないか聞いてきた。
(そうだな、ママに内緒でスーファミのカセットを買ってきた事があったな。ママと貯めてたお金だったからすごく怒られたよ。この話はママしか知らないから他の人には言っちゃ駄目だよ?)
結衣はきょとんとした顔で考え込んだが、香織姉さんに話し始めた。
「えっとね、すうふぁみのカセットをママに内緒で買ったって言ってるよ?ママ、すうふぁみって何?」
それを聞いた香織姉さんは驚いた顔で俺の体に振り向き何かを呟くと、ゆっくり結衣へ向き直ると結衣を見つめ直した。
「本当に宗谷と話せるのね。」
そう言って震える手で結衣に触れ目を閉じた。
俺は香織姉さんが信じてくれた事に感謝をし、結衣に神様から依頼された仕事で異世界へ旅に出ることを伝えるように頼んだ。
「宗也おじちゃんはね神様から異世界っと頃でお仕事するんだって。どんな事をするかはまだよく分からないけど、まそって言うのを管理するんだって!」
「そう、教えてくれてありがとう。いつ旅立つのか分かる?それとママもお話しできないのかな?」
「宗也おじちゃん、いつ旅に出るの?」
俺が神様に確認すると今日の0時に移動するからこの体の生命力もその時尽きると教えてくれた。
(今日の0時に旅立つよ。それと残念だけど体を持ってくことが出来ないから、心での会話はこれからは結衣が寝ている時にしか出来ないんだよ。だからママとは出来ないんだ。)
「宗也おじちゃんは今日の0時に出発だって!それと心での会話はこれからは結衣が寝てるときにしか出来ないんだって。宗也おじちゃん寂しそうな声だったよ?」
「ありがとう。残念だけど仕方ないわね。」
そう言って時計を見た。俺も見てみると時間は9時だった。
香織姉さんは何かをこらえるように結衣を抱きしめると俺に仕事を頑張るように伝えるように頼むと病室から出て行った。
義兄は展開に着いていけないのか少し慌てつつ結衣の頭を撫でた。
そして数分後戻って来た姉の手には毛布が有った。どうやらここで俺の最後を看取るつもりのようだ。
「宗也おじちゃんは私達の声や姿は見えてるの?」
(見えてるよ、神様の話では結衣の近くにいる物が見えたり聞こえたりするみたいだよ。それと旅に出るとこの体は駄目になっちゃうけど心配はしなくて良いからね。)
「結衣の近くの物なら分かるって言ってるよ!」
「そう、聞いてくれてありがとう。ママはここで寝るけど結衣はどうする?」
「結衣もお見送りする!宗也おじちゃんの体は持ってけないから置いてくけど心配しなくて良いって!」
香織姉さんは結衣の頭をなでると義兄と結衣は食事のために出て行った。
すると声が聞こえなくなり映像だけの病室へと変わった。
「信じてくれて良かったじゃないか。それと仕事の内容はお前が生まれ変わった時点で理解できるようにしておいてやる。そうだな、少しくらいなら要望が在れば用意してやるぞ?」
とりあえず衣食住だな。
「俺の転生先での環境はどうなってます?」
「その点は問題ない。服は魔素で作れるし、お前の新たな体は神と同じ物だからな。餓死すること無い、だが食べないと魔素が取り込みづらいから用意された食事はしっかり食べろ。住居は立派なのを用意しておいてやる」
「餓死することは無いって不死ですか?」
「勘違いするな、不死ではない。不滅だ、神域から出れば刺されれば死ぬし、お前の体もそんなに強いわけではない過信はするな。もし死んだら神域で再生はされるが死ぬのは痛いぞ?」
神の体と同じなら無敵かと思ったけどそうじゃないんだな。
そんな話をしていると結衣が帰って来たのか声が聞こえ始めた。時間を見ると10時になっていた。流石に眠いのか目をこすりながらうとうとしている。
(無理しなくて良いぞ?これからも結衣とは話せるんだから。)
「でもママはお話しできないんでしょ?一生懸命起きてるの!」
そう言って頭を振っている。香織姉さんは結衣の頭をなで小さくありがとうと言った。
そして結衣の手を借り最後の会話をしながら過ごしていたが、ついに残り一分となった。
(そろそろ時間だな、結衣頑張ってくれてありがとな。ママにも今までありがとうって伝えてくれ。)
「うん、わかった。ママ、宗也おじちゃんが今までありがとうだって!」
その言葉を聞いた香織姉さんは結衣を抱きしめると口を開いた。
「私こそありがとう。マメに連絡をしてきなさいよ?そうしないと許さないからね?」
そしてついに0時神様が指を鳴らすと病室が薄くなり始めた。機械類からから電子音が聞こえだし、医者が慌てて入ってきて処置を施すも持ち直すことはなく、家族に見守られながら体は生命活動を終えた。
俺は病室が見えなくなると同時に、意識を失いながら異世界へと転生した。
神様の嬉しそうな
「ようやく、魔素で生物を作り出せる母胎が見つかった」
と言う、イヤな言葉を聞きながら。