パーフェクト佐山くんの倒し方
楽しんでいただければ幸いです。
地元の市立図書館はそれはそれは寂れていたんだけど、小学生の頃の私はちっとも気にならなかった。それよか気になる存在があったのだ。子供用スペースの一角には、天使と見紛うような美しい少年がいつもいた。児童文学をめくる手は細く、伏せた視線は柔らかい。はじめてその美しさを目の当たりにしたときは、世の中にこれほど綺麗なものがあるのかとひどく驚いたものだ。そして私は彼に会いに、学校が終わった後は図書館に通い詰めたのだった。
しかし、やむなくして市立図書館は壊され、場所を移した。駅前にそびえる、雰囲気の硬い建物になってしまった。その日から私が彼を見つけることは叶わなかった。
―――あれから7年。
「佐山ってほんっと頭いいよな~。」
「3番だろ?前回も5番くらいじゃなかった?」
「そうそうすげぇよなあいつ。ってか勉強してるとこ見たことないんだけどw」
「ねぇ佐山くん定期考査3番だったよ~!」
「さすが玲くん、特別だよねぇ!」
「すごーい超かっこいい~~付き合いた~い!」
定期考査の成績上位20名が校舎の玄関口に張り出されるのがうちの恒例。私の通うこの高校は進学校でありながら部活動にも力を入れており、文武両道として有名な人気のある学校である。生徒たちの意識も高く、よく学びよく動く子が多い。
その中でもひときわ存在感を放っているのが私と同級の佐山玲という地球外生命体だ。
私はね、そう、あやつは人間ではないと踏んでいる。何故って、そう、あまりに出来すぎているからだ。それはもう出木杉氏もびっくらこくぐらいの勢いで完成されている男、もはや同じ人間とは認められない、認めたくない。
私は無意識的に「チッ…どいつもこいつも、」と舌打ちをした。
「お前はいいよな~、勉強もできて運動もできて彼女も選び放題で、天は5物くらい与えてるんじゃね?お前、世の男子に謝った方がいいぞ、さぁ謝れ、俺に!」
「は、なんだそれ。ってか俺勉強してるし、彼女いねぇし。」
「うわ~そういう嘘いらないから!むしろ俺たちの胸えぐってきてるからね!?玲ってばほんと勘弁。」
私が玄関を通り過ぎて、教室のある2階に上ったところにただいま絶賛話題の人物様がお友達と談笑なさっていました。確かに佐山玲は世間にいっかい謝ったらいいかもしれない。一理ある。
「ねぇ聞いた?佐山くん彼女いないって本当なのかな~?」
「わかんないよ、いろいろ噂あるし。」
「でも今否定してたよね?やっぱフリーなんじゃない?」
「佳代、チャンスだよぉ、頑張りなって!ほらぁ。」
数メートル離れたところでは頬を赤らめ、うるんだ目であやつのことを見つめる女子生徒とその友達数名が聞き耳を立てて盛り上がっていた。いや、あれよ、恋する乙女はキャワイイねぇ、私が男ならあの子タイプだなぁ…っとオッホン。
でもなぁ。こんなかわいい子、あの地球外生命体にはもったいない気がするよ私は。これは私の持論だけど、あやつと付き合ったら最後、周りの女子からの嫉妬に神経すりへらし、いつ浮気されるのかとやきもきした挙句、胃に穴をあけてもうこれ以上は一緒にいられないわ状態になっちゃうんじゃないかと思うのだ。そんなのって嫌だ、少なくとも私は。
「あ、新山さん!」
「…へ?」
突然かけられた声に、孤独に思考を巡らせていた私は変な声を出してしまった。私を呼んだのは、あろうことか佐山玲……の友達の…えっと…何とかくん、そう、何とかくん。
「な、なんでしょう?」
いやぁ~まずいぜ。今このタイミングで佐山軍団と話すのはさ、だってさ、今しがた可愛い佳代ちゃんとかいう子がさ、あやつに話しかけようかと勇気出してたところなわけじゃん?私超絶お邪魔虫だよね?ね?まずいっしょ!
「俺、2-Dの松田順平、話すの初めてだよね?新山さん。」
「あ、はい、そうですね、どうもです、松田くん。」
隣じゃもの珍しそうに佐山玲が私と松田くんのやり取りを見ている。私の方に視線を送ってきていても私は気づかないふりをして目を合わせなかった。ふっふっふ、あんたとは会話しませんよアピール。
「俺さ、翔と幼馴染なのよ、坂下翔。席隣でしょ?」
「あ~、あのよく寝t…んんっと坂下くんね、はいはい。」
「ははっ、あいつ授業寝てるんだ??」
「それはそれはもう気持ちよさそう~に。」
「うわ想像できる!あ、それでさ、あいつが隣の席の新山さんって子が面白いって言ってたから、気になってたのよ。」
「…MAJIすか!?」
え、私なんかやらかしたっけ?面白人間認定されるようなこと…うううん、わかんないなぁ。っと待てよ、だべってる場合じゃない。私は佳代ちゃんとかいう子の恋路の活路を見出してやらねばならんのだ。……あ!いいこと思いついた!
「松田殿!」
「はいっ!?…殿?」
「ちょうどいい。その坂下くんのことで少し相談があるんだ。ここじゃちょっとなんだからあっちで話をしないかい?」
「え…いいけど。なんだろ。」
「よし、行こう。悪いけど佐山くん、松田殿をお借りします。それからさっきあっちにいる子が君に用があるっぽかったよ。行ってあげたらいいんじゃないかな?」
ふふふふふふふん、ふんすふんす、私、やるじゃないかふふふうふふ!きらりと光るまなざしを佐山玲にお見舞いしてやったぞ、ふふふふふん。やつめ、眉根を寄せて怪訝そうな顔になっている。ふっふっふ、知ったことか、さぁはやく行って参れ!
私は上機嫌で松田くんの手を取ると、らんらんるんるん言いながらその場を立ち去った。彼の手がビクッとしてたけど気にしない。次の授業まではまだ時間があるし、佳代ちゃんとかいう子、健闘を祈るぜ!
…とまぁ私のお節介作戦『勝手に佳代ちゃんとかいう子を応援する』の巻が完了したかに見えた。見えていたのだが、目下、目の前に見えているのは懐かしきかな、天使のように整った恐ろしいほどの美顔である。
「…佐山さん近いっす。」
「…。」
「…は、離れてください。」
「…。」
「さ~や~ま~、お~い聞いてるの~?」
高校に入ってから、私は部活の無い日は高校付属図書館で勉強をしたり本を漁ったりしている。ここの図書館は小学生の頃通ったあの図書館とどことなく色味や居心地の良さが似ていた。私の図書館通いは入学してからすぐ始まったわけなのだが、同じように図書館を活動域とする生徒もチラホラいた。そのひとりが佐山玲もとい、にっくきイケメン地球外生命体である。その、彼の、顔、が、今、私の、目の前に…
「はぁ~。」
うわめっちゃため息つかれた。
「なんで佐山いきなり出会ったとたんに壁ドンとか、ないわ~、ないよ。壁ドンするならもっとこう、ロマンチックな雰囲気でさ、ドキドキできる文脈のなかでやろうよ、へっ。」
私は目先にある彼のほっぺをびよよ~んと引っ張ってやろうと顔に手を伸ばすが、佐山玲はぎょっとした顔をしてすぐにペシッと私の手を払いのけ…ずに掴んだ。なにこれ逃げられない。
「昼間のあれ、なに?」
冷気を含んだ声。ぶっちゃけめっちゃ怖いです。図書館の勉強室とは別の資料室というところに私たちはおり、ここにはめったに生徒が来ないから何かあっても助けが呼べない。私はひとりでご立腹佐山さんと対峙しなきゃいけないんですか!?そんなのごめんです。そもそもなんでおこなの?
「昼間…?あ、佳代ちゃんとかいう子!どうだった?どうだった?OKしたの?ねぇねぇ!付き合うの?」
「お前さぁ…。」
はぁ~、と盛大にため息その2をつかれた。どうしたってんだい、実らなかったのかい?おまいらの恋は!
「…断ったよ。」
「え?なんで?めちゃめちゃかわいい子だったじゃん!」
「だって俺好きな子いるし。」
「そうだったの?知らなかったわ。」
「お前には言ってなかったからなぁ。」
「なんだよ~教えてくれたってよかったのにー。変な斡旋しちゃったじゃんか~。」
「ほんとにな。もうやめてくれよ、ああいうの。俺も断るとき胸が痛いからさ。」
「胸が痛いからさ…っていやぁイケメンの悩みは贅沢だよねぇ、羨ましい限りですほんとに。………で?好きな子って?」
「………はぁ?」
「どこの誰?場合によっちゃあ私が恋のキューピットをば…」
「バカ言うなよ。ってか教えねー。」
「なんでー!ケチ。じゃあ応援してあーげない。」
「…。」
じとーっと私をにらんでくる佐山玲。どんな表情でもイケメンはイケメンなんだなぁと妙に感心しているなう。
「まぁそれはいい。問題は松田なんだけどさ。」
「松田くんがどうしたの?」
「お前もタチ悪いよ。たぶらかして楽しいわけ?」
「はい?いつどうやって私がたぶらかしたよ?!」
「やれ二人だけで話そうだのやれ早く行こうつって手を握るだの…やってること男落としにかかってるよーなもんだろ。あいつ単純馬鹿だからお前が自分に気があるんじゃないかって勘違いしてたぞ。」
思ってもみないことを告げられて私は豆鉄砲を食らった鳩みたいになった。おっどろいた。
「そんなつもり毛頭なかったんだけどなぁ…佐山を佳代ちゃんとかいう子とくっつけたくてつい…。」
「どんな理由であれ、見る人によってはお前が松田を口説いてるようにしか見えねぇよ。最悪お前に悪い噂立ったり、あの勘違いヤローが勝手に失恋して落ち込んだりするかも知れないだろ?」
「わ、わるかったぜ…気をつけよう。」
「ホントに。お前ほかのやつにも同じようなことしてんじゃないだろうな?」
「し、し、し、してない!…はず。」
「はぁ。もうさ、俺たちこの関係やめない?」
彼は一度肩をすくめる。そして定位置となった机に腰かけた。私もなんとなく彼に習って自分の定位置につく。彼の隣。資料室には椅子が2つしかないから自ずとこうなってしまう。
「関係をやめるとは…友達やめるってこと?」
「そうじゃなくて。図書館ではこうやって普通に話すのに、他のやつがいる時は他人のふりするの。やめようよ。俺、なんか疲れたわ。」
「で、でも、佐山と話してたら目立つし!私目立つの嫌いだし!」
「俺そんな目立ってる?意識しすぎだろ。そもそも男女関係なくたくさん人と話してれば何も言われないよ。」
図書館以外では他人のふりをしようと提案したのは私だった。理由は単純で、佐山玲と仲良くしていた…というかしようとしていた女子たちがことごとく他の女子からの非難に遭い、陰口をたたかれたり嫌がらせをされたりしているのを知っていたからだ。佐山玲、罪な男だぜ。しかも何がダメってこの男、あんまり自分がイケてるメンツだってことを理解してないんだよね、困ったことにさ!
「お前さぁ、俺と仲よくしてるといじめられるとか思ってるわけ?」
「あったりまえじゃーん。」
「…まじかよ。」
彼は頬杖をついてこちらを見つめた。どんな角度でも様になる美貌…あぁ世の中不公平だわ。彼の背からは夕日が入り込み、全身の輪郭をオレンジ色に縁取った。綺麗だ。女性より綺麗だ。もちろん私なんかの数百倍綺麗だ。なんか腹立ってきた。
「佐山のばぁ~か。」
「は?」
「呪いをかけてやる。」
「ちょっと待てよ。」
「禿げればいい。禿げればいい。禿げればいい。」
「美穂!」
「このイケメンが!成敗してくれる!」
「もうこの子話聞いてくれない…。」
残念な子認定されそうになったので慌ててやめた。佐山が悪いのに。ふん、佐山がイケメンなのが悪いのだ。
「どうすれば俺はお前と歩み寄れるのですか。」
「その特殊フェイスを普通フェイスに変えてきてください。」
「…はぁ。容姿がお前好みじゃないことは知ってたよ。でもどうしようもねーじゃんこう生まれちゃったんだからさ…。」
冗談で言ったんだけど、本気で落ち込み始めたよ、え、え、どうしよう。
「ま、待てい。いつ私がそんなこと言った?」
「…?だってお前、俺の顔が嫌なんだろ?前からちょくちょく俺の顔が気に入らないって言ってたし。」
これはまさか…知らず知らず佐山のことを傷つけてた?そうだとしたらさすがに…私失礼すぎる!
「ごめん佐山、そんなのウソだよ、ウソに決まってんじゃん!信じないでよそんなの~。」
「ウソなの?」
「悪い冗談だったんだって、ほんと。ごめんね!佐山はかっこいいよ。みんなも満場一致でそう言うし、私もそう思うし。むしろめちゃめちゃ好みドストライクで見つめてしまってすみませんレベル!」
7年前のあの子が、成長した姿を見せてくれた1年と半年前。私は嬉しくって泣きそうになった。また会えた。また会えたんだって、胸が打ち震えるのがわかった。
「小学生の頃からさ、私、佐山のファンだったんだよね。佐山に会いたいがために地元の図書館通ってたんだ~、ほんとのところは。」
「え…、本気で?」
私はこっくり頷いた。
高校に入学してすぐ図書館で再会した私たちは、偶然にも互いに互いのことを印象深い子供として記憶していた。私は彼を男の子なのに天使のように美しい少年、彼は私を女の子なのに昆虫や爬虫類図鑑を読みふける少女、と。いやぁ~小さい頃ってさ、虫も蛇もなんか可愛く見えてたんだよね~。あるじゃんそういうの!今は断固無理だけどね。
「本気で俺のこと好みなの?」
バッっと身を乗り出して私に問うてくる佐山の目が、心なしか爛々と輝いているように見えた。
「う、うん。あれ?言ったことなかったっけ?」
確かに思い返せば私が佐山のことを憎きイケメンだの許すまじエイリアンだのと形容するような発言ばかりしていたような…Ohワタシって相当嫌な奴なんじゃ…そしてひねくれてる。
「ご、ごめん佐山…。私、なんていうかその、佐山がイケメンで皆から人気なのが、そう、ちょっといやでさ。だから思ってもないこと言ってただけなんだよ。今まで傷つけて申し訳ない。気づくの遅かったね…。」
「なんで?」
「ふぁ!?」
「なんで俺がイケメンで皆から人気なのが気に食わないの?」
「それは…」
内心私は焦った。こんなのキャラじゃない。小学生の頃から美しかった佐山のことを知っていた私が、高校で子供っぽさを脱ぎ捨て、見事な美の化身になったその姿をもう一人占めできなくなるという事実にふて腐っていたなどと、どの口が裂けて言えよう…!無理!
「黙秘します!」
なんだか無性に恥ずかしくなって顔が赤くなるのがわかった。少し俯いてみたのだが目ざとい彼は私の変化を見逃さない。
「そっか~。ふはっ、へ~なるほどねぇ。」
「なんだよ気持ち悪いな!」
「美穂って結構わかりやすいよな。」
「な、なんのことかな、へへへ。」
「なんのことだろうね?あはは。」
乾いた笑いがこだまする。そして飽和する。変なところ察しがよくてほんと困るよね!まいったなぁ!
「ちょっと私用事思い出したからさ、今日は切り上げるわ。さっきの件だけど、私としてはやっぱ校内だと知らんふりが居心地いいなぁ~って思いまぶふぉ!?」
「却下。」
言いきらないうちに佐山の麗しい右手が私の口をふさいだ。悪魔的に妖艶な微笑みつきで。こわい。
「今まで俺、美穂に嫌われてるんだと思ってた。ここでしか喋ってくれないのも極力関わりたくないのかなぁって。でも。」
ん~~っお兄さん息を!息をさせてくれ!
「美穂が俺のことタイプだったなんて。しかも嫉妬してたんだね。だから避けてたのか。納得いったよ。だったらもう取る行動なんてひとつだ。」
佐山!なにその思考!なんか末恐ろしいんですが!そして、手を、どけて、ください…!
「ぷはぁ!こ…殺す気か!」
「ごめんごめんなんか逃げられそうだったからさ。」
「すーはーすーはー。」
「でね、結論。もう俺自分の好きなようにいくね。美穂の顔色うかがうのももう飽きたしさ。」
「そ、そりゃ私の顔色なんて気にする必要はない…けど、ちょっと待って校内でも話しかける気!?」
「悪い?」
「ダメだよ撲殺されちゃう!」
まだ17年しか生きてないんだ…死にたくないでござる。
「気にしない気にしない。これから仲良くしてね、美穂。」
ことさらに甘い笑顔を振りかけないでくれ!至近距離でそれはずるいよ、また顔が赤くなってしまう!その小首をかしげる感じ、たまらん、たまらんのだけど、くッ…丸め込まれそう!でも私の大切な未来がぁぁぁっぁ!助けて!
「美穂は俺のことたぶん、友達としてしか見てないんだろうけど、好きになってもらえるよう努力するよ。」
「はい?」
どうしたのこいつ、惚れさせる宣言してるんですが!頭大丈夫?本気?本気なの?それってまるで…
「佐山私のこと好きみたいじゃん!」
「え?うん、そうだけど?」
え?うん、そうだけど?
え?うん、そうだけど?
え?うん、そうだけど?
え?うん、そうだけど?
え?うん、そうだけど?
え?うん、そうだけど?
え?うん、そうだけど?
え?うん、そうだけど?
「やっぱ1ミリも気づいてなかったのか。鈍感なのは知ってたけどさ。」
思考回路が~、ショート寸前☆
「聞く?俺が美穂のこと好きになった話。けっこう長いよ?」
ふるふるふると頭をかろうじて振った。この男は一体何をのたまっているのじゃ?わたしゃ夢でも見ているのかえ?
「ねぇ。いつまでびっくりしてるの?そんな赤い顔でフリーズされたらキスしていいのかと思っちゃうんだけど?」
いたずらに笑う彼は天使というか悪魔ですわ。美しさに変わりはないんだけど。でも逃がさんぞとばかり私の腕をつかんでいる手、ぜひどけていただきたい。今はただひたすらに敵前逃亡の許可を願う!キャパオーバー!
「ちょ、調子に乗るなイケメン!」
ドンッと大きな音が続けざまに2回した。1回目は私が勢いにかまけてやつの手を振りほどき逃げようと試みた際に倒した椅子の音。そして2回目はそんな私をたやすく引き止め壁に追いやり、通せんぼのごとく私の真横の壁を彼が突いた音。
「ロマンチックな雰囲気だし、ちゃんと文脈もあったしこれって良い壁ドン?」
どこがだ。
そう言いたかったのだけれど。
「美穂。俺はお前がすげぇ可愛いと思うんだ。好きなの。わかる?恋愛対象として。なんか今までいろいろ面倒くさいことばっかやってきちゃったね、後悔してる。松田になんか渡さないし、坂下とかいうやつにも渡さないよ。他の女子に嫌がらせされるってなら俺が守る。だからさ、明日から、俺と喋る、これ決定。把握した?」
否定を許さない高圧的な語調ではやし立てる彼に、歯向かえる人がいるのだろうか。私はただただ覚束ない思考で必死に流されるなと警告していたのだけれど、私のことを愛おしそうに見つめてくる…ように見えてしまうその笑みの前ではすべてがなし崩しになっていく感覚がわかった。
どうしよう、これ。佐山が倒せない。
読んでくださってありがとうございます。
またお会いしましょう。