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詩の箱

うるう

作者: 眞木 雅

坂道の一番上から、おーい、と手を振る。

すると、自分と似た格好の白い丸い奴が、

はーい、と下の方から手を振り返す。

おーい、はーい。と繰り返して、だんだんと夜になる。

すると、白いやつがてっぺん。

俺はその向こう、反対側でそいつを照らす。

グルグルと回りながら年を取る。

軸の中に住む生き物は、そんな俺達を頼りに年を数える。

あるやつは、希望に燃え、あるやつは、絶望に死ぬ。

奇妙かつ、野蛮な生き物たちだ。


海をじっくりとあたためながら、

自分の格好を真似た赤い丸い奴が、

行ってくるぞ、と手を振る。

海の底で体を冷やしながら、

行ってらっしゃい、と手を振り返す。

温度差を真ん中で中和して、はっきりと朝になる。


ある時、嵐が来た。

赤い丸い奴は上に昇ったきり、俺を呼びにこない。

しかたがないから、海の真ん中まで昇って

あいつが来たらすぐに交代できるようにした。

しかし、呼ぶ声はしない。

風があっちこっちをかき混ぜて、

波は星を飲み込む勢いで、寄せては返す。


突然、ばちん!と音がして雷が落ちた。

それに驚いて気を抜いたのか

赤い丸い奴は落ちてきた。

俺のそばにいた魚は煮魚になった。


空が静かになった頃、あの坂まで俺達は向かった。

出遅れた雨雲や雨粒が壁の隙間や道の端に残っていた。

やぁ、もう嵐はやんだぞ。と伝えると

寂しそうにそこらへ染み込んで消えた。


赤い丸い奴は、俺の手をとって坂を登り始めた。

悪戯を思いついて、楽しげな様子だ。

俺は仕方ないから付き合ってやった。


いつにも増して暑くなったその日、

あの生き物たちはこちらを見上げてはしゃいでいた。

赤い丸い奴は得意げだ。

白い体の俺も悪い気はしなかった。


「空を見ろ!!月と太陽が!!」


誰かが叫んだ。

すると、分厚い雲が俺達を取り囲んでこう言った。

悪ふざけも、程々にするんだな。

バツが悪くなった俺達はじゃんけんをした。

赤い丸い奴が負けて、坂を降りて海に向かった。


このちょっとした遊びのせいで、

軸の中の年月に小さなズレが生まれた。

それを律儀に数えているおかしな生き物たちを上から眺める。


俺は一息ついて、坂の下の方に、おーい、と呼びかけた。

悪戯はあの一度きり、俺達は真面目にやっている。

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