07
それからの一週間はギルヴェールにとって嵐のように感じられた。
急に変わる事となった職場と今までとは比べ物にならない程の仕事量。詮索を避けるため用意されていた台本を繰り返し、違和感なく振舞う事を心がけた。
また本来、王の近衛騎士になるためには『騎士の誓い』という儀式が必要なのだがリアンがまだ正式に王位を継いでいない事と合わせて先送りとなった。ギルヴェールとしては嬉しい事なのだが。
何れ程忙しくてもリアンは必ずギルヴェールに非番の日を設けると約束した。
それのおかげで以前よりは頻度が減ったが息を抜く事が出来る。それにきちんと身分に見合った給料も出してくれるらしい。律儀な君主だ。
前王の近衛騎士であった養父が付き添っての三日間、その後はギルヴェール一人でリアンの傍に仕える事四日間。
さすがのギルヴェールも疲れという物を感じ始めている。
殊更疲れるのは、会議の時だ。
評議会とリアンがまともにぶつかる時もあれば、表面上はお互い納得した風を装い腹の探り合いをする。議会の中でいくつかの派閥に分かれている事も問題だった。
あのような、いるだけで神経をすり減らしそうな場にこの少女は四年もいるのかと思うと複雑な気持ちになる。
「随分疲れているな」
「…いえ、問題ありません」
「疲れる理由もわかるさ。あそこは身体的よりも精神的に疲れる」
傍にいる事で以前より格段に言葉を交わす機会が増えた。
彼女は決して労いの言葉を忘れず、城内で見かける使用人や騎士団にはきちんと挨拶をする。
そんな礼儀正しいところが民衆に好評なのだろう。
「しかし、今回は予想以上に議会の反応が悪かったな…」
「庶民向けの政治学校を作るという案には反対しかないのでしょうね。自分達の地位が脅かされたくないのでしょう」
「それもあるが…まったく。野心がある事は結構だがありすぎると目先の事しか見えなくなるのが問題だな」
会議の間を退出し、自室に向かう間もポツポツと会話が生まれる。
大抵は政治の話になるが時々彼女はぼやく事もあってギルヴェールはそれが少し楽しみであった。
自分より八つ年下の、それも少女が鉄壁を築き上げて為政者として立つ。
その顔にはいつも年相応のらしさがなく、ギルヴェールはリアンが女と知る前から心のどこかで引っかかっていた。
「ギルヴェール、今何時だ?」
「ちょうど三時になります。いかがされますか」
「一度部屋に戻るとするか。そろそろ休憩時間が欲しい」
三時になるとリアンは必ず侍女の一人をお茶をする。
これもリアンの傍に仕えてわかった事だ。
リアンの私室内を確認し、怪しいところがないと判断し部屋の主を入れたあとギルヴェールは部屋の外へ出た。
気を使わなくていい、とリアンは言うが相手が秘密を知っているなら女同士話したい事もあるだろうし、四六時中ひっついている事はギルヴェールも流石に遠慮したい。
懐中時計を見て、君主が部屋の中から出てくるのはどれくらいかと逆算を始めた。