05
それから三日後の昼下がり。
ギルヴェールは騎士団修練場にて、他の騎士に混じり剣の鍛錬をしていた。
「おい、ギル。団長が呼んでるぞ。」
「ああ、わかった」
同僚から言伝を聞いたとき、ついに来たかとギルヴェールは悟った。
もうあれから三日。何かしら動きがあっても疑問はない。
言われた通り、修練場入口には補佐を一人伴った男が立っていた。
もう四十八だというのに年相応の身体の不調等一切ないように見られる鍛え上げられた身体と、なによりその風格。王立騎士団団長、コンスタンス。
「騎士団長閣下、およびと伺いましたが」
「鍛錬中にすまんな。殿下からお前を連れてくるようにとの事だ。ついてこい」
ギルヴェールと彼は養子養親という関係だが、仕事中は一切私情は挟まない。
あくまで上司と部下に徹底するよう騎士団に入団する時から教え込まれた。
先行する養父の背を見ながら、これから自分がどうなるのか考える。
まず呼び出しは十中八九、あの時の事だろう。養父はおそらくリアンの真実を知っているに違いない。なにせ王族周辺の警備は常に彼が決めていたし、その警備もあまりに厳しかった。
地方に左遷か、もしくは脱団命令か。
どちらにせよ、自分に選択権はないだろうとギルヴェールは覚悟を決めた。
辿り着いた先は執務室前。
この分厚い扉の向こうで自分のこれからが決まると考えてもギルヴェールは今更緊張等しなかった。
もう何をしようが同じ事。
扉の前の騎士に取次を頼み、ついに入室許可が下る。
徐々に開く二枚扉の先にある自分の未来を見据えようとギルヴェールは顔を引き締めた。
「リアン殿下、お連れしました」
「手間をかけたなコンスタンス。悪いが話が終わるまで外で待っててくれ」
「はっ」
そうして養父が部屋から出ていくとついに室内には二人の人間しかいなくなった。
大きく設けられた窓の外を見つめていた人物は視線をふいに自分に見つめてきた。
光に照らされた瞳は僅かに青のように見えた。
「こうして会うのは初めてだな」
やはり男というには高い声が発せられる。
なんと応えればいいか考えを巡らすうちにリアンは話し始める。
「此処に連れてこられた理由はわかっているだろうから、そこは説明せずともいいだろう」
あの時の少女と目の前の君主は普通ならば重なる事はない。
束ねられた髪も隙のない佇まいも男物を着こなすその姿も。何もかもが違う。
目の光までもが違った。
リアンは間違いなく、今君主として目の前にいる。
国を治める者として未来を創る者として何一つ見逃さない、選択を間違えないと眼光が物語っていた。
「ギルヴェール・コンスタンス。私の近衛騎士になれ」