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真実と嘘のソノリテ  作者: 桜黒
真の誓い
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 その日の夜、久々にギルヴェールは休暇が言い渡された。

 ここの所、フェレスの来城やゴルワード領への視察が重なりリアン程ではないが仕事詰めであったギルヴェールへ、リアンからのささやかな感謝のしるしだった。

 

「律儀というか、なんというか…」


 どうやら初めの頃にした契約の内容はまだしっかりと覚えていたらしい。むしろギルヴェール自身が忘れていたくらいだ。

 そんな事でいつも通り服を着替え、酒場に向かう途中だった。


 城から出て程なく歩いた頃、がさごそと茂みが動いた。

 まさか不審者だろうか。

 仕事外の時間ではあるがさすがに見過ごせない。

 そう思って、ゆっくりと音へ近づいていく。


「……お前、確か」


「うわぁあああ」


 慎重に茂みを覗けば見た事のある顔がいた。

 対して相手は突然背後から話しかけられとんでもない速さで後ずさって叫び声を上げた。まるで幽霊でも会ったようだ。

 そこにいたのはいつだったかブラッドに紹介されたレシムという青年だった。


「え、あの…あ、あなたは…」


「ああ、俺はブラッドの友人の」


「お、覚えています…ギ、ギルヴェール、さんです、よね…」


 か細い声で、顔は真っ青のまま視線を合わせようとしない。

 これではこちらがいじめているみたいだ。


「ああ、そうだ。それで、お前は?なんか探してるのか」


「あ!いや、べべ別になんでも…」


「でも、こんな所で這いつくばってて、なんか落としたんじゃないのか?」


 そう言うと、レシムは言いづらそうに右へ左へと目を泳がせる。

 随分とわかりやすく動揺する様子が逆に可哀想だ。


「俺も手伝う。どんなものなんだ?」


「えええ!?い、いや大丈夫です!なくしても、も、問題ないものですし…!」


「でもそんなに一生懸命探しているなら大事なものなんじゃないのか?」


「~~~っ」


 声にならない声をあげるレシムに首をかしげる。

 確かにギルヴェールはブラッドの友人とだけで、レシム自身とは関わりはないがそれでもブラッドの身内なら放っておけなかった。

 それでも頑なに手伝いを遠慮するレシムに折れたのはギルヴェールが先だった。


「本当に…ご親切で言ってくれたのに…すいません」


「いや、俺もしつこく言って悪かった。探し物見つかるといいな」


 そう、何気なく言うと何故かレシムは眉を下げた。

 そして目を伏せ唇をぎゅっと結ぶ。


「は、はい…ありがとう、ございました…」


「ああ、またな」


 別れの言葉を告げ、その場から離れるとレシムはペコリと礼をした。 

 しばらく歩いてもう一度最後に振り返ると、彼はギルヴェールの視線に気付いたのか棒立ちからまたお辞儀をする。

 なんとも、気弱だが礼儀正しい青年だ。

 そのあと、酒場に向かいブラッドと久々に酒盛りをしていてもレシムが現れる事はなかった。





 

 久々にハメを外して飲んだのがいけなかったのか、気づかぬうちに疲労が溜まっていたのかは定かではないが滅多に二日酔いをしないギルヴェールが頭痛と吐き気に悩まされ、結局丸一日あった休暇はベッドで過ごす事となった。

 次の日にはすっかり快調になり、全くもって問題なかったのだがそれでも失敗したと思った。


 なにせ、昨日はブラッドがいつも以上に上機嫌だったのだ。

 なんでも、昨日キャラバンの一員が開いている出店を覗きに行ったら、そこで城仕えの女性と会ったのだと言う。

 その女性がこれまた美しく、女に惚れられても惚れることは少ないブラッドですら目を奪われた程らしい。その女性に怪しまれない程度に買い物の助言をするという名目で近づけば、愛想よく返されさらに気分はよくなった、というわけだ。


 話を聞きながら、城仕えで美しい女性で(外面だけは)愛想の良い人間を一人脳裏に思い浮かべたのだがまさか知り合いであるかもなんて言えない。

 言ったら最後、どうにか縁をつないでくれと頼み倒れるに違いなかった。

 そのため、さっさと酒に沈めるためにいつもよりも早くジョッキを空け続けたのが悪かったらしい。


 リアンに知られてしまえば呆れられるどころではないので、バレないようにいつも通り仕事をこなすギルヴェールであった。


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