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「そこまでだ」
地下室はその声で突如多くの光に照らされ、同時に隠し通路の扉からそして天井の扉から階段を下って多くの騎士がなだれ込んできた。
さほど広くもない地下室を騎士が埋め尽くし、全員が男達に向かって今にも捕らえられる体勢だ。
リアンは騎士達の横をすり抜け男達とそして呆然としているゴルワード伯爵の前に立った。
「すべて聞かせてもらったぞ。我が国の大事な宝に随分な事をしてくれたようだな」
「な、なにもんだてめえ。どうしてここが…」
「私が何者か?ならば答えてやろう」
リアンの目つきは鋭く、輝く瞳は今にも男達を貫いてしまいそうだ。
実際リアンはそれほどの憤りを感じていた。
扉の前で盗み聞いていて、何度飛び出そうと思ったかわからない。
それでも決定的な言質を取るまではとなんとか必死に自分を抑え、騎士達を待機させた。
「我が名はリアン。シルヴァーレ王国第一王子、リアン・フェル・シルヴァレス・ヴィレットだ!!」
美しい金糸の髪を振り払い、凛とした声で響くその名前。
正しくこの国で最も高貴なる人物に相応しい風格が今此処に晒される。
「お、王子…!?こんなガキが…!?」
男達は空いた口が塞がらない、とでも表せる程に驚いた。
まさかこんな、女みたいな顔をした子供がこの国の王子だなんて。にわかには信じ難い事だった。
そしてもう一つ信じられない事もある。
「なんで…そんな奴がここに…!」
「おや、聞いていないのか?今この領地には王子が来ていると。我々はこの地を調査しに来ているのだ」
「調査って…てめえ、ちくりやがったな!!」
しかし男に吠えられたゴルワード伯爵は未だ混乱の最中だった。
確かに自分は先刻王子が乗る馬車も護衛が行くのも見送ったはずなのに、何故こんなところに。
それに調査とは…。
「残念だったな。お前らがいいなりにしていると思っていた男はその実、王都に救援要請を出していた。たかが貴族だと驕っていたのが仇となったな」
リアンからするすると告げられる言葉に目を白黒させた。
全くもって身に覚えのない事だ。
一体、王子はいつから見抜いていたのだろう…?
「ちくしょう…!こんなところで捕まるなんてごめんだ…!」
「どうなってやがる!計画が全部パーじゃねえか!」
「うまくいってると思ってたのによぉ…!」
「王子が出てくるなんて、どういう事だよ!」
そして男達も口々に焦りを言い合っていた。
今や手出しのしようもないほど包囲されている。逃げ出す算段は無いに等しかった。
リアンが片手を無言で上げると、騎士達は一斉に男達を捕縛にかかった。
抵抗する者はおらず、一人また一人と縄がかけられていく中項垂れて力なく肩を落としている。
しかし、一瞬生まれた隙を見逃さない人間がいた。
「ざけんな!俺は捕まらねえぞ!!」
ナイフを持った男のその獣地味た叫びに気づいた時には既に男はリアンに向かって突進していた。
せめて、この小僧を人質にとれば騎士達は言う事を聞くはずだ。
そうすれば自分だけでも逃げ出せる。他の奴らなんか知ったことじゃない。自分だけでも逃げ出すんだ。
欲望のまま、リアンとの距離が一気に詰める―
「おらっ―ぐぅぶぁああ!」
しかし、それは叶わなかった。
確かにあともう少し、手を伸ばせばそこにいる距離なのにいきなり顔に強い衝撃と共に壁際まで吹き飛ばされたのだ。
「この方に手出しはさせない」
風のような速さで自分を殴り飛ばした男は嫌悪を隠そうともせずそう言った。
男の記憶はそこで途切れる。




