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真実と嘘のソノリテ  作者: 桜黒
共に背負う重み
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 視察最終日はこれまたとてもいい天気だった。

 朝食後、護衛の騎士達と共に屋敷周辺を散歩するにはもってこいの天気だろう。

 しかし、北方に位置するゴルワード領の風は王都に暮らしなれているリアンには少し肌寒いものがあるようだ。


「殿下、外套を用意いたしますのでそちらを…」


「いや、問題ない。これくらいの寒さは平気だ」


 やはりギルヴェールの従者っぷりが板についてしまったのか、周りの護衛の騎士も二人がなすがままにしている。

 リアンからしてみれば、ギルヴェールの世話焼きがくすぐったくてしょうがないのだが。


「本日のご予定は殿下のご希望通りに、とゴルワード伯爵が」


「それは好都合だな。元の出発の予定は昼過ぎだな?」


「その手筈になっています」


「予定変更だ」


 そう言った瞬間、ギルヴェールの眉がぴくりと動いた。

 ついにリアンが動くつもりだと気づき、すっと瞳の奥の色を変えた。つまり、何があっても主の命だけを第一に動く覚悟へ。

 即座にリアンは連れてきた騎士全員を集め、予定の変更を伝えた。しかし、理由までは教えずただの業務連絡に留める。

 再び持ち場へ散らばった騎士達を見送った後部屋へと引き返した。


「さて、予定の時刻まではまだ時間があるな。それまでの間、できる限り情報を揃えたい」


「村に出てしまえば、どうしても目についてしまうでしょう。なにか探っているとバレてしまうのはあまり得策とは言えません」


「その通りだ。どうしたものか…」


 その時、コンコンと小さくドアが叩かれた。

 顔を見合わせ、ギルヴェールがドアノブをひねる。

 緊張を持って開いた先に、ギルヴェールの目線から幾分か下のところで揺れる小さなリボンがあった。


「おや、君は」


「あ、あの…おうじさま。おかあさまがいっしょにおちゃをしましょうって」


 昨夜の天真爛漫から一転もじもじとスカートの裾を握り締め、扉の影に半分身を隠す。

 その足元には保護者のつもりなのかあの猫もいた。

 末娘を通しての夫人からの茶会の誘いに今度こそ二人は顔を見合わせた。







「お呼び立てをしてしまい、申し訳ございません殿下」


「いや、ちょうど何をするか考えていたところだ。これで時間を埋めることができるよ」


 夫人は柔らかく微笑み、リアンを待っていた。

 庭園は屋敷の豪華さとは変わり質素だがセンスよくまとめられていた。

 小さな東屋には既に茶会の用意がしてあり、傍にメイドも控えている。

 幼い伝達係は母に仕事を全うした事を褒めて欲しく、無邪気にじゃれついていた。

 それを見つめるアイリス夫人の暖かい瞳と丁寧に髪を撫でる手は母親のそれで、リアンはどこか遠い向こう側で見ている気分だった。


「夫君は今はどうしているんだ?」


「今日は朝から慌ただしくしていて、私もあまり言葉を交わしていませんの。夫がどうかいたしまして?」


「ああ…いや、少し気になっただけだ」


 ごまかすために紅茶を一口飲む。もちろん毒見は済んでいる物だ。

 ふわりと優しい香りが鼻腔を通り僅かに林檎の味を含んだ紅茶が喉を通っていった。

 そうすれば幾分か緊張が解ける。

 自分の方が身分は上だが、年齢で言ってしまえばまだまだ自分は若輩者だし夫人は一筋縄ではいかない人間だと見える。

 この後の話題に詰まると先に話を振ったのは夫人だった。


「この領地をご覧になっていかがでしたか、殿下」


「相変わらず林檎園が素晴らしいな。歴代の領主達が育て築き上げてきた物を皆が力を合わせて守っている」


「…ええ本当に…」


 目を伏せ、隣に座って茶菓子をつまんでいる娘を撫でながら夫人は呟いた。

 それがどこか憂いを帯びていて、儚げだ。

 結婚する前は社交界で華と謳われていたらしいその容姿が一層そう見せていて、リアンはしばし目を奪われる。


「私はこの領地の出ではないのですがその時からここの美しさに心を奪われています。そして、夫と共にこの領地を守り子供達に繋いでいこうと誓ったのですわ」


 愛を誓い、未来を誓い、己の決意を誓った。

 彼女の瞳にはすべてを守りぬこうとする『生きる女』の強さが感じられた。

 それを見て、リアンははっとなる。同時に様々な事が頭の中で線を結び始めた。


「アイリス夫人、それは―」


「そういえばリアン殿下。あまりお外を一人歩きするのはお控えなさった方がよろしいかと」


 口を開いた矢先、またもや夫人に話題を変えられる。

 もはやなにがなんだかわからない。

 儚げで強く、惑わせる夫人にリアンは目が回りそうだった。

 加えて、身に覚えのない事を言われ首をかしげる。


「日が早く落ちてしまう事もありますが、それよりも…」


「眠る林檎の下には、嘘がありますから」


 そう言って微笑む夫人の姿がひどく鮮烈に映った。

 まさに、燃え盛る炎の色をした林檎のように。

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