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真実と嘘のソノリテ  作者: 桜黒
共に背負う重み
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 部屋の中は当然だが真っ暗で、灯りとなるものは一つもない。

 しかたなく、燭台を一つ引き抜いて部屋を照らす。炎の光に浮かび上がったのは、壁に沿いに並べられている本棚と大きな書斎机だった。

 確かに、あの次男が言うとおりに仕事部屋なのだろう。

 さほど大きいわけではなく、部屋の中央に行ってしまえば部屋全体をぼんやりと照らす事のできる程度だった。

 

 ふとそこで、リアンは一つ違和感を覚えた。

 あれほど豪華に暮らしていたゴルワードの仕事部屋にしてはあまりにも質素だ。

 仕事部屋なのだから豪華である必要はないのだが、立派なのは机と椅子だけで本棚はあちらこちらが痛み、ところどころ本が抜けている箇所がある。


 きっと、ここはもう使われていない部屋なのだろうと適当に検討をつけて思考を追いやる。

 机の上には束にしてまとめられたこの領地の税金と収益についての書類がちょこんと隅に置かれている。

 まさか、しまい忘れたわけではあるまい。もしかしたら昔のものかもしれないと思いつつも、一応手に取る。


「日付は…今年か」


 だとしたら無用心すぎやしないだろうか。仮にも金に関する物なのだからもう少し厳重に扱って欲しいということろが本音だ。

 なにせこれには国への献上金の額と領民からの納税額、そしてそれ以外の産業で得た利益が事細かに書かれているのだ。

 各領地とも、月に一度この書類を作成し、リアンの元へ提出する義務がある。そういう事で、リアンもこの書類に書かれている事は知っているのだ。

 

「…どういう事だ」


 しかし、ページを読み進めていくうちに呑気な気分はどこかへと吹き飛んでしまった。

 紙を捲る指先が緊張で固くなる。


 リアンは、提出される書類に示されている各領地の金額はすべて覚えている。大切な国家予算を無駄なく使うために隅々まで読み尽くしているのだ。

 それはもちろん、この領地とて例外ではない。


「もし、こちらが本物だとしたら…一体、この領地にはなにが起こっている…」


 そして、書類に示されている総収入の額はリアンが記憶している額と大きく差を開いていた。

 これが一体、なにを示すのかわからない。わからないが、放っておく事は到底できない事案だった。

 多くの可能性が挙げられていき、そしてどれもリアンにはにわかに信じ難かった。


 仮に、ゴルワード伯爵が懐にその差額を入れていた場合。領地剥奪、最悪爵位の剥奪も有り得てしまう。そうなれば、三人の子供とか弱き夫人もろとも路頭に迷ってしまうだろう。


「あの晩餐で、あれほど取り繕っていたのはこれを悟られないようにか…?」


 謎は深まるばかりだ。

 迷った末、今月の書類だけを抜き出し、あとは元あった場所に戻してリアンは部屋を後にした。

 できれば、自分の予感が外れている事を願いながら。






 部屋へと帰るとリアンはとっさにしまった、やってしまったと思った。

 案外長く考え事をしていたせいか、ギルヴェールが既に戻ってきてしまっているのだ。

 これは確実に小言を言われる。ギルヴェールの小言はマリアよりもグサグサと刺さるのだ。


「……殿下」


「いや、すまん。だが、今回は見逃してくれ頼むから。成果ももって帰って来れたし」


「そういう問題ではないと、私が何度言い聞かせれば聞き入れて下さるのか、お教え願いたいですね殿下」


 こわい。ただひたすらにこわい。

 この男は確かに普段、無表情のように見えるが感情はきちんと顔に出るのだ。

 そして、一番こわいのが怒りを孕んだじっとりとした目と平淡な声。あれは、縮み上がる。

 

 騎士の前に、冷や汗をダラダラかいている君主とは中々ない光景だがそれを終わらせたのはギルヴェールのため息だ。


「…まあ、小言は後にしましょう。今はそれよりご報告しなければいけないことがあります」


「後で言われるのか…あ、いやなんでもない」


 再びジト目をされようとして急いで否定する。

 咳払いをし、ギルヴェールは自分の見てきた物の報告をし始めた。


「昼間、気にかかった箇所に向かったところ、空の樽の下に厚手の布が敷かれていました。まるで、屋敷に使われる絨毯のような。そして、その下には隠し扉が隠されていました」


「扉だと?」


「ええ、ですが施錠がされているようで開く事ができませんでした。中から施錠ができるということは、近くに別の入口があると思われます」


 事態がますます雲域の怪しい状態になってしまった事に頭を抱えそうになる。

 リアンはギルヴェールに自分が見つけた物を説明し、二つの事柄を並べて考えた。

 どう考えたって、きな臭い。

 

 そうこうしているうちに、夜が明けようとしている。

 ゴルワード領滞在の、最後の日を迎えた。



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