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おまたせいたしましたm(_ _)m
金髪をなでつかせ、翡翠の瞳はすっと細められている。
一見すれば美男とも思えるが、ギルヴェールにはそれが彼の傲慢を飾るものにしか考えられなかった。
「前回、来城された時はもう何れ程前になりましょうか」
「三年前だ。ちょうど貴殿の十五の生誕祭であったな。時が流れるのは早いものだな」
応接の間は居心地の悪い空気と緊張感で満たされている。新人の騎士はもうすでに半泣きに入りそうだ。
そう思えるほど、ここまで露骨な腹の探りあいは見ていてもいい思いは出来ない。
「三年ですか。あの時は遠くに見えた十八の自分がこれほど早く近づいてくるとは」
「…そうだな」
もうすぐで自分が王位を継ぐと暗に示された言葉を見逃すはずはなく、フェレスはまゆをピクリと動かしたがそれまでだった。
「しかし、成人とはいえ十八で王位を継ぐとは。不安ではないか?」
「いえ、そんな事は。ようやく統治者として認められる事にいささかの緊張はありますが」
口だけ笑みをかたどったフェレスに同じく口だけを動かしてリアンは答えた。
いい加減、ギルヴェールといえども胃が痛くなりそうだ。
チラリと室内を見渡したリアンが、そろそろ場の空気も限界かと腰をあげる。
「フェレス殿、ご一緒に庭見学等いかがでしょうか。腕利きの庭師がこの日のために、美しく整えたと聞いています、お気に召すと思います」
「そうだな、私も外の空気が吸いたい…おい」
フェレスは立ち上がり、後ろに控えていた従者を呼びつけた。
従者が差し出したやけに豪奢な装飾が付いた上着に袖を通す。一方でリアンも上着に袖を通したが、彼女らしい最低限の装飾でフェレスの傍にいるとどちらが上の立場かわからなくなってしまいそうだ。
そうして、応接の間での対面は終わり、次に犠牲になる場所、園庭へ一同は向かった。
「ほう、見事なものだな」
いかに主が質素な生活を好もうと、城の園庭は技術を余すところなく使い切った最高傑作のものとなっていた。
秋の淡い色の花が咲き乱れ、背の高い木から生垣の低木まで計算し尽くされたここに、目の肥えているフェレスも感嘆した。
「私の屋敷の庭もなかなかのものだと自負しているが、やはり国一番の名所には負けてしまうな」
「庭師たちが日々、丁寧に世話をしておりますから。植物も大切にされた方が喜ぶでしょう」
国一番の名所、と呼ばれるだけあって城の園庭は広い。中庭を含めれば通常の一戸建てがゆうに十以上は建つだろう。
それだけ広ければ、蜜の抗いがたい香りに惹かれてやってくる動物たちも当然いる。
「ひっ!?」
その時、フェレスの前をぶーんと一匹のミツバチが通り過ぎた。
ギルヴェールはもちろんの事、しょっちゅう園庭に紛れては庭師の仕事を見学しているリアンにとっては極々当たり前の―特にもうじき冬になるこの頃は―虫だが、フェレスはそうではないらしい。
「こ、こっちにくるな!!」
本人は必死に逃げようとするが豪華な服装といかにもハチが好きそうな香水をつけていれば、逃げられるはずもなく。
「お、おいお前!さっさとこいつを追い払え!」
「はぃい!!」
従者も我に返りハチを追い返そうと手で払うが、こういう時無闇に相手を刺激してはいけないと知らないらしい。余計に二人はハチに追い掛け回される事となった。
大の男が二人、ミツバチ一匹に追い掛け回されている光景は滑稽以外の何もでもなかったが、下手に暴れられては園庭の花が傷つくかも、とリアンは外れた考えをした。
「…ギルヴェール」
「御意」
ギルヴェールは、気が進まないが主の命令ならしかたがないと動き出した。
未だしつこく二人を追いかけるミツバチをそっと素早く両手で包み、そのまま体をねじって手を離す。
無理矢理方向転換させられたミツバチは、幸いそのまま別の花へと飛んでいった。
「はあああ…」
「お怪我はございませんかフェレス様」
「ない…貴様助けるならもっと早くっ…!」
文句を言いかけたフェレスだが、相手が近衛騎士だとわかるといなや一瞬だけリアンに視線を移し、気まずさをごまかすために咳払いをした。
なんとかこうして、花は荒らされる事なく無事に園庭見学が終了した。




