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休憩が終わったあとも忙しさは変わる事なく、働くに働いてやっと先しばらくの仕事が片付いた頃には既に外は夜の帳が下りていた。
事務作業から解放されたギルヴェールは、鉛のように重い体を引きずるようにしながらもいつもの酒場に足を踏み入れた。
目当ての人物がいる席に、彼らしくもない荒々しい動作で腰を下ろす。
「どうした、ギル。疲れきったって顔してやがるな」
「わかってるなら言うな。あと、そのニヤついた顔もやめろ、腹が立つ」
「おお、怖っ。今日はご機嫌斜めか」
まったく怖がっていない表情でいけしゃあしゃあと言う親友に絡む事すら億劫、とギルヴェールは運ばれてきた酒を一気に呷った。喉をカッと熱さが通り抜け、やっと肩の力が抜けた。
「騎士達憧れの近衛騎士も、酒が入ればただの男だな」
「…ただの平だった頃は剣を振るだけだったからな」
「おっ珍しいな。ギルが愚痴るなんて」
「愚痴ってない」
そう言って、軽食を口に入れる。
確かに、事務作業よりは剣を振っていたほうが楽だったが、主君の役に立つのなら地味な作業であろうと自分は文句なしにやるだろう。
そこまで考えて、はたと気づいた。
何故自分はそこまであの少女に尽くそうとするのだろうか。
主君だから、と言えばそれまでだが今日の事もリアンは特に手伝ってくれとは言っていなかった。ただ、自分が必要だと感じたから、彼女に手伝いを自ら申し出たのだ。
もちろん、言われればどんな事であろうとこなしてみせるが自ら進み出る必要は果たしてあったのだろうか。
「ギールー?」
「…なんだ」
「不機嫌できたと思ったら突然考え込んだりして、本当にどうしたんだよ」
「………なんでもない」
溜めに溜めて、何もないと言ったギルヴェールを不信に思いながらもブラッドは諦めて自分も酒を流し込む。
こういう時、この親友は深く物事を聞かない。
自分が話すまで、焦れる事もましてや急かす事もせず待ってくれるのだ。
「まあ、なんでもいいけどよ。色恋沙汰はあんまり伸ばさない方がいってえ!?」
「誰が色恋沙汰なんて言ったんだよ…!」
「だからって殴るか!?」
難しい事はやめだ、とギルヴェールはまたジョッキを傾けた。
日は明けて翌日。
いつものごとく、穏やかに始まった朝はとある時間が近づくにつれ、城内はにわかに張り詰めた空気が漂い始めた。
そして正午を目前とした時刻となったとき、高らかに来城の知らせの鐘の音が城内に響き渡った―
「……はあ」
「殿下」
「心配するな、表情くらい即座に作れる。だから見逃せ、今のは」
騎士達が整然と並び、門から入ってくる豪奢な馬車を迎える。
正面で到着を待つリアンとその後ろで控えるギルヴェールは、その人物が現れるのを今か今かと待ち受けている。
そして、馬車がリアンの前に停止し、従者が扉を開ければ優雅に地に足を付ける人物。
「遠路はるばる、ようこそおいでくださいましたフェレス殿」
「わざわざの出迎え、お心遣い痛み入るリアン王子」
リアンと同じ金の髪をなびかせる男―フェレスは、傲慢さがにじみ出る瞳でそう言った。




