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プリペンド領最大の街、と言われるだけあって到着した街にはいくつもの煙突が空に向かって伸びていた。
城下町よりもやや田舎の雰囲気が出ているこの街の住民達は皆、威勢がよく声が響き渡っている。
子供達の元気な声とそれをたしなめる親達の声に出迎えられ、リアンは早速町長の案内の元視察を始めた。
ギルヴェールはリアンの傍を一定の距離で護衛しながらも、周囲に視線を巡らす。視界に入ってくる住民達は、リアンの事を親しみ深く思っているのだろう、にこにこと笑顔で口々に歓迎の言葉を言う。
王子に気安く声をかけていいのか、と思ったがリアン本人が笑顔でそれに返事をするものだからあえて口に出そうとはしなかった。
「王子さまー!」
「リアンさま、リアンさま!」
そうしていると、今まで距離をとって見てきていた住民達の列の中から数名の子供が飛び出してきた。
他の騎士もこれには驚いて、とめようとするがリアンに制止されてしまった。
「やあこんにちは。皆元気かな」
「こんにちは、リアンさま!」
「王子さま、これからおとうさんのところ行くの?」
慣れたもので、リアンも嫌がりもせずむしろ嬉しそうに子供達と会話をする。
「皆、最近困った事はあるかな」
「こまった事?」
「そう、なんでもいいんだ。あったら言ってごらん?」
子供達は顔を見合わせてなんて言おうか考えている。そこは幼い子でも王子に対して言っていい事の判断がつくのだろう。
すると、子供達の中から、本を抱えている少女がおずおずと進み出てきた。
「…あのね、王子さま」
「どうした?」
「あたしね、ご本が読みたいの。お兄ちゃんが字を教えてくれるんだけどお兄ちゃんが城下町には勉強できる場所があるって言ってた。どうしたらいけるの?」
学問を学べる場所はまだこの国には少なく、城下町といくつかの中枢的な役割を持つ街にしかない。しかも門は広く開かれているわけではなく、大抵が貴族の子供かよほど優秀な子しかいけなかった。
そのため、簡単な読み書きはできても、難しい書物や文書を読んだり書いたりする事が出来ない平民は多かった。
「君は本を読む事が好きなんだな。将来は何になりたいんだ?」
「あのね!あたしいっぱい本読みたいからいつか城下町の図書館って場所ではたらきたい!」
「そうか。きっと、君のような子が学べる学校を作れるように私も頑張るよ」
そう言って少女の頭を撫でると、少女は顔を真っ赤にさせて俯いた。
周りの子供達も我先にとリアンに自分の将来の夢を語りだした。その話を誰ひとりとして疎かにする事なくリアンは聞く。
子供達の夢を聞いているリアンは政治の場に立つ時より生き生きとしている。
そんな様子を、周りも微笑ましく思っているのか和やかな空気が流れた。子供とリアンは年が近いからか、波長が合いお互い明るい表情でやり取りしていた。
結局、ギルヴェールに急かされるまで子供達とリアンの交流は続き、街の住民により一層親しみ深い人物としてリアンは印象付けられた。




