18
「…リアンが、王妃様の事を?」
昼の事を簡素に説明すると、マリアは目を僅かに開いた。
そして、しばらく腕を組み考え始める。どうやら、締め上げられる事は回避できたようだ。
「そんなに殿下が実の母の事を話すのが意外か?」
「意外、というか彼女があまり身内の話をしたがらないのはもうあなただって気づいているでしょう」
そう、リアンは今まで必要な時以外は自らの親族について話そうとはしてこなかった。
父の事を前王、と他人行儀に呼ぶ事にギルヴェールもどこか違和感を感じている。
「そのリアンがあなたに、少しだけとはいえ自分とお母様の事を話した事に驚いたの」
「…殿下は、何故あそこまで頑ななんだ?」
ギルヴェールが問うと、マリアは顔を曇らせる。
続いて吐き出される事は拒否の言葉だった。
「…それは私からは言えないわよ。いつかリアンが話してくれるまで、私は何も言えない」
拒絶するマリアの態度にこれ以上触れてはいけないと察し、話題をそらした。
「あの城に、王妃の肖像はないのか?」
「あるにはある…けど、宝物庫にしまわれてるわ。何故?」
「いや、俺も王妃をはっきり見た事はないからな。どんな人か興味がある」
純粋な興味で、マリアに尋ねる。
幼い頃から城に仕えているマリアなら知っていると思った。
マリアはふっと表情を緩め、記憶を辿っているのか目を閉じた。
「…とても美しい人だったわ。薄い灰色の髪に綺麗な青灰色の瞳で。穏やかに微笑む姿が月みたいで、使用人にも優しいお方だった」
「…殿下は前王似なんだな」
「ええそうね。金の髪も輪郭も前王様とよく似ているわ」
前王の事はギルヴェールももちろん覚えていた。
威厳が満ち溢れ、彼の目の前に立つだけで緊張の糸が自分を絡め取っていく。
そういうところも、リアンは前王に似ているのかもしれない。
「本人はそれでいいと言ってるけど、やっぱり女にとって父親に似ているって結構複雑なものよ」
「娘は男親に似るというからな」
「それがいやなのよ。なんだか男っぽいって言われてるみたいじゃない」
しばらくして、マリアはリアンの元に戻る事になった。
あまり遅くてはリアンに心配をかけてしまうし、二人共口には出さないが夜に男女が部屋にいる事は何かしらの誤解を招く。
続き部屋の扉からではなく、律儀に外への扉から出ていくマリアを玄関まで見送る。
「言い忘れてたけど、リアンの前であまり親族についての話はやめてあげて」
「今日で十分心得たさ」
「ならいいけど」
そう言うとマリアは、くるりと踵を返して隣の部屋へと入っていった。
中からリアンとマリアが言葉を交わす声がかすかに聞こえてくる。
リアンが寝静まる頃までは気を抜けないと、気を引き締め直しギルヴェールは部屋へ戻った。




