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第一話:エンジンとランチ

続きです、よろしくお願い致します。

 ――ハード面、FFDの取り敢えずの完成は次のステップへプロジェクトが進行する事を意味していた。


 つまり……ソフトウェア。


「――ランチソフト……ですか?」


 会議室では、クワタがプロジェクターを利用しながら、次の段階について、ノムラとタナカに指示を与えている所であった。


「その通りだ……皆の頑張りのお蔭で、実機の開発は大詰めだ。だが、ハードが発売したのにプレイするソフトが無ければ意味が無いだろう?」


 当然の指摘に、ノムラもタナカも同意する。


「そして、何より他のソフトハウスが開発するにしても、「こんなモノが作れます」と言うお手本があった方が良いだろう……」


 ――つまり、それは……。


「いよいよ……作るんですね?」


 ノムラの後に続く言葉をタナカが引き継ぐ……。


「VRMMOを……!」


 クワタはニカリと笑い、静かに頷いた。


 ――ここに、プロジェクトの最終段階が動き出そうとしていた……。


「更に言うなら……ゲームエンジンを作成して欲しい」


 ――ゲームエンジンとは、『エンジン』と名が付く様に、ゲームを動かすと言う事において、グラフィック、サウンド、物理演算等諸々の、多数のゲームで共通する処理を代行し、効率的に動作させるためのソフトウェアである。


「そうですね……折角のVR機ですし、MMOだけに使うのはもったいないですよね」


 ノムラはそう言いつつ、とある予想を立てていた……。


 ――恐らく、特定レーティングの恋愛ゲームとMMOがメインターゲットになるんだろうな……と。


 少しだけ、虚しさを感じながら、ノムラはクワタに力強く答えるのであった。


「それでは、期待しているぞ……?」


「はい!」


「任せて下さい!」


 ノムラとタナカは会議室を出ていくクワタを見送ると、自分達も研究室へと急ぎ、足を運んだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「それで? 何から始めるんだ、ノムラ?」


 自らの主担当――実機開発が一区切り付いたタナカは、「何でも手伝うぜ!」と言いつつ、ノムラの反応を伺っていた。


 ノムラは、目の前のPCと睨めっこしながら、ボンヤリと反応し、答える。


「――実はですね……ハードウェア開発を手伝っていた時点で、副産物的に、色々出来ているんですよ……」


「そうなのか?」


 タナカの問い掛けにノムラは頷くと、キーボードを叩きプロジェクターにPC画面を映し出す。


「――見て下さい。今現在、FFD専用のゲームエンジンとして組み込まれている機能です」


「どれどれ?」


 そして、タナカはその機能を読み上げる。


「グラフィック処理、サウンド処理、スメル処理、タッチ処理、スクリプト処理、モーション処理、物理演算処理、インタフェース処理……凄いな、殆ど出来上がっているんじゃないか?」


 タナカの賞賛に、ノムラはドヤ顔で頷く。


「後は、これらをもう少しコンパクトに纏めて、開発キットを作り上げれば――と考えています」


「そうか……なら、俺が手伝えることは余りないか……」


「いえ、プレテストとか、問題とか山積みですしコキ使わせて貰います!」


 ――そして、彼らはランチソフトの構想を検討する。


「まずは……ジャンルですかね?」


「そうだな、VRMMOと一口に言っても、RPGにするのかSTGにするのか……選択肢は膨大だな……」


 頭を抱えていると、ノムラの脳裏に一つの閃きが浮かぶ。


「――そうだ、折角、山内(モルモット)がいる事ですし、どんなジャンルが良いかヒアリングしてみますか?」


 それを聞いたタナカは、少し思案顔で……。


「まあ……そう、だな……」


 ――と答えた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――テストルームは静寂に包まれていた。


「――邪魔するぞ」


 タナカはノックもせずに、入室する。


「あ、お、おふ……タナカさんッスか? 何か用ッスか?」


 山内は被っていたFFDを慌てて外すと、玉座から立ち上がり、タナカに頭を下げる。


「――もう、タナカさん、早いですって」


 遅れてノムラが入室し、二人は山内に事の次第を説明した。山内は暫く悩んだ後、やがて静かに語り始めた。


「――やっぱり、FFDの特徴を考えたら、最初に出すべきはRPGかSTG……それと……その……」


 山内は視線を泳がせながら、言い辛そうにしている。それを見て、ノムラは何かを直感し、ポロリと漏らす。


「ああ、特定レーティングの恋愛シミュレーションゲームですか?」


「――まあ、そ、その手もありと思います……」


 心を見透かされた山内は、顔を真っ赤に染め上げモジモジとノムラの言葉を肯定する。


「そうか……分かった、邪魔したな!」


「あ、待ってくださいよ! タナカさん!」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「どうする?」


「――取り敢えず、山内ターゲットで作ります」


 ――数日後。


 テストルームには、いつもの四人の姿があった。


「待ってたっス」


「それで? モノは?」


 山内とクワタがその手を差し出す。ノムラは嘆息しつつ、FFDを渡す。


「――既に、インストール済みです」


「ジャンルは……?」


 ――クワタの視線が厳しくなる。すると、タナカがノムラの前に一歩踏み出し、説明を始めた。


「今回は、恋愛シミュレーションゲームとさせて頂きました。開発ボリュームが少なくて済むので、新ハードのテストプレイとして使いやすいですからね……」


 その説明を引き継ぐかの様に、ノムラが口を開く。


「内容としては、既存のノベルゲームに近いですが、大きく違う点はやはり、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚をフルに刺激する臨場感溢れる仕様です……キャッチコピーは『触れる! 感じる! 恋愛シミュレーション』と言った所ですか?」


 その言葉に、山内がピクリと反応する。その様子を確認すると、ノムラは更に追い討ちを掛ける。


「……そして、プレイヤーがそれらの感覚を通して刺激された結果の心音、脈拍、体温などのバイタル情報をFFDで処理する事で、NPC用に構築したAIもそれ相応の反応を返す事も可能です――まあ、これは有効無効を切り替え可能にしてありますが……」


 ――そして、そこまでを説明すると、山内が勢いよく立ち上がり、右手を伸ばすと手の平を上に向け、指先をちょいちょいと動かし、ノムラとタナカを挑発する様に告げる――。


「御託はもう良いッス! さっさと始めるッス!」


 しかし、ノムラもタナカも首を横に振る。


「まだだ、まだ終わらんよ!」


 そして、タナカのその言葉を合図に、ノムラは山内に一つのバインダーを手渡す。


「――これは?」


「説明書……ですよ……」


 それを聞いて、今まで黙っていたクワタが立ち上がり、口を開いた。


「そんなに厚くて、大丈夫なのか?」


「――今回のテストだけです。販売時にはナビゲーションAIを付ける予定です……ただ、そのナビを作成するにも、今回のテスト結果を反映したいものでして……」


 クワタは「そうか……続けてくれ」と呟く様に告げると、ゆっくりとした動作でそのまま着席する。


 ――一時間後。


「読み……終わったッスよ」


 何故か息切れしている山内に若干引きながら、ノムラは最終確認を行う。


「ゲーム開始時には自キャラ作成がありますが、大丈夫ですか?」


 説明書をしっかり読んだかを確認するノムラ……。山内は無言でコクリと頷き、勢いよく玉座に座る。


 そして、クワタが告げる――。


「よろしい……ならばテストだ!」


 山内は、FFD、全身スーツ、マスクと順番にFFDを装着していく。そして、見守る三人に親指を立て、テストを開始した――。


 ――五分後。


「おお……おお! 良いッスよ、良いッス!」


 恐らく、キャラクターメイキングが終了したであろう山内が、興奮した様に呟いている。


「――気持ち悪いですよね?」


「まあ、モニタしてるから仕方ない……言ってやるなよ?」


 実際には外に声が漏れる事が無い……テスト環境だからこそ内部音声を拾っているのだ……。


 ――そして、一時間後。


 突然、山内がテスト終了の合図を出す。


「どうした? な、何か不具合が……?」


 タナカの問い掛けに、山内は遠い目をして静かに告げた――。


「悪かぁない……悪かぁないんすよ……でも、僕は……な、萎えちまった……」


 ――そして、この日のテストは困惑のままに終了した……。

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