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第四話:音声2

続きです、よろしくお願い致します。

 ――会議室は荒れに荒れていた。PLクワタ、SWノムラ、HWタナカの前には、前回のテスト翌日に山内が残した手紙――そのコピーが置かれていた。


「――山内は?」


 感情を写さない瞳でクワタが問い掛けた。


「現在、テストルームに籠っています」


「手紙の内容ですが……「――僕に気があると思ってたのに……」と書かれています。警備員に差し入れを貰い、現在愚痴をこぼしている最中です」


「まあ、次のテストまで放っておこう……」


 クワタのその一言で、会議室は静寂に包まれる――。


「それで、次は……?」


 タナカはクワタに問い掛ける。クワタは暫く考え込んだ後、呟き始める――。


「――VRMMOに限らず、オンラインゲームってさ……ボイスチャットが便利じゃない?」


 それを聞き、ノムラが「まあ、そうですね」と回答する。――しかし、タナカはその時点で薄っすらと……気が付いていた。


「で、今のFFD試作三・一号機ってさ……?」


「? はい……」


「音声……出力だけで、入力に対応して無くない?」


「――っ」


 ――ノムラの表情が驚愕に彩られる……。その時、ノムラは思っていた「あ、やっべ」……と。


 ノムラも……そして、タナカも……オンラインゲームでは、キーボードで全部やる派だったのだ……。何故ならば「知らない人と会話って……」と思っていた……言わば、ネット内引きこもりとでも言うべきか……。


「――出来るね?」


 クワタの目は「やれよ」と語っている――ノムラとタナカに逃げる道は用意されていなかった……。


「「はい……」」


「うん、よろしい。期待しているよ?」


 そう告げると、クワタは会議室を出ていってしまった。


 ――ノムラとタナカは力無く項垂れ、クワタの後に続く様に、会議室を後にした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「タナカさん……どうしますか?」


 ノムラはどうにも腑に落ちなかった。何故ならば、ノムラの脳内では「テキストチャットで良いじゃん」と言う思いと、「そもそも、オンラインゲームで誰かと組むの怖いし」と言う思いが錯綜していた。これが、ネット内引きこもりの基本思考である。


「――テキストで……良いじゃないですか……」


 その疑問に、タナカは答える。


「確かに、何を言われたか確認しやすい……と言う意味ではテキストチャットの方が良いだろう……だが、考えてみろ――自分が、もし異世界に行った時に、目の前の人物の言葉がテキストエリアに表示されてしまった時のガッカリ感を……」


 ノムラが雷に打たれたかの様に、その場にガックリと崩れ落ちる。


「そ、そうか……ただのオンゲならともかく……VRMMOは臨場感が……現実感が大切……そう、言う……事なんですね?」


「ああ、だからこそ……音声入力が必要なんだ! いつまでも、山内に突っ込まれてばかりじゃいられない……いられないんだ!」


 そして、ノムラとタナカは固く、固く握手を交わす。


「――それで、どうしますか?」


「そうだな……取り敢えず、マイクか……」


「じゃあ、デバイス関連はタナカさんに任せますね? 私は、音声入力のアルゴリズムとか検討してみます」


 ――そして、それぞれの作業に戻ると、タナカは悩んでいた。


「確かに、音声入力デバイスは今のところ、無いが……」


 予算をどの程度使うか……タナカは迷っている。前回、大幅な改造を施したお蔭でカツカツなのだ――。


「な、なあ……ノム「あげませんよ?」……そうか」


 頼みの綱が切れてしまったタナカは考える。どうすれば良いのかと……。


 そして、FFD試作三・一号機をその手の中でクルクルと弄びながら、気付く。


「――そうか、前回……大幅な改造を施したのは、無駄じゃなかったんだ!」


 そのタナカの様子を陰で見守り、ノムラは満足そうに微笑んでいた。


「――タナカさん、何か掴んだんですね?」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「これで、どうだ!」


「――成程、タナカさん流石です!」


 ――数日後――


 ――テストルーム中央に、山内が気だるげに佇んでいる。その隣のクワタはそんな山内にイラついているのか、若干怒り顔だ。


「――来たんスか?」


「見せろ……」


 タナカは息を呑みつつ、クワタにFFDを渡す。


「――これは……マスクパーツを……?」


「ええ、前回の大幅な改造のお蔭で、口元――マスクパーツは脱着が可能になりましたからね……手を加えやすかったですよ」


 マスクパーツに取り付けられたインナーマイクを見つめ、クワタが満足そうに頷く――。


「成程、意図せずメンテナンス性が向上していたと言う訳か……やりおるわ!」


「因みに、音声入力システムとしては、チャットだけでなく、ボイスコマンドでFFDのメニューを開けるようにしています。将来的には、ゲームのメニューにも対応させるつもりです」


 それを聞いたクワタは更に機嫌よく微笑む。そう――ここ数回のテストで、ノムラとタナカは機転も効く様になって来たのだ。


「――行くッス!」


 そして、山内は静かにFFDを被り、腰にボンベの入ったサイドバッグを取り付け、FFDのマスクパーツをその口元に取り付けた。


 ――そして、テスト開始三十分後。


「――ぷはっ!」


 突然、山内がFFDを取り外した。


「ど、どうした山内!」


 焦るタナカに向かって、山内は悲しそうに微笑み告げる。


「これ……イイとこまで行ってんスけど……駄目ッスよ。マイクが……マイクがちょいちょい、口に当たって画面に集中でき無いッス……こんなんじゃ、萎え萎えッス!」


 ――そうか、山内、割と顔デカいしな……。そんな言葉を飲み込みつつ、タナカはその場に崩れ落ちた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――まあ、今回はそんなに改善は難しくないね」


 ――研究所に戻るなり、タナカが告げる。その顔は、若干気が抜けている様で、その言葉は真実であるらしい。


「――マイクを小型にすればいいって事ですよね?」


「そうだ、どうせなら入力音声の同時サンプリング数もデカ目にしとくか?」


 強気な姿勢のタナカに対して、ため息まじりにノムラが首を横に振る。


「ソフト側での対応もあるんですから、その辺、ちゃんと話し合いましょうよ……」


「わぁってるって!」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――一週間後。


「今回は早かったな?」


 クワタがニヤリと笑う。それに合わせて、ノムラ、タナカもニヤリと笑い、段ボールをクワタと山内の前に置く。


「今回は、マイクの交換だけでしたから……FFD試作三・三号機と言った所でしょうか」


「まあ、そうだな」


 タナカの説明に、無精髭をジョリジョリと触りながら、クワタが答える。すると、ノムラがズイッと前に出て話し始めた。


「ただ、それだけでは面白くないでしょう?」


「――ほう? まだ、何かあるのかね?」


 ノムラはコクリと頷く。


「折角音声入力のテストをするんです……それなら、実際のゲームを想定するべきではないでしょうか?」


「ふむ……それで?」


「はい、ですから今回はFFDのサポートとして、音声認識、会話可能なマスコットAIを取り込んでみました」


 ――ガタっ……と山内が立ち上がる。クワタはそれを目線で抑えると、ノムラに「続けろ」と促す。


「は、はい――とは言っても、少し前に流行った携帯ゲーム機の応用でして、簡単な日常会話や呼び出し応答等で疑似恋愛を楽しむ感じですね……今回はそれに、FFDの機能をプラス――つまり、まるで現実であるかの様な視界、臨場感溢れる音声、そして香りまで楽しめる体験版と言った所ですかね?」


 ――山内は既にFFDを被っていた。


 クワタは若干戸惑いながらも、告げる――。


「――よ、よろしい……ならばテストだ!」


 ――三時間後。


「や、山内! もうテストは終わった! 早く、FFDを取りなさい!」


「い、いやだ……僕は……もう、ここで過ごすんだ!」


 ノムラとタナカは考えていた「時期が悪かった」と……。合コンに失敗したばかりの山内にとって、自分を全肯定してくれるキャラはむしろ毒だったのだ。


「――仕方ない……ノムラ、強制終了だ。山内は俺とPLで抑える!」


 タナカとクワタが山内の元に駆けつけ、そのまま椅子に縛り付ける。


「い、今だ! 押せ、タナカァ!」


「――っ! はい……一、二、三……強制終了成功です!」


 ――山内がFFDを取り外し、その場に崩れ落ちた。そして、タナカが山内の肩を力強く掴み、揺さぶる。


「山内、何故だ! 何故こんな事を!」


「――ぼ、僕だって……一度位、お、お持ち帰りを成功させたかったんだ!」


 それが、ゲーム内の事なのか……合コンの事なのか……ソレは、山内以外にはもう、分から無い事だった。ただ、タナカはそんな山内を見ていられず――。


「クッ……や、山内ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 ――タナカはそのまま、力強く山内を抱き寄せた……。


※一つ訂正、全五話と言っていましたが、ソフトウェア編を忘れてました。ソフトウェア編が二話で、全七話予定です。

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