ランナウェイ
※残酷な描写あり
もう、苦しい。
あの男に付けられている事に気付いてから必死に逃げているけれど、振り切れる自信がまったくない。
一定の距離を保って付いてくるその男は影のような黒いスーツを着ていた。
私が何をしたというのか。
私はただ教授の荷物を受け取って指定の場所まで届けただけだというのに。
苦しい。
曲がり角であいつは見えなくなった。
今だ!
私は橋の手前の小さな道を川に向かって下りる。
見つかる前にやり過ごせばきっと助かる!
舗装面は途中から途切れ、砂利に足を捕られながら一気に川のそばまで駆けた。
慌てて橋の下に潜り込み、橋桁の足元に小さくなる。荒い息をなるだけ潜めるため細く長く息を吐き出して、吸う。
ドッドッドッ…と心臓の音が耳元で聞こえる。
まだか。まだ通り過ぎないか。もういいだろうか。いや、もう少し待とう。
恐ろしく時間が過ぎるのが遅く、私は目を閉じたまま200を数えた。
200を数え、目を開けるとそこには男が立っていた。
私は声も出せないまま男を見た。
「お前はこのカバンの中を見たのか」
男の手には私が預かり、確かに届けた教授のアタッシュケースがあった。
カバンの中なんて見る訳が…。
そう思いながら、ふと、ケースの留め金がうまく噛んでいなくて、一度閉め直した事に気が付いた。
だが、それだけだ。
パス。と小さな音がして、私の身体が大きく痙攣した。
何が起こったのか分からないが、身体が傾いで地面に倒れた。
胸が熱い。血が出ている。何故?
声を出そうと口を開くと、ごぼごぼと血があふれでた。
いき、いきをすわなくちゃ。でも鼻からも血はあふれ、のどいっぱいに血がつまってとてもじゃないけど、いきができない。
そのうちに液晶がしぬみたいに視界のすみからくろいしみがひろがっていき、わたしのめのまえはまっくろになった。
もうしんぞうのおともきこえない。