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急な方向転換に注意





斎様はむくれたように口をへの字に曲げる。拗ねた子どものような仕草が、普段の大人びた様子とのギャップで妙に可愛らしい。この状況でなければ思わず和んでしまっただろう。涎も垂れたかもしれない。じゅるり。


「分かった、もう良い」


簡単に現状を説明しよう。私は今、自宅リビングのソファの上で斎様に圧し掛かられている。有り体に言えば押し倒されている。見る人が見れば、うふんあはん、な色気のある展開に見えるだろう。悲しめば良いのか何なのか、反応に困るが慣れた状況である。


そんな中で、いつも通り強引に事を押し進めようとする斎様に対し、私もまたいつも通り抵抗をした。こういう事は段階が大事である。何より心の準備が追い付かない。斎様はこの事に関して、少々強引すぎるきらいがある。この年頃の男の子とは、そういうものなのかもしれないが。


「もうしないから」

「しないって、言うのは……?」


強引に事を進めようとする斎様は、突然その手をぴたりと止めてその体勢のままそう言った。突然の変化に驚き力が抜けたが、その隙に油断したなとばかりに力が加えられる事もない。


「こういう事」

「こういう事?」

「押し倒したりとか、無理に押し進めようとか」


その言葉の通り、斎様はあっさりと身を起こすとソファに転がっていた私の両脇に手を差し入れ、そのまま小さい子にするように私の身を起こさせる。ついでに斎様自身が外し掛けていた私のブラウスのボタンまで止めてくれた。


「その代わり紫緒は薄着を止める」

「え…九月末とはいえ、まだまだ暑いのに」

「そのくらい我慢するように。良いね?」


斎様の突然の方向転換に戸惑いながらも曖昧に頷けば、少しだけ微笑んで頭を撫でてくれる。ああ、至福。………いやいやいや、今はそうじゃなくて。


「え、え?何で突然?昨日まで私の静止に耳も貸してくれなかったじゃないですか」


どれほど必死に抵抗し、隙を見て逃げ出していた事か。斎様は常にこちらの都合や心の準備などには無関心である。


「まあ俺も色々考えてはいるし」

「色々ですか?」

「それなりにね」


それだけ短く答えると、斎様は至極あっさり立ちあがる。躊躇いのない動きでリビングの出入り口に向かうとそこでようやく私を振り返った。私はと言えば、斎様の突然の方向転換について行けず、ソファの上で座り込んだままである。


「俺は部屋に戻るから、夕飯になったら呼んで」


そして、迷いなく退出する。

斎様は元々それほど表情豊かな人では無い。時々微笑んで、時々不機嫌そうに眉を寄せるくらいだ。そんな人だからこそ、斎様の心情を察するのは至難の業である。

しかし、私は前世から続く盲執と情熱で、比較的よく斎様の心情を察せられていると思っていた。彼の些細な変化にいつだって注意を払い、その挙動を見逃さないよう努めた。


そんな斎様の心情が初めて読めなくなってきたのは、高校に入学したときの事だった。それは、私が自分の気持ちにも斎様のお気持ちにも気付かなかったからそんな事になってしまったのだと、今では分かっている。

しかし、両思いであるはずの今、再度斎様のお考えが読めなくなった私は、拭いきれない不安を覚えたのだった。








読んで頂きありがとうございます!

前どこかで言ってた二部的な何かです。つまりは目指せ○○○です。


蛇足にならないよう頑張ります。



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