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たかがプリクラと侮るなかれ





私には夢があった。前世で乙女ゲームをしながら、少女漫画を読みながら、ホクホクと温め続けて来た夢だ。

約三十年越しのその夢とは、素敵な彼氏と制服デートをする事である!


何度ニヤニヤと妄想し続けた事でしょう。お洒落な制服を来て、大好きな彼氏と手を繋いで街へ出掛けるのだ。正確な没年は不明だが、おそらく高校生で人生の幕を下ろした彼氏いない歴=年齢だった前世の私も、まだその夢を諦めてはいなかった。その事を思えば、前世の私は高校入学後、割と早めにこの世を去ったのかもしれない。高校生活も後半になればそんな夢も見なくなるわよ…、と前世で乙女ゲーム仲間だったお姉さんが言っていたので、その予想はあながち間違っていないだろう。


しかし、そんな私がなんと!今世では!彼氏を手に入れた!それも、気後れしてしまいそうな高スペック彼氏である!


「じゃあ、普通に手を繋げば良いのに」

「違います!そうなんですけど、最後まで聞いて下さい!」


先日、ようやく斎様に私の気持ちが届き、所謂お付き合い……むふふ……をする事になった。若干、そう若干、やけに斎様がゴールしか見えていないのが気に掛かってはいますけども、私は概ね幸せなのである。


そんな中で、いつものように一緒に下校しているときにふと『制服デート』って憧れだったんですよね、と漏らしてみた。すると、斎様がじゃあ手でも繋ぐ?と左手を差し出してくれたのだが、私が思わず躊躇ってしまった為に、その理由を語る事になった。


「繋ぎたいのは山々なんです!でもでも、手汗かきそうで恥ずかしいんです!」


恋愛初心者として、それは躊躇うのに十分な理由なのです。


「ああ、なんだ。そんな理由?」

「え、あ、ちょっ、私の話聞いてました?」


それなのに、斎様はあっさりと私の右手をさらい、手を繋いでしまう。ああ、じわじわと!緊張や気恥ずかしさから汗が滲むのが自分で分かる。だって顔も異様に熱くて変な汗をかいている。


「小さい頃はほぼ毎日繋いでいたし、中学生やこの間だって繋いでいたのに、何を今更」

「だってあの頃は斎様の事を意識してなかったんです!恋愛対象じゃない人と手を繋いだってそんなそんな………って痛い痛い痛い!!」


素直に理由を吐露しただけなのに、瞬間的に繋いだ斎様の手に握力が込められた。めごっ!めごっ!っていった!


「いや、ここはむしろ過去形である事を喜ぶべきか……」

「そうです!喜んで下さい!」

「紫緒が言うな。そもそも紫緒が馬鹿じゃ無ければこんなに遠回りする事も無かったのに」

「そ、そこはもう過去の事という事で……」


明らかに釣り合わない雲の上の人に対し、恋愛モードで居続けるのは精神的にかなり辛いものがある。目を逸らし続けて、感情を宥めて、気付かないフリをしてしまった私も致し方なかった、という事にしては頂けないだろうか。


「うう、良いんですね?じわじわ手汗かいて何だかべちょっとして、ちょっと気まずい、みたいになっても良いんですね!?」

「そんな事で気まずくならないし、俺が繋ぎたいんだから紫緒の意見は受け付けてない」

「何でそんなイケメンな台詞を言うんですかー!!」


何だか物凄く恥ずかしいじゃないですか!こちとら恋愛偏差値がマイナスに振り切っているんですよ!枕に顔を埋めてベッドの上でごろごろと身悶えたくなるレベル!


「それで?どうする?制服デートしてみたかったならこのままどこか行く?」

「そうですねえ。いつものスーパーじゃ味気ないですし……あ!」


せっかくだしどこかに、と考えて妙案が浮かぶ。近場で、手軽で、何より彼氏が出来たら、と思っていたもう一つの憧れが果たせる場所。友人が幸せそうに隠し持っていたあれを、私も手に入れてみたいと思った。


「斎様、ゲームセンターに行きたいです!」









機械に掛けられた、その目に痛いほどキラキラと輝くカーテンを前にして、斎様の顔が若干引き攣った事には気付いた。が、しかし。


「さあ、行きましょう!私の好きな所で良いとおっしゃって下さったのが運の尽きです!」


我ながらカーテンに負けないくらい顔を輝かせて指差したのは、プリクラ機である。ちょうど空いていた一機に、斎様を引きずり込む。


「ああいうのって、男は行かないものじゃない?」

「大丈夫です!わざわざ、さっき男性もオッケーの所をスマホで探してここに来たんですから!」

「こういうときだけ周到な……」


斎様のご尊顔が微妙に歪んでいるが、そんなお顔も相変わらずお美しいので問題ない。気は進まないようだが断固拒否、という様子でもなく、私が促せば渋々カーテンの中に入ってくれた。


「最悪一枚だけ撮って下さったら、後はもう映らなくて良いので!」


そう斎様を宥めながら、プリクラ機をタッチし、操作を進める。色々なモードがあるが、私の目的を果たす為にも全てノーマルなタイプを選ぶ。美白タイプももちろん下手にいじらない。今時のプリクラ機は最後の落書きでも目を大きく、睫毛を長く、足を長く、など色々と加工出来るのだが、元々の顔立ちが異様に整っている斎様に諸々の加工が適用されると逆に本来の魅力を損なってしまう可能性があるので全て使わない。その代わり、私もありのままに近くなってしまうが、そこは大人しく受け止める。ノーマルモードでも三割増しに移るのがプリクラだしね!


「はい、斎様。こっちです、こっち!真ん中に立って私と向かい合って下さい」

「何これ、笑えば良いの?」

「あ、笑わなくても良いですよー」


カメラに対し、お互いに横顔が映るように向かい合う。撮影までのカウントダウンのアナウンスに慌てて斎様の手を取った。


「で、ちょっと屈んで下さい。あ、はい、そうです。それで……」


タイミングを合わせ、掴んだ斎様の腕を支えに身を乗り出す。そして、そのままキスをした。ちょうどその瞬間、シャッターを切る効果音がカーテン内に響く。

その後、ディスプレイに確認の為にその写真が映しだされた。


「わぁあ、意外と綺麗に取れました。これが憧れのちゅープリです………いやしかし、こうして見るとやっぱり少し恥ずかしいものがありますね」


流石に大きなディスプレイでキスをしている写真を見せられると直視し辛い。思わず地面に目線を落とした。


「あ、斎様、私の目的は果たしました。残りは無人でパパッと撮っちゃうので外でお待ち頂けますか?」


そう言って振り返った瞬間、何故か非常に複雑そうな顔をした斎様に、頭をガッと掴まれた。何故だろう、少しわなわなと震えている気がする。


「意味が分からない……」

「え、何がですか?」

「何故、今のを普通に出来て、手を繋ぐのを躊躇うのか、意味が分からない」

「そりゃあ、やっぱり好きな人には少しでも良く想われたいので汗はちょっと………って何で頭をぎゅーぎゅー抑え込むんですか!?」


頭に乗せられた手に力が込められる。ち、縮む!私のさして長くもない首が縮む!


「どうしようか。このどうしようもない衝動を……」

「とりあえず頭を押さえるのを止めましょう!」

「いや、本当にもう、何と言うかもう……………いい加減にしろ」


結局、プリクラの撮影が終わるまで、斎様は私の頭を押さえるのを止めて下さらず、その様子がばっちりとプリクラとして残ってしまった。この物凄く苛められている感満載のプリクラは別に求めていなかった!


半分に切り分けたプリクラを渡すと斎様は物凄く、それはもうあまり見る事の無い、物凄く微妙な顔をして溜息を吐くと一応受け取ってくれたのだが、結局何がそこまで斎様を混乱させたのかについては、詳しく解説して下さらなかった。


斎様は時々、よく分からない。良く言えばミステリアスなのである。











読んで頂きありがとうございます。

たまには斎を幸せにしてあげよう、と思って書きだした。しかし、書き終わった斎が微妙に幸せそうではないのです。不思議。

甘くしようと思ったのに、甘い、のか…?みたいな。


ところで、もう何年もプリクラを撮っていないので、プリクラの事をよく分かっていません。変な事を言っていないでしょうか?もし、おかしな所があればすぐに修正しますので、教えて頂けると幸いです。



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