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幸せの白い日



※注意※

これは二人が高校に入学する前、つまりはまだ斎が真実を知らなかった日のホワイトデーのお話です。

軽い気持ちで書いたので、軽い気持ちで読んで頂ければ幸いです。

糖度高めですが、このお話の正しい読み方は『不憫(笑)』です。







斎様はソツがないと思う。良い意味で抜け目がないというか。


「はい、紫緒。先月はありがとう」


斎様のお部屋に呼び出されて手渡されたのは、ホワイトデーのお返しである。私が毎年バレンタインには日々の感謝を込めて何かしらチョコを用意しているのだが、それに毎回律義にお返しをくれるのだ。ホワイトデーだけでなく、誕生日も同じような感じである。時々、この人顔が良くて頭が良くてスポーツが出来て家柄が良くて気が利く上にマメとか、ちょっと完璧すぎてもうどうするの、と心配になる。こんな人が存在して良いのか。日本寛容すぎるだろう。


「あぁあああ!し、しかもこれ!私が可愛いなー、ってチラ見してたバレッタとシュシュじゃないですか!」


確かに一緒に歩いているときに見掛けたものだけど、手に取ったら欲しくなるから、って近寄りもしなかったのに!薄いベージュのリボンバレッタとラベンダー色のシュシュの色合いや形がすごく可愛いな、と思いながらもチラ見しただけで目を逸らしたのに!


「欲しそうに見てたし、好きそうだと思ったから」

「わぁああ、大正解です!すごく私好みで、すっごく嬉しいです!ありがとうございます、斎様!」

「ん、良かった」


思わず諸手を上げて喜べば、斎様が頭を撫でてくれた。思わずニマニマと笑みが浮かぶ。こんなに優しくて思いやりのある方の側付きで、私はなんて幸せ者なのだろう、としみじみと噛みしめた。


「貸して、付けてみたい」

「え、え?良いんですか?」

「まあ、ハーフアップくらいしかできないけど」


後ろ向いて、と促されて素直に従う。斎様に髪を纏めてもらうとか、私はなんて幸せ者だろうか。前世での反省を活かし、手入れを欠かさずに伸ばして来た甲斐があるというものだ。

私の髪は、真っ黒のストレートである。欲を言えばゲームのヒロインのように色素薄めのふんわりヘアに憧れるが、おそらく家系なのだ。母を見て納得した。


「はい、出来た」

「ありがとうございます!」


お礼を言って、付けた雰囲気を見たくなり、鏡を求めて立ち上がろうとする。斎様の部屋には鏡が無いので一旦部屋を出ないといけないのだ。斎様の器用さや触れた感覚ですごく綺麗に纏めて下さったのは分かるのだが、せっかくなので鏡で見て喜びに浸りたかった。

しかし、立ち上がろうと膝を立てた私の腕を引いて、斎様がその行動を阻む。少し驚いている内にあっさりと引き寄せられ、腕の中に閉じ込められる。ハグである、ハグの状態である!


「い、斎様!?」

「大丈夫、可愛い可愛い」


斎様は軽くそう言ってそのまま私の頭を撫でる。


「こ、こういう事は、そんな気軽にやっちゃいけないんですよ!?」


私が思わず注意をすれば、斎様は頭を撫でる手を止めて少しだけ身体を離した。自身より低い位置に在る私の顔を覗き込んで、どことなく不安そうに切なさを浮かべる。


「紫緒は、嫌?」


その瞬間、私の中の何かが切れた。


「いいいいい嫌な訳ないじゃないですかー!むしろ超可愛いじゃないですか!何ですかもう、格好良い上に可愛いとかなんですか!最強ですか!!」

「あーうん、はいはい」


あまりの胸のときめきに思わず抱きしめれば、至極適当な返事を頂いた。しかし、あの可愛さには抗えない。いいんだ。来月には、斎様がヒロインと出逢う高校生になるので、抱きしめ収めである。そろそろ斎様のお姉さんも卒業しないといけないのだ。


「明日からはもうダメですからね!中学も卒業しますし!」

「ああうん、はいはい」

「斎様、聞いてないですよね!?」

「聞いてる聞いてる」


二回繰り返す事で恐ろしく信憑性がない。どうしよう、私は斎様を全面的に支持しているが、この返事を全く信じられない。

斎様は、肉親の愛に飢えた人だから、こうして私にそれを求めているのかもしれないけれど…………あ、だめだ。何だか無性に切なくなったので、斎様を抱きしめる腕を強めておく。


「斎様、来月からは高校生ですね。私の我儘で家を出る事になってしまいましたけれど……」

「そんな事はどうでも良いんだよ。紫緒が一緒なら」


斎様はそんな可愛い事を言う。ささやかな微笑みが何だか無性に切なくて、私は祈るような気持ちで口にした。


「斎様、幸せになりましょうね」


きっと、前世で大好きだったゲームの通り、斎様は高校でヒロインと出逢う事が出来る。ヒロインと接して温もりを知り、喜びを知り、きっと斎様は幸福になれる。もう二度と、ご両親を見送るときのあの諦めたような目をせずに済むようになるのだ。

十年前に斎様に出逢って以来、私はただそれだけを願ってきた。始めは、ゲームのファンとしての気持だった。けれど今は、実際に斎様と触れ合い、その複雑な内面や小さな優しさを知り、純粋に人としてこの人に幸せになって欲しいと思うようになった。ただ、それだけを願ってきた。


「俺はもう、十分幸せだよ」


そんな哀しい事を言う、この寂しい人を幸せにする為に、私はこの世界に生まれ変わったのだと思うから。







読んで頂き、ありがとうございます。

二日前にふとホワイトデーである事に気付き、書いてみました。いえね、一瞬斎があまりに幸せそうで不憫になり、止めようと思ったのですが、流れを思いついたので思わず書いてしまいました。

この頃の斎は穏やかです。紫緒が何をしても広い心で受け止めます。心の余裕って大切ですね。



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