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黄昏落花  作者: 空月
5/11

◆似て非なる、


 ……『俺』が存在する。

 それはたぶん『奇跡』なんだろう。

 いいことなのか、悪いことなのかは、わからないけど。

 ただ、それを――『意味のない』ことにはしたくない、って。

 ……そう、思う。



* * *



「……」


 扉を前に、ちょっと考える。

 この先は『ゆうにい』の部屋。

 この邸における、彼の領域。

 誰も、彼の許可なくして踏み入ることも、覗くこともできない場所。

 『ゆうにい』の力は『宮内』で1番強いから、そういうことができる。


 ――だけどそれも、『俺』には関係ない。


「…………」


 でも。

 考える。

 他人の部屋に入るときは、ノックをするものだって、りっかが教えてくれた。

 『最低限の礼儀』として、するべきだって。

 『俺』はそれを覚えてる。知ってる。

 なのにそれを実践しなかったら、『俺』はそれを知らないも同然ってこと。

 少なくとも、そうとられても仕方ないってこと。

 ……それは、いやだ。

 なんか、いやな気がする。


 扉を見る。

 ノックするために、手をあげる。


「……何やってる」


 閉まってた扉が開いて、低い声がした。

 ……『ゆうにい』だ。


「ンなとこでつっ立ってんな。邪魔だ」


 ……扉の前にいただけなのに。


そう思ったのが伝わったみたいに、『ゆうにい』が続ける。


「お前の気配はうざったいんだ。用があるならとっとと入れ」


 吐き捨てるみたいに言われるけど、『ゆうにい』は『宮内』関係には、基本的にこんな感じだ。

 例外は、りっか。


 『ゆうにい』は、りっかに対しての感情を、『同情』だって言った。

 『普通』に生きて、『普通』に死ねるはずだったのに、そうじゃなくなった、りっか。

 『宮内』を嫌ってる『ゆうにい』だから、きっと『同情』以外の気持ちも、そこにあるんだろうけど。

 『ゆうにい』が、りっかをたすけようとしてるのは、確かだから。


 だから、『俺』は。

 ……『ゆうにい』に協力するって、決めたんだ。


 最初から、そう『決まってた』んじゃなくて。


 『俺』の意思で、『決めた』から。


 りっかはきっと、余計なことだって言うだろうけど。

 でも、『俺』がしたいことをできるのは、あと少しだけだから。



 ごめん。

 ごめんね。

 ごめんなさい。



 届かない言葉を、胸の中だけで呟いた。



 『俺』とりっかは、似てる。

 似ているけど、違う。

 ……そんな、存在。


 りっかが居たから、『俺』は『俺』を得た。

 だから、りっかが望むなら、りっかの望む通りにしようと思ってた。


 見たくないものは、見なくていい。

 期待を持ちたくなければ、持たなければいい。

 逃避の末の受容でも、諦観の末の選択でも。


 そこにりっかの意思があるなら、それでいいと思ってた。

 ……思ってた、けど。

 思ってた、はずだった、けど。

 たぶん、それじゃだめなんだ。

 それじゃ、だめだよ。


 ……りっか。




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