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一人百物語  作者: 五月蓬
1/9

間違い電話

ホラーが大好きな五月蓬です。


大好きなだけで話を作るのが得意という訳ではありません(予防線)


百物語と言うとおり、一話完結のホラーの短編集です。


果たして百の話が出揃ったとき、何が起きるのか?

それとも百の話がでる前にネタが切れてしまうのか?(汗)


暖かい目で見守ってやって下さい(-人-)





「もしもし?わたしだよ」




 それは間違い電話だった。俺は見たこともない電話番号が表示される携帯を取り、聞いたこともない女の声に耳を傾けた。


「番号間違ってますよ」


 俺は簡単に言葉を返す。


「ごめーん。加奈子だよ」


 別に名乗らなかったから間違いだと言ったわけではないが。


「いえ、本当に人違いですよ。僕、あなたのこと知りませんし」


 俺は再び間違い電話だと教えてやる。


「ごめんね。風邪ひいちゃって声が変わってるから分からないよね。加奈子だよ。佐伯加奈子」


 確かに声がかすれているが、そもそも俺は佐伯加奈子を知らない。


「知りませんよ。人違いですって」


 すると佐伯加奈子はかすれた声を少し震わせた。


「……なんで意地悪するの?お話してくれてもいいじゃない……私のこと、嫌いになっちゃったの?」


 面倒臭いな……


 俺は顔をしかめた。名乗るのは気が引けたが、この女はそうでもしなきゃ引かないだろう。


 俺は名乗ることにした。


「僕は田村です。人違いでしょう?」


 流石に引くだろう。そう思っていたが、佐伯加奈子はさらに声を震わせた。


「どうしてそんな嘘吐くの?酷いよ……」


 駄目だ。最初からとっとと切れば良かった。

 俺は黙って佐伯加奈子の電話を切った。


 ぷつりと佐伯加奈子の声は途切れる。


「気持ち悪いな」


 俺は携帯をたたんであのかすれた声を思い出す。

 少し寒気を感じた。




 ♪♪♪♪♪♪♪




 その時鳴り響いた着信音に俺は肩を弾ませる。


 携帯を再び開くとそこには




  佐伯加奈子




 さっき見たばかりの番号とその上に表示されたその名前。


 またか……!


 気味が悪いと思いつつ、聞き分けのない佐伯加奈子に苛立ちを覚えた俺は、無視すれば良かったものを、怒りに任せて電話を取った。


「おい!間違いだって言ってんだろ!しつこいぞ!」


 俺の怒声に対し、佐伯加奈子は……


「何でいきない切ったの!?酷い!」


 それを無視して逆に声を荒げた。


「私、何か悪いことした!?嫌われることした!?ねえ!言ってくれなきゃ分かんないよ!」


 駄目だ。話を聞く気がない。




 俺は再び電話を切る。


 何相手にしてんだ馬鹿馬鹿しい。


 怒りに任せて電話を取った自分に呆れる。

 ただ相手にしなければいい。それだけなのだ。




 ♪♪♪♪♪♪♪♪



 再び着信音。




   佐伯加奈子




 しつこいな……!


 俺は着信を無視する。




♪♪♪♪♪♪♪……




 しばらくの鳴り響いた着信音がようやく鳴り止む。


 しかし、




 ♪♪♪♪♪♪♪♪



   佐伯加奈子




 再び着信。


 まさか何度もかけてくる気か!?


 俺は電話の電源ボタンに指をかける。着信音は消え、しばらくして携帯の電源は落ちた。




 何なんだよ気持ち悪い……!




 俺はあの声を思い出して、再び身震いする。


 しかしもう大丈夫だ。携帯の電源は切った。


 俺は気分転換にテレビをつけた。




 偶然映ったのはニュース番組。


『……さんは病院に運ばれましたが間もなく死亡しました』


 どこかの男の死を伝えるニュース。


 それに目を奪われたその時、











♪♪♪♪♪♪♪♪♪



 電源……切ったよな?


 俺は携帯電話に視線を落とす。


 着信音を奏でる携帯には、切った筈の携帯には、その文字がはっきりと浮かび上がっていた。




   佐伯加奈子




 震える手で携帯を握る。そしてニュースが耳に飛び込む。


『……佐伯容疑者が走り去るところが目撃されており……』




 俺の背筋に嫌なものが走る。


 震える手で、俺は何故かその電話を取っていた。




「……そんなに怒ってるんだ。包丁でお腹を刺したこと」




 沈んだかすれ声。

 俺は震える声で訴える。


「ほ、本当に人違いなんだ!」




 しかし佐伯加奈子は電話先で笑い、俺を解放してはくれない。


「あははは!もう私のこと、嫌いになっちゃったんだ!あはは!あははははは!」




 狂った笑い声。そして……




「……じゃあもう一度刺しに行くから」



 ぷつり




 吐き気がした。ヤバい、ヤバい、ヤバい!


 何なんだ!?何なんだ!?佐伯加奈子って今のニュースの!?包丁で刺したって……それに今から刺しにいくって……!?




 待て……落ち着け……人違いなんだ。別に俺を刺しにくるんじゃない。刺された男は死んでいる。そうだ。大丈夫だ。


 でも電話を掛けてきた佐伯加奈子は男を刺して逃げているやつだ。警察に連絡したほうが……




 落ち着き始めた俺は携帯を再び取り、百十番に掛けようとする。その時、終わりにさしかかったニュースが







『……佐伯容疑者はマンションの屋上から飛び降り、病院に運ばれましたが間もなく死亡しました』




 ……え?




 俺は番号を打つ手を止める。


 佐伯は死んでいる?


 なら俺に間違い電話をかけてきたのは?


 そもそも何で電源を切っていたのに電話は掛かってきた?




 なんなんだ、あの間違い電話は?







 ♪♪♪♪♪♪♪♪




   佐伯加奈子




 携帯電話のディスプレイにその名前が浮かび上がる。







「ほら」




 電話を取っていないのに、そのかすれた声は小さく響いた。




「間違い電話じゃ……ないじゃない」




 携帯のディスプレイにかかった影。その主を俺は振り返り……








間違い電話にはご注意を

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