間違い電話
ホラーが大好きな五月蓬です。
大好きなだけで話を作るのが得意という訳ではありません(予防線)
百物語と言うとおり、一話完結のホラーの短編集です。
果たして百の話が出揃ったとき、何が起きるのか?
それとも百の話がでる前にネタが切れてしまうのか?(汗)
暖かい目で見守ってやって下さい(-人-)
「もしもし?わたしだよ」
それは間違い電話だった。俺は見たこともない電話番号が表示される携帯を取り、聞いたこともない女の声に耳を傾けた。
「番号間違ってますよ」
俺は簡単に言葉を返す。
「ごめーん。加奈子だよ」
別に名乗らなかったから間違いだと言ったわけではないが。
「いえ、本当に人違いですよ。僕、あなたのこと知りませんし」
俺は再び間違い電話だと教えてやる。
「ごめんね。風邪ひいちゃって声が変わってるから分からないよね。加奈子だよ。佐伯加奈子」
確かに声がかすれているが、そもそも俺は佐伯加奈子を知らない。
「知りませんよ。人違いですって」
すると佐伯加奈子はかすれた声を少し震わせた。
「……なんで意地悪するの?お話してくれてもいいじゃない……私のこと、嫌いになっちゃったの?」
面倒臭いな……
俺は顔をしかめた。名乗るのは気が引けたが、この女はそうでもしなきゃ引かないだろう。
俺は名乗ることにした。
「僕は田村です。人違いでしょう?」
流石に引くだろう。そう思っていたが、佐伯加奈子はさらに声を震わせた。
「どうしてそんな嘘吐くの?酷いよ……」
駄目だ。最初からとっとと切れば良かった。
俺は黙って佐伯加奈子の電話を切った。
ぷつりと佐伯加奈子の声は途切れる。
「気持ち悪いな」
俺は携帯をたたんであのかすれた声を思い出す。
少し寒気を感じた。
♪♪♪♪♪♪♪
その時鳴り響いた着信音に俺は肩を弾ませる。
携帯を再び開くとそこには
佐伯加奈子
さっき見たばかりの番号とその上に表示されたその名前。
またか……!
気味が悪いと思いつつ、聞き分けのない佐伯加奈子に苛立ちを覚えた俺は、無視すれば良かったものを、怒りに任せて電話を取った。
「おい!間違いだって言ってんだろ!しつこいぞ!」
俺の怒声に対し、佐伯加奈子は……
「何でいきない切ったの!?酷い!」
それを無視して逆に声を荒げた。
「私、何か悪いことした!?嫌われることした!?ねえ!言ってくれなきゃ分かんないよ!」
駄目だ。話を聞く気がない。
俺は再び電話を切る。
何相手にしてんだ馬鹿馬鹿しい。
怒りに任せて電話を取った自分に呆れる。
ただ相手にしなければいい。それだけなのだ。
♪♪♪♪♪♪♪♪
再び着信音。
佐伯加奈子
しつこいな……!
俺は着信を無視する。
♪♪♪♪♪♪♪……
しばらくの鳴り響いた着信音がようやく鳴り止む。
しかし、
♪♪♪♪♪♪♪♪
佐伯加奈子
再び着信。
まさか何度もかけてくる気か!?
俺は電話の電源ボタンに指をかける。着信音は消え、しばらくして携帯の電源は落ちた。
何なんだよ気持ち悪い……!
俺はあの声を思い出して、再び身震いする。
しかしもう大丈夫だ。携帯の電源は切った。
俺は気分転換にテレビをつけた。
偶然映ったのはニュース番組。
『……さんは病院に運ばれましたが間もなく死亡しました』
どこかの男の死を伝えるニュース。
それに目を奪われたその時、
♪♪♪♪♪♪♪♪♪
電源……切ったよな?
俺は携帯電話に視線を落とす。
着信音を奏でる携帯には、切った筈の携帯には、その文字がはっきりと浮かび上がっていた。
佐伯加奈子
震える手で携帯を握る。そしてニュースが耳に飛び込む。
『……佐伯容疑者が走り去るところが目撃されており……』
俺の背筋に嫌なものが走る。
震える手で、俺は何故かその電話を取っていた。
「……そんなに怒ってるんだ。包丁でお腹を刺したこと」
沈んだかすれ声。
俺は震える声で訴える。
「ほ、本当に人違いなんだ!」
しかし佐伯加奈子は電話先で笑い、俺を解放してはくれない。
「あははは!もう私のこと、嫌いになっちゃったんだ!あはは!あははははは!」
狂った笑い声。そして……
「……じゃあもう一度刺しに行くから」
ぷつり
吐き気がした。ヤバい、ヤバい、ヤバい!
何なんだ!?何なんだ!?佐伯加奈子って今のニュースの!?包丁で刺したって……それに今から刺しにいくって……!?
待て……落ち着け……人違いなんだ。別に俺を刺しにくるんじゃない。刺された男は死んでいる。そうだ。大丈夫だ。
でも電話を掛けてきた佐伯加奈子は男を刺して逃げているやつだ。警察に連絡したほうが……
落ち着き始めた俺は携帯を再び取り、百十番に掛けようとする。その時、終わりにさしかかったニュースが
『……佐伯容疑者はマンションの屋上から飛び降り、病院に運ばれましたが間もなく死亡しました』
……え?
俺は番号を打つ手を止める。
佐伯は死んでいる?
なら俺に間違い電話をかけてきたのは?
そもそも何で電源を切っていたのに電話は掛かってきた?
なんなんだ、あの間違い電話は?
♪♪♪♪♪♪♪♪
佐伯加奈子
携帯電話のディスプレイにその名前が浮かび上がる。
「ほら」
電話を取っていないのに、そのかすれた声は小さく響いた。
「間違い電話じゃ……ないじゃない」
携帯のディスプレイにかかった影。その主を俺は振り返り……
間違い電話にはご注意を