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レクイエム・フォー・ア・ガール  作者: 久里ワタル
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(7)

「カズヤさんはギャンブルって興味あります?」

 その日のパチンコも終わって、再び喫茶店で話している最中に、おれはそう言い放った。

 とたんにカズヤは目を輝かせる。

「もしかして、そういう違法なとこ? ワタルってそういうところ知ってんの?」

 おれは少しを間を開けてから、こくりとうなずく。

「まあ一応、おれもヤクザの端くれですからね。で、もし良かったら、今からおれが案内しますよ?」

 カズヤは深く頷いた。

「マジ? 正直行ってみたいな。案内してくれんの?」

 おれは素早く携帯をポケットから抜くと、知り合いのヤクザに電話をかける。

「あ、もしもし、ワタルですけど……」

「おお、ワタルか! どうした?」

 陽気な声が返ってくる。二十七歳にして若頭補佐まで登り詰めた、大橋組の三島という人だ。あまり規模の大きくない違法カジノの管理を任されている、(ヤクザの中でそういう言い方をするかはわからないが)期待のホープだ。

「お久しぶりです。今日三島さんの店に行きたいんですけど、大丈夫ですか?」

 三島は電話の向こうでクックと小さく笑い声を出す。

「お前がウチに来たいなんて、珍しいな。どうだ、ウチの組に入る決心がついたのか?」

「いや、今日は客として行かせてもらいたいんです。あと、おれの知り合いも、一人……」

「そうか、残念だな。……まあいい。いつでも来ていいぞ。今日は客も少ないからな」

 おれは携帯を切ったあと、カズヤを連れて三島の元へ向かった。

 三島の店は、津島駅という駅から徒歩で十五分のところにある。その辺りはまだ普通に都会で、高層マンションは立ち並んでいるし、近くには巨大なショッピングモールだってある。そんなところによく店なんて出すなとおれは思うが、彼に言わせれば、「いろいろと都合が良いから」だそうだ。その都合については何となく察しがつくが、おれがそれを口に出すつもりはない。興味がないしね。

 一見なんの変哲もない居酒屋、そこに彼の店は存在する。

 カズヤは不満げな目をおれに向けながら跡をついてくるが、おれが合い言葉を言って居酒屋の奥に案内された後は、感嘆のため息をついた。

 それは階段を下りた地下にあった。頑丈そうな扉の前には、屈強なヤクザが二人、不審な人物や警察が来ないか目を光らせている。

「三島サンの知り合いのワタルっていいます。通ってもいいですか?」

 おそらく三島にすでに話は聞かされているのだろう。ヤクザは何も言わずに小さく頷いて、目の前の扉を開いた。

 まだ夜の七時だったが、怪しいライトで照らされた店の中には五十人ほどの客がいた。皆おれには買えそうもないような高級ブランドのスーツやドレスを着こなし、各々サイコロを振って歓声をあげたり、カードをめくって落胆の声をあげたりしている。そんな中でジーンズ姿のおれたちはひどく目立っていたが、おれは大して気にはしなかった。カズヤはきょろきょろと辺りを見回しながら、バツが悪そうに、「おれたちって場違いじゃないか?」と何度も呟いている。

「よお、ワタル、来たな。そっちが客か?」

 三島は二十七歳のわりにはかなり大人びた顔立ちをしている。まあハッキリ言えば老けているわけだが……。うっすらと残している髭がその渋い顔によく似合った。三十五だと言われてもだれも疑問は抱かないはずだ。この人とも、いろいろなことがあって知り合い、よく世話になってる。会う度に組に勧誘されるのは面倒くさいが。

「どうも三島さん、お久しぶりです。こっちはカズヤさんっていって、おれがお世話になっている人なんですよ。遊んでいってもいいですか?」

「もちろん。好きなだけ遊んでいけよ。カズヤ君、だっけ? おれはちょっとコイツと話があるから、適当に遊んでてくれ。案内は部下のやつに頼むからさ」

 そういうと三島は一人の男を呼び、カズヤを案内させ始めた。おれは三島に連れられ、カジノの中にあるバーで横に座った。

「最近調子はどうだ?」

 三島はタバコに火をつけると、口を開いた。

「良かったときなんてあんまりないですよ。三島さんのところは?」

 三島は注文したウィスキーを口に傾ける。

「最近はどこも金がないみたいでな。政党は変わるし、おれらだってイロイロ大変なんだよ。肩入れしてた政治家もスキャンダルでだめになったりな……。最近はぱったりだよ。……それより、あのガキはなんだ? みたとこお前のホントのツレじゃねえんだろ? むしろお前が嫌いそうなタイプにみえるけどな」

 三島には人を見る目が備わっている。上に立つ者としてはなくてはならない能力だ。

「ええ、今の依頼に関係してくる人です。そのために近づこうとしているんで、今日はなんとか気分よく帰らしてやって欲しいんですが……できますかね?」

 三島はにっこりと笑うと、深くうなずいた。


 その日の帰り際、カズヤは終始笑顔だった。聞いたところによると、五十万円分勝ったらしい。上機嫌で鼻唄まで歌っているほどだ。どうやら三島が「ナニカ」してくれたらしい。二人で明るい街中をゆっくりと歩いているとき、不意にカズヤは口を開いた。

「なあワタル、今日うちに遊びにこいよ。この前の約束、果たしてやるからさ」

 チャンスが、きた。だがなぜか、言いようのないほどに胸の中が熱く、苦しくなっていた。

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