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第11話 同棲生活のルール

「それでローザ、一緒に暮らすにあたって色々と決めていきたいのだけど。例えば、家事の分担とか」


 昨晩の残り物で簡単に朝食を済ませていると、リリアーヌが切り出してきた。


「家事の分担? あ、ああっ、そうかっ、そうだよな、もうお客さんじゃねえんだしっ」


「そうよ、これからは一緒に暮らすパートナーなんだから」


「お、おお、……パートナー」


「まずは食事の準備だけれど、ローザって孤児院を出てからはお料理ってしてないわよね?」


「……肉焼くのなら得意だけど」


「そうよね、パーティを組んでた時は焚き火番と動物のお肉を焼くのはいつもローザの役割だったものね。……それ以外にお料理はしてないのよね?」


「ギルドの貸し部屋には台所なんて付いてないし、一階に降りたらすぐ酒場だったし」


「うん、それじゃあ料理は私の担当ね」


「さっ、皿はあたしが洗うよっ」


「お願いね。次にお掃除は――、うん、私がするわね」


 貸し部屋の惨状を思い出したようで、リリアーヌは言い終える前に自分で話を引き取った。


「あとは洗濯だけど」


「それならあたしに任せてくれっ。ギルドの裏の井戸で、いつも自分の服洗ってたしっ」


「それは頼もしいけれど。例えばこういう服、洗い方分かる? まあ毎日洗うものではないけれど、洗濯板でがーっと擦るんじゃ駄目なのよ?」


 リリアーヌが視線を自らの着衣に向けた。すでに寝間着ではなく神官の衣装に着替えている。教会関係者は日中は位階に応じた制服を纏うのが常で、寝間着はもちろんただの私服姿だってよほど親しい人間にしか晒さないものだ。


「うぐっ、それはぁ」


「だと思った。それじゃあ毎日の寝間着や肌着の洗濯だけお願い。あ、それだってあんまり力を入れ過ぎないようにしてね」


「はいはい。…………はぁ、あたしゃ子供か」


「実際、孤児院で暮らしてた頃の方がまだ家事が出来たんじゃないの? 人にやってもらったり手を抜くのに慣れ過ぎよ」


「うぐぅっ」


 孤児院では子供達が持ち回りで家事に参加していた。料理当番や掃除当番もあってローザも他の兄妹達と一緒に包丁を握ったりしていたのだ。


「家事の分担はこれで良いわね。――あとはそうだっ、生活費の話もしないとじゃないっ」


 リリアーヌがぽんと手を打って言う。


「私は教会と救護院から月々決まったお給料をもらっているけど、ローザの場合はそういうんじゃないものね?」


「ああ、どんな依頼を受けるかで全然実入りが違うな。魔王軍の残党やらドラゴンやらが出たらでかいけど、それからしばらくは他の魔物も大人しくなって依頼がまったくなくなったりとかな」


 そんな時、他の冒険者は拠点を移ったりするのだが、リリアーヌの側を離れる気のないローザにその選択肢は無い。必然がくっと収入が減ることになる。とはいえたいがいの場合、直前に出た大物を仕留めるのはローザだから金に困ると言うことは無い。


「って言うか、生活費くらいあたしが出すぞ。たぶん教会からの給料よりはずいぶん稼いでると思うし」


「あのね、ローザ、今は稼げてるって言っても、将来は?」


 軽い調子で提案するも、至極真面目な顔で返された。


「十年後は今と同じように稼げるかもしれない。二十年後も経験を活かしてまだまだ第一線で戦えるかもしれない。でもそれから先は? 私は神聖魔法が使える限りすっかりお婆ちゃんになっても救護院で働けるし、聖女の立場がある以上教会からのお金は死ぬまでもらえるけど、ローザはそうじゃないでしょう?」


「それは、う~んと、……どうなんだ?」


 現状は名が知れ渡っているだけであくまで一介の冒険者でしかないから、依頼をこなさずに自動的に転がり込んでくる給金はない。とはいえ元勇者パーティの一員なのだから、いざ冒険者を引退するとなれば国なりギルドなりが何かしらの地位は用意してくれそうな気もする。


「だいたい何を考えてるかは分かるけど。……でもローザ、どうせそういう役職には就くつもりないんでしょ?」


「……まあ、確かに」


 リリアーヌは時折り聖女として教会の上層部や国のお偉いさんとの会談に出かけて行くし、時には周辺国との外交の場に呼ばれることまであるようだ。そういう時はローザがアサとハルの子守を引き受けたものだが、常になく疲れた顔でリリアーヌが帰って来たのを覚えている。自分にそういった政治的な役割が務まるとも思えない。と言うより、務めたくない。


「もうっ、だったら今のうちからちゃんと貯金しておかなきゃ駄目じゃないの。お婆ちゃんになってから、今月はお金が無いから生活費が払えないなんて言われても困るのよ。まあどうしてもってなったら私が出すし、お小遣いくらいだったらあげるけどっ」


「出してくれるんだ。しかもお小遣いまでくれるんだ。って言うか、お婆ちゃんになっても一緒に暮らしてんだ、あたしら」


「え、まさかローザ、早くも別居を考えてるわけっ?」


「別居って。……いや、例えばアサとハルが学園を卒業してこっちに戻ってきたらどうすんだ? そうなりゃ、そのままあたしが居座るってわけにも」


「二人とも喜ぶわよっ」


「そうか? ハルはともかくアサの方はどうだろうな?」


「喜ぶに決まってるじゃないの。ちょっと素直じゃないだけであの子だってローザのことが大好きなんだから」


「む、そうか」


 同棲はアサとハルが学園に通う三年間の期間限定だと勝手に思っていたが、どうも長くなりそうだ。


「というわけで、生活費はきっかり折半ねっ。共同のお財布を用意しましょうっ。そこに毎月同じ額を入れてくの」


「う~ん、それだとやっぱりリリィの負担がでかくないか? ほら、あたしの方がたくさん食うし」


「そこまで細かいこと気にしないわよっ。あ、でもお酒代は自分で出してね」


「わかった」


 割と生々しいお金の話をしているのに何故だかむず痒い。まるで新こ――いやいや、浮かれるな、あたし。


「とりあえず決めなきゃいけないのはこんなものかしら?」


「そうだな、あとは生活してく中で追い追い」


「そうね。となると残るやらなきゃいけないことは、――うん、今日はお買い物行きましょっ、ローザ! 色々買い足さないと。寝間着はまだたくさんストックがあるけど、部屋着もおへそが出ない可愛いのが買いたいし。食器も今はお客さん用の使ってもらってるけど、ローザ用のを買わなきゃでしょ。あっ、どうせなら私も新調してお揃いにしちゃいましょうかっ」


 こちらの気など知らずにリリアーヌは実に浮き浮きと誘うのだった。


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