自分は王太子……? だから何?
私の婚約者、コルネリウス王太子殿下はどうしようもない方だった。
「王太子である俺の前に出るとは! 貴様、不敬だぞ!」
王立魔法学園の廊下の真ん中で、コルネリウス殿下はそう言い放つ。
相手は床にへたり込んでいる男爵令嬢。
周囲の生徒はああ、またかという呆れ切った顔をしていた。
「も、申し訳ございません! すぐにどきますから……っ」
「すぐに去ろうが、俺を愚弄したという事に変わりはない! おい、貴様、こいつが二度と同じ行いをしないよう、打ってしつけておけ!」
コルネリウス殿下がそう命じたのは、彼の従者である伯爵家の三男だ。
しかし彼もまた顔を強張らせ、首を横に振る。
「な、なりません殿下……!」
「貴様も俺に逆らうというのか! もういい、ならば俺が自ら手を下してやろう」
彼はそう言うと魔法の詠唱を始める。
そんな彼の前へ――私は立った。
「お止めください、殿下」
「な……っ、フリーダ……!」
「いくら殿下とは言え、そのような行いは流石に看過できません」
「先にそいつが俺を愚弄したんだ!」
「愚弄などしておりません。他者が前を歩く事を殿下が良しとしない事は最早この学園の者は皆分かっております。普段ならば彼女とて他の生徒と同様に動いていた事でしょう。……しかし、今、彼女は先の魔法実践の授業で足を怪我したばかりです。ただ転んでしまっただけ……そのくらい、直接見ていた殿下が一番よくわかっているでしょう!」
私の後ろでは啜り泣く声が聞こえている。
「その者の肩を持とうというのか! 俺はこの国の王太子だぞ!」
「だから何ですか」
「ふ、不敬だ!」
「不敬、ですか……。他者を最低限尊重する事は地位に関係なく、人として当然の事かと思われますが? 正しさや過ちの事実を立場という重圧で歪める……それを批判する事が敬えていないという事になるならば、私はそれでも構いません」
私は深い溜息を吐く。
彼のこの滅茶苦茶な言い分に振り回される事にも慣れつつはあるが、疲労を感じないわけではないのだ。
「そもそもこの学園の信条については私からも……そして陛下からも何度も聞かされてきたはずです。この学園では、個々の成績と……幅広い交友の機会が得られる場である事が重要視されている。故に、身分による差別は禁じられていると」
「そんな学園の仕来り、国の意向に反しているならば無効に決まっている!」
「…………ここは王立ですよ。それに、勿論国が許可していなければこんな規則は大っぴらにされません」
コルネリウス様は喚き散らしているが、幸いにも魔法を放とうとしていた手は止まっている。
それは過去、今と同じように対峙した際に放った魔法が悉く私の魔法に相殺された事を経験しているからだ。
ここで魔法を放てば、恥を掻くのは自分だと理解しているのである。
……尚、ここに至るまでの一部始終は自分の中だけでの正当性と貫いている為、生き恥だとは思えないのがこの婚約者の悪い所だ。
「殿下。これ以上、ご自身の立場を危うくするような言動はお控えください。これ以上は立場だけでは言い逃れが出来なくなります」
「ッ、貴様は……! どうしても俺を悪人にしたいようだな、フリーダ」
「私が何か意図せずとも、そうなりますでしょう。周りの者を見れば、自分がどう思われているのかは少しくらいわかるかと思いますよ」
コルネリウス殿下はハッとし、周囲を見る。
しかし、様子を窺っていた生徒達は、彼の視線に気付くや否や、その顔を背けるのだった。
「民の顔を窺う事すら出来ない者が、どのように国を治めるおつもりですか?」
「ぐ、貴様……ッ」
彼は大きく肩を戦慄かせたあと、キッと私を睨んだ。
「っ、覚えていろ! 不敬を働いた事、絶対に後悔させてやる!」
そのまま私に背を向け、足早に去っていくコルネリウス殿下の背を私は見送る。
(あれは……もう駄目ね)
私は呆れ混じりに溜息を吐くのだった。
震えたまま泣く男爵令嬢を落ち着かせた後、彼女と別れて廊下を歩く。
すると、前方から歩いて来る男子生徒と目が合った。
彼は私を見ると困った様な顔で声を掛けた。
「フリーダ嬢」
「ヴァルター殿下。ご機嫌よう」
「ああ」
私の同級生にして第二王子であるヴァルター殿下。
彼はしおらしい態度で頭を下げた。
「うちの兄が迷惑を掛けたようだね。すまない」
「まぁ、迷惑だなんて」
一つ上の兄の横暴さを憂いるような顔。
それを見て私は目を細める。
「……露程も思っていない事を仰るのはおやめになっては?」
小さく囁けば、ヴァルター殿下の目が鋭く光る。
彼は憂いた顔のままこう返した。
「迷惑だろうと思っている事は、事実だが」
その声は低く、笑うような色が滲んでいた。
私はやれやれと息を吐く。
「本音は?」
「自滅して王太子を下りてくれる分にはありがたいかな」
「……仮にも王太子の婚約者を前に吐く言葉ではないですよ」
「君が言ったんだろう?」
周囲に人がいない事を確認した上でヴァルター殿下は続ける。
「全く、王太子に決まるまでは猫を被っていて、今よりはマシだったというのに」
「単に我慢し過ぎたが故の反動かと。片鱗はありましたから」
そう。彼の言う通り……コルネリウス殿下は王太子に選ばれる前までは少なくとも表向きは王族として相応しい言動を心掛けていた。
しかしそれは何が何でも自分が国王になるのだという野心と執着故に為せたこと。
結果が出てしまえば、傲慢な彼にとって苦痛でしかないその儀式はもうやる意味がない。
私の前では度々耐え切れない怒りを爆発させていたので、他の者に比べれば彼の本性も理解してはいたけれど……けれど、流石にここまで目に余る行いが繰り返されるとは思わなかった。
「俺は別に王位に興味がある訳じゃあない。ただ……あれに国を任せるくらいならいっそ……とは思ってしまうな」
「そうでしょうね」
私はヴァルター殿下を見て小さく息を吐く。
そもそも、コルネリウス殿下が他人を見下したり、立場で脅そうとしたりするのは、自分が如何に偉大であるかを知らしめたいから。
そうせざるを得ないという考えを本能に刷り込ませた存在こそ……ヴァルター殿下だった。
彼は勉学も剣術も、政治への理解、社交性も……全てが優秀だった。
コルネリウス殿下が悪かったというよりは、ヴァルター殿下が器用すぎたというのが正しいだろう。
しかし周りの大人は何かとコルネリウス殿下とヴァルター殿下を比較した。
彼の過剰に大きく出ようとする振る舞いの根底には、優秀なヴァルター殿下よりも評価されたいという思いもあるのだろう。
私がヴァルター殿下の言葉に同意すれば、彼は苦く笑った。
「仮にも婚約者が、今の言葉に同意しても良いのかい」
「今となっては国民の大半の見解かと」
「恐れ多いな。……なぁ、もし君が許してくれるのならば、俺が王太子になった暁には――」
「ヴァルター殿下」
ヴァルター殿下の言葉を私は遮る。
それからゆっくりと首を振った。
「私は彼の婚約者ですから。それ以上の発言は慎んでいただかなければ」
「……そう、だな」
私はヴァルター殿下を腹黒王子と認定している。
甘く、美しい顔立ちとは裏腹に、頭が切れる彼は腹の底で多くの事を見定め、考えている。
けれど今の彼は、普段の涼しい顔とは違い、またお道化て見せるしおらしさとも違い、落ち込んでいる子犬のように見えた。
(……可愛らしい人)
意外な一面を微笑ましく思いつつも、私はそれを表に出す事はしない。
「では代わりに一つ、忠告させてくれ。最近の兄はどうにも危うさを感じる。……自分が気に入らない人間には何が何でも痛い目を見せなくては気が済まないというような。……もしかしたら君の事も何らかの形で危険に晒そうとするかもしれない」
「そうですか」
「そうですかって、君な」
「ご安心ください。もしそうなったとしても……きっと、何も起きませんから」
私の言葉にヴァルター殿下は目を丸くする。
それからふと何かに思い至ったように口を開いた。
「……父は、アインハルト公爵家を随分気にしているように思う」
私は視線をヴァルター殿下へ移す。
彼は真剣な面持ちで、また私の顔色を窺うように見ていた。
「元から、『自分が王族だという事に胡坐を掻けば貴族に足を掬われかねない』と……貴族との関係を大切にする事を強調するお方だったが。俺にはどうも、その貴族の中でもアインハルト公爵家の顔色を特に気にしているように思えるんだが……これは気のせいだろうか」
探るような目を真っ直ぐと見つめ返しながら私は肩を竦める。
「……さぁ。公爵家は貴族の中でもより大きな力を持ちますから。そのせいでは」
「地位の問題、だけのように思えるなら俺だってわざわざ言わないさ。……まぁいい。君は何も話そうとはしなさそうだ」
ヴァルター殿下は再び笑みを浮かべると、明るい声音に戻した。
「まぁ、俺が言いたいのは『くれぐれも気を付けてくれ』という事だ」
「どうもありがとうございます」
ヴァルター殿下はひらひらと手を振って離れていく。
私はそれを静かに見送るのだった。
***
それから数日後の事だ。
或る晩、夜会の帰りの馬車に乗っていた時の事。
突然、馬車が停まった。
何事だろうかと不思議に思っていると、馬車の扉が乱暴に開けられ、大男――明らかに貴族ではない、薄汚い姿の者が馬車へと飛び込んだ。
その後ろにも数名の仲間がいるようで、男達は皆下劣な笑みを浮かべていた。
「悪いねぇ、お嬢サマ。アンタの純潔を奪うようにってお金までもらっちまってさぁ」
「おいおい、ビビッて悲鳴すらあげられてねぇじゃねーか。かわいそぉなこった」
「てか、想像以上に別嬪だナァ。こいつを犯して金までもらえるなんて、最高じゃねぇか」
「……なるほど」
私は状況を理解した。
過るのはヴァルター殿下の忠告だ。
男達は下品な笑いを上げる。
そして馬車へ乗り込んだ一人が、私の腕を掴もうと手を伸ばし――
***
遠くから馬が走る音が聞こえる。
そしてそれが近づいてきた時……
「ッ、フリーダ! フリーダ・フォン・アインハルト!!」
焦りを滲ませた聞き覚えのある声がした。
「はい」
呼ばれたので私は返事をする。
丁度その時、私の前に馬が停まった。
乗っているのは黒い外套を着た男。
彼はフードを取っ払い、銀色の髪を晒した。
「…………どういう状況だ、これは」
「ご機嫌よう、ヴァルター殿下」
私の周りでは建物の壁や地面に激突したまま失神した大男たちがいる。
そのうちの一人の上に優雅に座る私を見て、ヴァルター殿下は顔を引き攣らせたのだった。
「兄の思惑を知って駆け付けたというのに……まさか一人で解決するとは。魔法を使ったのか」
「そうと言えばそうですね」
「……詳しく話す気はない、と。まぁいい」
ヴァルター殿下は自分が連れて来た騎士達が大男を拘束させる様を眺める。
「彼らから話を聞けば全ての裏取りが出来るだろう。……兄上も終わりだな。とにかく、無事で良か――」
ヴァルター殿下が私の頬に手を伸ばした為、私はそれを避ける。
わかりやすくショックを受ける様子に内心で笑いながら私はこう言った。
「今はまだ、婚約中の身ですから。……そうではない時ならば、見逃して差し上げましょう」
「……その言葉、忘れない事だな」
彼は目を瞬かせた後、妖しく笑みを深めるのだった。
***
その後一週間、私は学園を休んだ。
理由は『精神的な問題から外に出られなくなった』として。
そして今日、ヴァルター殿下から手紙が届いた。
要約するとこうだ。
――『既に舞台は整ったから、後は好きにすればいい』。
そんな文面と共に添えられたのは今日の夜に開かれる王宮でのパーティーの招待状。
あの晩のことを知った親バカの父とシスコンの兄が共に王宮へ乗り込もうとしたので、それを窘めてから、私は一人で夜会に向かう。
そして――
「フリーダ・フォン・アインハルト! 悪女である貴様と婚約破棄をする!!」
大勢の貴族が集い、何なら国王陛下の御前でもある大広間で、コルネリウス殿下はそう言い放った。
尚、彼の隣には見知らぬ令嬢がいる。
「はい?」
因みにこれは、私の想定外の出来事である。
ぽかんとする私をよそに、彼は声高らかに続けた。
「貴様は事ある毎に俺に恥を掻かせてきた! 王太子であり、婚約者である俺を敬う事もせずにだ! 貴様のそれは、王族への――延いては国への侮辱だ! こんな卑しい女との婚姻など、俺は願い下げだ!」
自分が王太子である事をこれでもかという程に主張するコルネリウス殿下。
彼は更に嘲笑し……
「それに……貴様は王太子妃となる立場を自ら降りたがっているはずだ。そうだろう?」
溢れそうになる溜息を私は何とか堪える。
つまり彼は、『お前は純潔を失い、王太子の妻となる資格を失っているが、それを公にはしたくないだろう?』と暗に伝えているのだ。
周りには悟られないまま、私にだけ、あの晩の事件の裏で糸を引いていたのは自分だと示し、挑発しているのだ。
あの晩の出来事が未遂でなかったならば、私は確かに悔しさを噛み締めながらも何も言葉を返せず身を引いた事だろう。
けれどお生憎様。
そうはならなかった。
少々想定外の事は起きたが、今の状況は寧ろ私にとって好都合だった。
「いいえ? 私は王太子妃になる為の教養を積んで参りましたし、それを無駄にしたいとも思いません」
「な……ッ、き、貴様、図々しいとは思わないのか!」
「一体何のお話をされているのやら。……それと、コルネリウス殿下。貴方は事ある毎にご自身が『王太子』である事を主張されますが」
私は盛大な溜息とともに肩を竦める。
「王太子、だから何だというのです?」
「……は?」
「以前から申し上げている通り、爵位や地位以前に人には最低限の倫理が求められます。他者を慮ることが出来ない者が、どうして堂々と『自分は未来でこの国を背負う者である』などと豪語出来ましょう」
「ふ……っ、ふざけるなよ、フリーダ……ッ! よもやここまで俺を馬鹿にするとは……!」
「私はいつだって、事実を述べているまでです。貴方は今、まだ王太子かもしれません。……けれどそれがどうしました? 今すぐにでも失われてしまうだろう地位に最早何の意味もございません」
「な……何!? 何を言っている、貴様――」
「自分にとって都合の悪い婚約者との婚約を反故にすべく、ならず者を雇って純潔を奪わせようとした……そんな者が、国王になったとて、国民は誰も支持などしないでしょう!」
コルネリウス殿下は顔を真っ赤にする。
私の発言が、どうやら少々意外だったようだ。
結婚前に純潔を失うというのは令嬢にとって致命的だ。
それを自ら明かす事も、そして証拠が揃っていないままにその話題を堂々と口にする事もないだろうと、彼は考えていたのだろう。
「不敬だぞ! 何の根拠もない噂を、冤罪を、よりによって俺に着せようとするとは――」
「証拠ならばあります」
品もなく喚き散らすコルネリウス殿下の声を静かな声で遮ったのはヴァルター殿下だ。
彼は騒ぎの渦中まで出ると、離れた場所に座す国王陛下へ深く頭を下げてからコルネリウス殿下へ向き直った。
「こちら、一週間前の晩に起きたフリーダ嬢をならず者が襲った事件。フリーダ嬢の純潔を奪うよう指示し、彼らを直接雇ったものは別にいましたが……その後を追っていけば――元凶が兄上である事が発覚しました」
「ば、馬鹿な!」
「調査を促したのは俺です。ですから勿論、動いたのは王宮内で結成された調査隊――綿密な報告書も用意されています」
「ヴァ、ヴァルター……ッ、貴様……ッ」
ヴァルター殿下は持っていた紙束を掲げる。
「そしてそれは既に、国王陛下にも確認いただいております」
「な……ッ!!」
「陛下、王位継承の件、どうか今一度お考え直していただきたい。この国の為を思うのならば」
それまで冷たい表情で見守っていた国王陛下はヴァルター殿下に促されると、深く、長い溜息を吐いた。
「コルネリウス……お前は昔からの言いつけを破ったな。私は王族という地位に胡坐を掻くことなく、人々と上手くやれと。だがお前はよりによって……あのアインハルト公爵家を害そうとした。お前がした事も、そしてそれを行った相手も……全てが、看過できる事では決してない」
「ち、父上……!? ど、どうか、お話を――」
「お前から、王太子の座を剥奪する。また王都からの追放。辺境に幽閉するものとし、今後二度とその地から出る事を禁ずる」
「父上ェェッ!!」
「――王家の面汚しが」
その後、陛下の指示で騎士が駆け付け、コルネリウス殿下を取り押さえると会場から連れ去って行った。
***
アインハルト公爵家には秘密がある。
初代アインハルト公爵は古の時代、天界から誤って落ちた神を助けた礼にと後世に受け継がれる神の加護を残していったらしい。
『全ての害意を撥ね返す加護』。
攻撃だけではなく、そもそも彼に悪意すら持てなくなるという特別な力。
この力の存在を知り、利用しようとした国は一度、アインハルト公爵家の者を人体実験の被験者にしようとした事がある。
結果、対立した当時のアインハルト公爵らによって国は壊滅の危機に晒される。
このことはアインハルト公爵家の純粋な魔法の力によるものとして処理されたが、実際には加護による恩恵が大きかった。
国と和解したアインハルト公爵家は未来で子孫が同じ目に遭うことがないように、またかつての国と同じ事を考える者が現れないようにとアインハルト公爵家の加護の存在を秘匿するものとし……代々国王になった者だけが同じ過ちを繰り返さない戒めとしてこの事実を伝えられる事になる。
始めは全能だった加護。
それは時を経て、様々な血が混ざるにつれて、弱まっていった。
現在ではアインハルト公爵家の者はそれぞれ、その一部だけを司っている。
私の父は害意のある物理攻撃、兄は魔法を全て弾く。
そして私は――そのどちらもを。
稀に見る先祖返りだと、家内では騒ぎになったそうだ。
さて、そんな話はさておき。
アインハルト公爵家の怒りを買わず、味方に引き付けたいという国王陛下の思惑のもと第一王子と婚約した私だったのだが、結果は陛下の胃をひっくり返しかねないものとなった。
ヴァルター殿下の言っていた陛下がアインハルト公爵家を警戒しているというのは正に事実だった訳で、そんな事を露程も知らなかったコルネリウス殿下は見事に陛下から見限られる事になった……という訳だ。
***
関係者以外がいない部屋の中、半泣きになって謝り倒す陛下を落ち着かせたのは数日前の事。
話の流れから仕方なく事情を聞かされたヴァルター殿下はそのまま王太子となることが決まり……私との婚約も決まった。
泣いている陛下のもとで私に婚約の提案を持ち掛けた時の陛下は気が気ではなかっただろう。情けない声を上げていたから。
しかし、私は悩む事もなくヴァルター殿下の申し出を受け入れた。
隙がないと囁かれる彼が私にだけ見せる、子犬のような姿が……私は好きなのだ。
「フリーダ」
王宮の庭園を歩いていると、隣に立っていたヴァルター殿下に抱き寄せられる。
婚約が決まってからというもの、彼は随分積極的になり、正直……困っていた。
ヴァルター殿下が私の頬を優しく撫で、額にキスを落とす。
「……ヴァルター殿下」
「ん?
「流石にスキンシップが多くはありませんか」
「いや? 少ないくらいだろう」
私がヴァルター殿下から逃げるように速足で歩き始めれば、すぐに手を掴まれてしまう。
そしてふいに――唇が塞がれる。
咄嗟の事に驚いて頭が真っ白になっていると、長い口づけの後に、ヴァルター殿下が私の顔を見て妖しく笑った。
「……へぇ」
「…………何ですか」
「君と一緒になれば、俺ばかりが翻弄されるのだろうと思っていたけれど、どうやらそうではないらしい……と、思っただけさ」
頬を突かれ、漸く私は自分の顔の熱が普段の何倍にも上がっている事に気付く。
慌てて平然を装おうとすれば、それを砕くようにまた唇を塞がれた。
「~~~~っ」
「……君は存外、可愛い人だな」
(これが『害意』ではないのは、質が悪いわ――っ!!)
美しい顔が甘い笑顔を湛えていて、私はポーカーフェイスの代わりに自分の顔を隠す事しかできなくなるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
もし楽しんでいただけた場合には是非とも
リアクション、ブックマーク、評価、などなど頂けますと、大変励みになります!
また他にもたくさん短編をアップしているので、気に入って頂けた方は是非マイページまでお越しください!
それでは、またご縁がありましたらどこかで!




