8. 腹が立つし、ウザいし、でも……というジレンマ
8. 腹が立つし、ウザいし、でも……というジレンマ
今日も今日とて、オレの部屋には不法侵入者ならぬ、半ば常連と化した迷惑な訪問者が居座っていた。ソファーの上でくつろいでいるのは白石だ。なんでこいつが毎日毎日オレの家にいるのか、改めて考えると頭が痛くなってくる。
ふと、白石がこちらに探るような視線を向けてきた。その表情にはいつもの悪戯っぽい輝きが宿っている。
「ねぇ先輩。聞いてもいいですか?」
「なんだよ?」
「先輩ってお友達いないんですか?いつも学校からまっすぐ家に帰ってきますけど?」
……は?
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。そして理解した途端、全身の血が沸騰するような感覚に襲われた。
うぜぇ……。なんてことを抜かすんだ、こいつは。誰が誰に言ってんだこの状況で。毎日毎日、人の家に入り浸っている張本人に友達がいるのかと聞かれる筋合いは微塵もない。
「毎日毎日オレの家に来る。お前だけには言われたくないんだがな?」
精一杯の皮肉を込めて言い返す。少しは効くだろうと思ったのに白石は全く動じない。むしろ、ぷぅっと頬を膨らませてみせる。
「むぅー、私だってたまには遊びに行きたいですよ?でも先輩が外嫌いみたいだし、一人にしておくのも心配だから、私が一緒にいてあげてるんじゃないですかぁ?」
そう言うと、白石はソファーの上で、短いスカートを気にすることもなく足をバタつかせ始めた。その度に、風に揺れるカーテンのようにスカートの裾がひらひらと舞い上がり、白い太ももがあらわになる。そして……今日はピンクか。いやいや違う!これはこいつが悪いんだオレのせいじゃない!
「そもそもだな、オレはお前と付き合っていない。だからお前がオレを心配する必要はないし、ましてや毎日いる必要もないだろ」
冷静にあくまで事実だけを告げる。これで少しは状況を理解して帰ってくれるかもしれない。淡い期待を抱いたのだが、白石はにへらと間の抜けた笑顔を見せる。
「照れちゃって、可愛いんだから先輩は?」
……あぁもう!なんなんだこいつ!本当に訳がわかんないぞ?なぜそんなにオレに懐いてくるんだ?このままペースに乗せられるのはまずい。反撃だ。
「そういうお前だって友達いるのかよ?いつもオレの家に張り付いてるばっかりで、友達と遊んでるところなんて見たことないけどな」
少し意地悪な響きになったかもしれない。でも、これくらい言わないとこいつには伝わらない。すると白石は、ぱっと顔を輝かせた。それはまるで、待ち望んでいた餌を与えられた猫のような悪巧みを思いついたような表情だった。
「私はいますよ友達!クラスの子たちとも仲良いですし、よく話しもします」
意外と友達いるのか?いや、まあ、こいつのコミュニケーション能力の高さを見れば、友達がいないなんてことはないだろうと思っていたが。
「でも、私の一番は先輩ですよ?他の友達と遊ぶより、先輩と一緒にいる方が楽しいし、安心するし、何より……毎日一緒にいたいですからね?」
そう言って、白石はソファーから立ち上がり、オレのそばに詰め寄ってきた。いや近い近い!いつもそうだ。パーソナルスペースという概念がこいつにはないのか?
ふわり、と白石から甘い匂いが漂ってくる。シャンプーかそれとも白石自身の匂いなのか。そして、白石が身を乗り出した拍子に柔らかいものが腕に当たったような気がした。いや、気のせいだ。きっと気のせいだ。こんな状況でそんなこと、あるわけない。動揺を悟られないように必死で平静を装う。
そのオレの様子を見て、白石はにやりと口角を上げた。なんだよその顔。
「あれあれぇ?先輩、もしかしてドキドキしちゃいましたぁ?顔がちょっと赤いですよぉ?」
「なんだよ、それうぜぇな。別にドキドキなんてしてねぇよ。」
「はいはい。本当はその掌で触りたいんでしょ?いいですよ先輩なら」
「もういいから離れろよ!」
慌てて顔を逸らす。窓の外の橙色の光が、やけに眩しく感じられた。
「なら、先輩は私を優先してるんですか?それとも本当に、友達いないとか?んんん?」
白石がさらに煽るような声で問いかけてくる。その声のトーンと、上目遣いの表情に、全身の神経が逆撫でされるのを感じた。くっそムカつく顔してんじゃねぇよ!図星だ。図星を突かれたから、こんなに腹が立つんだ。
確かに、友達はいないかもしれない。休みの日に遊ぶような相手もいないし、学校が終わればまっすぐ家に帰る。だが、それは別にいいじゃないか。オレの勝手だ。お前に言われる筋合いは絶対ない!
「うるせぇ!お前に言われたくない!」
感情的に叫んでしまった。しまった、と後で後悔する。冷静さを欠くと、こいつの思う壺だ。しかし、白石はそんなオレの苛立ちを意に介さない。それどころか、満面の笑みを浮かべて、決定的な一言を放った。
「安心してください。私が毎日一緒にいますからね!」
そして、ダメ押しのように。
「彼女なので!」
……また出たよ。このやり取りも、一体何度目だろうか。最初は否定していたオレも最近ではもう反論する気力すら湧いてこない。どうせ何を言っても無駄だと分かっているからだ。白石の性格上、一度言い出したらテコでも動かない。諦めるしかない。
はぁ……大きくため息をつく。この状況は、正直言って面倒だし、煩わしいことこの上ない。毎日毎日、来る日も来る日も押しかけてくるこいつに、辟易しているのも事実だ。早く一人になりたいと思うこともある。
……でも。
心の、ほんのほんの少しだけ、本当に微かに一人は寂しいと感じている自分がいるのも分かっている。そして、そんな寂しさを紛らわせるように、毎日騒がしく隣にいてくれる白石の存在に、助けられている自分がいることも。
だから口では悪態をつきながらも、白石を追い出すことはしない。今日もまたオレの部屋には白石の話し声が響いているのだった。
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