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隣の部屋に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする  作者: 夕姫


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4. 世の中は「好き」か「嫌い」か以外もある

4. 世の中は「好き」か「嫌い」か以外もある





 春の夕暮れは穏やかな光を部屋に満たしている。暖かさの中にほんのりとした湿気が混じるような新しい季節の匂い。しかし、その心地よさも目の前の現実の前には霞んでしまう。


 今日も白石はオレの部屋にくる。まるで学校の放課後に部活に立ち寄るような気軽さで、こいつはなにかと理由をつけて、毎日のようにこの部屋にやってくるのだ。最初は突然の訪問に戸惑っていたがもう驚きもしない。ただ「ああ、また来たか」と思うだけだ。それは諦めなのか、それともわずかに生まれた「慣れ」なのか、自分でもよく分からない。


 部屋に入ってくるなり、ソファに鞄を放り投げてくつろぎ始める白石にオレはほとほと呆れてしまう。


「お前さぁ……少しくらい遠慮しろよ?人の部屋に毎日押しかけるなんて、普通じゃねぇぞ?」


 少しは自覚を持てという意味を込めて言う。だが、こいつには全く響かないらしい。


「えー? だって暇なんだもん。」


 けろりとして、全く悪びれる様子がない。暇だから?たったそれだけの理由で毎日人の部屋に来るのか?オレの平穏を破壊しておいて?


「それに、彼女の顔を見れて嬉しくないんですか?先輩は?」


 そして、また例の「彼女」を持ち出してきた。どこまで本気で言っているのか分からないのが、さらに厄介だ。


「お前が彼女なら嬉しいだろうな。でも違うから、もう来るなと言ってるんだ」


 事実を突きつける。だが、どうせ無駄だろうという思いも、同時に頭をよぎる。


「つれないですね~。あ、そうだ! 明日一緒に買い物行きましょう!」


 そしてまた唐突な話題転換だ。今日の出来事から、明日の予定へ。本当に話が飛ぶ。


「なんでだよ……」


「デートですよ! デート!」


「はぁ……」


 深いため息をつく。もう会話するのも疲れた。オレは目の前にある、数日前に買ってきたばかりの漫画本に手を伸ばした。現実逃避だ。せめて、物語の世界にでも没入して、目の前の厄介な存在を忘れよう。


 本を開き、活字を追い始める。白石は、相変わらずソファに座りながら、リモコンをカチカチいわせてテレビのチャンネルを忙しなく変えている。意味もなく変わる画面の光が、部屋の片隅で明滅している。この光景にも、もうすっかり慣れたものだ。隣で勝手に寛いでいる後輩と、それを無視して自分の世界に引きこもろうとする先輩。


 客観的に見たらどんな絵面だろうか。奇妙な放課後の生活が、もはや日常と化している。しかし、白石はオレが自分の世界に閉じこもろうとするのを許さない。


「ねぇねぇ先輩ってば!」


「…………」


「せんぱーい!」


「うるさいぞ白石。」


 読むのを諦め、本を閉じてこいつの方を向く。


「ぶぅ……せっかく彼女が遊びに来てあげてるんですよ!?」


 頬を膨らませ不満を露わにする。そしてまただ。彼女が、遊びに来てあげてる?一体、いつからお前はオレの彼女になったんだ。そして、なんで「来てあげてる」なんて上から目線なんだ。


「だから彼女じゃねぇだろ。」


「むぅ……。」


 今度は本当に拗ねたように、不貞腐れたような唸り声を漏らす。そして、ぷいっと顔を背けてしまった。テレビに映る映像を無言で見つめている。その横顔は、本当にただ不貞腐れている年下の子どもみたいに見える。


「なんだよ?」


 沈黙が気まずいわけじゃない。ただ、このまま拗ねて静かにしてくれるならそれに越したことはないが、また突然爆発する可能性もある。どちらに転ぶか分からない不確実性が面倒なのだ。だから探りを入れるように声をかけた。


「なんでもありませーん。」


 そっぽを向いたまま、棒読みで返事が返ってくる。全く、分かりやすいんだか分かりにくいんだか。本当にめんどくせぇ奴だ。こうして拗ねている間は静かなので、この状態が続いてくれるなら、それはそれで退屈しのぎにはなるし、完全に追い出すよりはマシかもしれない。


 そう考えると、オレの中に僅かに存在する、妙な甘さのようなものに気づく。一人暮らしだから寂しいのかな、とか。新しい環境で話し相手もいないからこうしてオレの部屋に来るしかないのかな、とか。そんな余計な弱気な事を考えてしまうから、強く「帰れ!」とか「二度と来るな!」とか言えないのかもしれない。同情なんてするだけ損なのに。面倒くさがり屋の自分に弱い理由を与えてしまっているだけだ。


 白石はしばらくテレビを見ていたが、また突然オレの方を向いた。そして、真っ直ぐにオレの目を見てくる。その真剣な視線に、少し身構えてしまう。


「ねぇ先輩」


「今度はなんだよ?」


「今、ちょっと思ったんですけど……先輩って……好きでも何でもない女の子を、こんなに気軽に家にあげちゃうんですね?もしかして……私の身体が目当て!?」


 完全に言葉を失った。は?身体目当て?オレが?お前の?一体、どこからそんな発想が出てくるんだ!


「バカ野郎。そんなわけねぇだろ」


 怒鳴り散らす衝動を抑え、なんとかその二言を絞り出した。誰がそんなことをするか。そんな下心で、お前を部屋に上げているわけじゃない。


「その考え方、本当にやめろ。ただの偏見だ。」


 オレの人格を否定するような言い草に、強い不快感が湧く。オレがお前みたいなタイプを簡単に部屋にあげている?違う。お前が勝手に上がり込んでくるのを、オレが完全に拒絶しきれていないだけだ。しかし、白石はオレの強い否定を聞くと、またしても妙な解釈をした。


「偏見?ふうん……なら、やっぱり私のこと、好きなんですね?素直じゃないなぁ、先輩は!」


 くそっ。またこれだ!オレの思考は論理で成り立っているのに、こいつの思考は二択しかねぇのかよ?好きか嫌いか、それ以外の理由で部屋に上げ続ける先輩がいるという可能性は、こいつの頭には存在しないのか?あまりにも極端すぎる!


 あー、もう面倒だ。こいつの思考回路を理解しようとすること自体が、根本的に間違っているんだ。分かり合えない相手と、無理に分かり合おうとするだけ無駄だ。そして、中途半端な同情心はさらなる面倒を引き起こすだけだ。


 オレは、もう二度と白石は「寂しいのかな」とか「可哀想なのかな」とかそんな余計なことを考えて、自分に強く否定できない理由を与えるのはやめたのだった。こいつはただの、オレの平穏を乱す「厄介な隣人」だ。それで十分だ。

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