32. 緊急!オレの安全なテリトリーが白石夏帆の猛攻によって崩されている
32. 緊急!オレの安全なテリトリーが白石夏帆の猛攻によって崩されている
7月中旬。じりじりと肌を焼くような陽射しが強くなり、アスファルトからの照り返しが眩しい季節になった。学生にとってのスペシャルイベント、待ちに待った夏休みがもうすぐそこまで来ている。
学校の教室でも、夏休みの計画についての楽しそうな話し声が飛び交っているのが聞こえる。オレはといえば、夏休みだからといって特別何かをする予定もない。
ただ、白石が毎日部屋に来るという日常から少しだけ解放されるかもしれないというかすかな希望を抱いているだけだ。
今日も、学校が終わって真っ直ぐ家に帰る。そしていつものように白石がオレの部屋に来て、ソファーに座っている。部屋の中はエアコンのおかげで快適だが、窓の外からは真夏の騒がしさが伝わってくるようだ。
「ねぇ先輩。もう少しで夏休みですね!どうします?いっぱいデートできますけど?」
「オレとお前は付き合ってないから、デートはしない。以上」
オレは反射的に、そして有無を言わせぬようにいつもの否定の言葉を突きつけた。何度も繰り返している言葉だが白石には全く効果がないらしい。
「むぅ……先輩って、ほんっとつれないですよね!」
「当たり前だろ、お前と一緒に外で遊んだりなんかしたら、勘違いされるだろうが」
学校の近くや誰かに見られそうな場所で、白石と二人きりでいたらどんな噂が立つか分かったもんじゃない。
「もう、いい加減バレてますって」
白石がまるで当然のことのように、あっさりとそう言った。
「は?」
何言ってんだこいつ?バレてる?何がだ?オレは学校では白石とは極力接点をもたないようにしている。休み時間には教室を出ないし、放課後はすぐに帰る。こいつを学校で見かけても気づかないふりをして避けている。バレるはずがないのだが……
って、バレるってなんだよ!?オレは白石とは別になんでもねぇし!付き合ってもいないし、特別な関係でもない。何も隠しているわけじゃないんだからバレようがないだろうが。オレの頭の中は混乱と焦りでいっぱいになる。
「実は先輩に言ってなかったんですけど……私、何回か告白されてるんですよ。っで、私は先輩のこと好きだからって断ってるんです。ちなみに先輩と同学年の人もいましたよ?」
白石は、オレの動揺に気づいたのか、あるいは最初から言うつもりだったのか、さらに爆弾を投下した。告白される?まあ、白石ならそれくらいあるだろう。問題はそこじゃない。断ってる?それはいいんだ。問題はその理由だ。
「は? お前何勝手なことしてんだよ!?」
思わず大きな声が出た。何回も告白されてるのも断ってるのもいい。だが、なぜオレが好きだという理由で断るんだ?
「なんで怒ってるんですか? 私、嘘は言ってないですよね?」
白石は、きょとんとした顔でオレを見た。その顔に、うっ……と詰まった。やめろその悪びれてない顔ウザいんだが。でも、確かに、白石の理屈からすれば、嘘はついてないのだろう。白石は本気でオレのことが好きだと思っているのだから。
「いや、普通は『好きな人がいる』とかでいいんだよ!なんで、オレが好きって言っちゃうんだよ?」
オレは頭を抱えたくなった。なぜ、そこまで具体的に、最も面倒な言い方をするんだ。オレの名前を出されることで、オレがどれだけ面倒な事態になるか分かっているのかこいつ?
「だって……先輩のこと、好きなんだもん。」
白石は、少しだけうつむき加減になり、上目遣いでオレを見た。その無邪気なようで、計算されたような可愛い顔と素直な言葉に、くそっ……と心の中で悪態をついた。可愛いじゃねぇか!なんて顔しやがるんだ!顔が熱くなるのを感じる。
「……わかった。確かに白石は悪くない。でも、次からはそういう風に断ってくれ。頼む」
オレは抵抗する気力を失い、白石の言葉を飲むことにした。お願いだから、学校でオレたちの関係性が噂になるようなことはしないでくれ。
「えぇ~? 面倒ですよ~。それなら、周りに付き合ってるって言っちゃえば良くないですか?隠すの大変ですし」
「だから付き合ってねぇし!何も隠されてないだろ!」
「でも毎日一緒にいますよ?」
「お前が勝手に来るだけだろ!もう来るな!」
もう、何を言っても無駄だ。こいつはわざとなのか?オレを困らせて、焦らせて、その反応を楽しんでいるのか?あるいは、本気で、オレたちが付き合っていると思っていて、その認識に周りを合わせようとしているのか?
どちらにしてもオレの平穏が失われていく。今まで、なんとか学校という領域だけは白石の侵入から守ってきたつもりだったのに。
こうして、オレの学校生活にまで、白石の被害が及ぶようになっていくのだった。夏休みが来る前に、状況はさらに悪化している。このまま、オレの日常はどこまで白石に侵食されていくのだろうか。不安と諦めが入り混じった感情でオレは白石の顔を見つめていた。




