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隣の部屋に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする  作者: 夕姫


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31. どうやら、今までと違うらしい

31. どうやら、今までと違うらしい




 週末。白石が実家に帰っている。久しぶりの誰にも邪魔されない完全な一人の時間。さて、何をするかな。時間はたっぷりある。普段、白石が来ているせいで後回しにしていたことでもやろうか。とりあえず先に宿題を終わらせるか。テーブルに教科書と問題集ノートを出す。


 すると驚くことに、宿題はあっという間に終わらせることができた。いつもなら白石が隣でちょっかいを出してきたり、関係ない話を振ってきたりするせいで倍以上の時間がかかるのに。


「うーん。早く終わったな。そう考えると、いつもあいつが話しかけてくるから終わるのが遅いんだな」


 一人部屋で思わず声に出して呟いた。白石がいないだけで、こんなにも効率が違うのか。改めて、白石の存在がオレの生活にどれだけ影響を与えているかを実感した。良い影響なのか、悪い影響なのかは判断に迷うところだが。


 宿題が終わった後、時間はさらに有り余っている。何をしようか。普段やっていることと言えば、テレビを観たり、ゲームをしたり、スマホをいじったり、といったところだ。白石がいてもいなくてもやることは変わらないはずなのに。


 テレビをつける。


 バラエティ番組をやっているがなんとなく頭に入ってこない。


 ゲームを起動する。


 一人で黙々とプレイしているとどうにも面白くない。


 スマホをいじる。


 SNSを見たり、ニュースを見たりするが、すぐに飽きる。


 時間が全然進まない気がする。むしろ、白石がいた時の方が時間の流れが早く感じられた。あれだけ「一人になりたい」と思っていたのに、いざ一人になってみるとどうにも落ち着かない。むしろ余計に暇になった気がする。


「オレ……白石が引っ越ししてくる前まで何してたんだっけ……こんなにつまらないと思ったことなかったのに……」


 ソファーに座っていたのだが、どうにも居心地が悪く、結局ベッドの上に移動した。仰向けになりながら天井を見つめる。真っ白な天井には何も映っていない。思考が自然と白石の事へと向かう。


 白石夏帆……面倒で、図々しくて、人をからかうのが好きで、予測不能なあの白石。あいつがオレの部屋に毎日来るようになってからは本当に退屈しなかった。毎日何かしら騒動が起きるか、くだらないやり取りをするか、突拍子もない言動に振り回されるか。


 その全てがある意味で刺激的だったのかもしれない。そして、なぜかあいつはオレのことが好きみたいでその向けられる好意――たとえそれが理解出来ない形であっても――心のどこかで、心地よくなっていた。認めがたい事実だがそれはもう否定できない感情だった。


 それに、あいつはどんな時でも笑顔を絶やすことがないし、すごくウザいやつだけど、一緒にいて心底嫌だと思ったことは実は一度もない。イライラすることはしょっちゅうだし、困らされることばかりだが、彼女の存在そのものを拒絶したいと思ったことはないのだ。


 だからこそ今の白石がいる生活がオレにとって、以前の一人の生活よりも楽しくて仕方がないと思ってしまっているのかもな……


 この考えに至った時、少しだけ自分でも驚いた。いつの間にかオレの世界は白石を中心に回るようになっていたのだ。時間はまだ夕食には少し早かった。しかしこのどうしようもない暇な時間を持て余し、何かしないと落ち着かない。


「ちょっと早いけど……夕飯でも食べるか」


 オレはベッドから起き上がり、キッチンへ向かった。冷蔵庫を開けて、白石が実家に帰る前に作って置いていってくれた、夕飯のタッパーを取り出す。冷蔵庫の中はタッパーでいっぱいだ。その一つに、ポストイットのような小さなメモ用紙がついていた。


「ん? 『先輩へ』ってなんだこれ?」


 白いメモ用紙には、白石らしい丸っこい字で、何か書かれている。オレはそのメモ用紙を手に取り、目を通した。そこには、白石の声がそのまま聞こえてくるような文章が綴られていた。


【どうですか!?私がいない寂しさとか、感じてくれてますか?私はすごく寂しいです!なので、帰ってきたらいっぱい甘えたり、遊んだりしたいです!いいですよね? 私たち付き合ってるんですから!それじゃ、待っててくださいね。 先輩の愛しの彼女 夏帆ちゃんより】


 相変わらず長ったらしくて、読んでいて気恥ずかしくなるような、そして都合の良い前提を押し付けてくるウザい文章だった。誰かにこのメモを見られたら、きっと死にたくなるだろう。しかしその白石らしい感情がそのまま詰まったような文章を見ていると、自然と口元に笑みがこぼれてしまう。


「なんだよこれ……付き合ってねぇって言ってんのによ……」


 声に出してそう呟いたが、その声にはいつもの苛立ちよりも、どこか柔らかい響きが混じっていたかもしれない。


 オレは、タッパーの蓋を開け、白石が作ってくれた料理を食べた。食べ終わったタッパーは白石に言われた通り水に浸してシンクに置いた。お風呂に入る前には白石の言葉を思い出しコップ一杯の水を飲んだ。そして夜寝る時は、いつもの設定温度より2℃上げて寝ることにした。


 一人きりの週末は明日もあるのに、もう終わりが見えている気がした。


「あ~あ……1人の時間もあと1日か……」


 白石が帰ってきたら、またきっと朝から騒がしいだろう。くだらないことで絡んできて、オレを困らせて、振り回してくるんだろうな。


「あ~面倒だな……仕方ねぇけどさ」


 この「仕方ねぇ」の中には諦めと、そしてほんの少しの白石の帰りを待つ気持ちが混ざっていることにオレは薄々気づいていた。あいつがいないとどうにも退屈で物足りない。白石が帰ってきて、またあの騒がしい日常が始まることを面倒だと思いながらも、心のどこかで待っている自分がいた。

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