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隣の部屋に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする  作者: 夕姫


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27. 始めからそうしてれば良かった?そんなの今さらです。気づいたときにはもう遅い。

27. 始めからそうしてれば良かった?そんなの今さらです。気づいたときにはもう遅い。




 いつものように白石がオレの部屋にいた。今日は特に何かをするでもなく、二人ともソファーに座って、つけっぱなしのテレビをぼんやりと眺めている。部屋の中には、テレビの音と、たまに聞こえる彼女の小さな鼻歌だけが流れている。この、なんとも言えない緩やかな空気にもすっかり慣れてしまった。


 そんな、ある意味平和な時間の中、白石がふいとテレビから視線を外しオレの方を向いた。


「ねぇねぇ先輩。ふと気になったことがあるんですけど?」


 また始まった。この「気になったこと」シリーズも、大抵が面倒事の始まりだ。だが、もう逃げる気力もない。


「なんだよ? お前の気になったことって、めんどくさいことしか言わないんだが?」


「失礼ですよ!あの、今日友達に先輩からなんて呼ばれてるのって聞かれて、素直に『白石』って答えたら、『えー?白石?名字っておかしくない?それ本当に付き合ってるの?』って言われたんですけど……おかしいですよね!?」


「うん。友達は正常だ。だって付き合ってないんだから」


 オレは迷うことなく、白石の友達の意見に同意した。それが至極真っ当な反応だろう。そして、オレたちの関係が白石が主張するようなものではないことを改めて突きつけた。しかし、白石はオレの言葉を全く受け入れない。むしろ、ここぞとばかりに次の要求を突きつけてきた。


「私のこと、白石じゃなくて夏帆って呼んでくださいよ~! ほらぁ、先輩はやく~!」


 白石は急に身を乗り出して、オレに詰め寄るようにそう言った。嫌だ。なんでお前の下の名前を呼ばなきゃいけないんだ。


「お前、夏帆って言うんだったな。忘れてたよ」


「えぇ~!?なんですかその態度!私傷ついちゃいますよ!?」


 白石は、演技じみた声でそう言い、顔を手で覆った。わざとらしいと思いつつも無視するわけにもいかない。


「ウザいからやめろ」


 いつものように素っ気なくそう返す。だが白石はここで引くようなタマじゃない。


「もう~! じゃあ、先輩が夏帆って言ってくれるまで今日は帰りませんから!」


 そう言いながら白石はオレの腕に、両手でしがみついてきた。なんだ急に。やめろくっつくな! 柔らかい感触がシャツ越しに伝わってくる。まずい胸が当たってるんだが!?


「だからくっつくなよ! 胸当たってんだよ!!」


 パニックになりながら、必死に引き剥がそうとするが、白石の力が意外と強くなかなか離れない。むしろ、さらに力を込めてしがみついてくる。こいつ……なんて握力だゴリラかよ。


「お前離れろよ!」


「夏帆って呼んでくれるまで離れませんし、帰りません!」


 白石は頑として離れない。本当にこいつは面倒くさいんだが……どうしようか。このままだと、物理的にも精神的にも、オレがもたない。そして、こいつはこのままだと、本当に帰りそうにない。泊まり込みに発展する可能性すらある。いやマジで。


 だが、今日のオレはいつもと違うんだ。いつもの、こいつの変な理論や強引さに根負けして折れるオレじゃない。ここで、こいつの要求をそのまま飲むのは癪だ。何か、駆け引きはできないか。覚悟しろ白石。


「なぁ白石。離れたら言ってやるよ?な?」


 オレはそう提案した。先に腕を離せば、お前の要求を飲んでやる。どうだ?この提案に乗るか?


「……じゃあ言わなくていいです。今日は、先輩の部屋にお泊まりします。一緒に寝ましょうね先輩!」


 えぇ!?逆効果!?なんでだよ!まさか泊まり込みの材料にされるとは!くそっ。こいつどんだけ面倒なんだよ! 自分の計画が、完全に裏目に出たことに愕然とした。


 もうダメだ。体力も精神力も限界だ。泊まり込みなんて絶対に避けたい。名前を呼ぶくらいで済むならもうそれでいい。オレは観念し、顔を少しだけ逸らし意を決して名前を呼んだ。それは、普段使い慣れない妙に気恥ずかしい響きだった。


「……夏帆、離れてくれるか?」


 声が、少し小さくなってしまったかもしれない。恥ずかしすぎるだろこれ。しかし、白石はオレの言葉を聞いても腕を離さない。


「え?聞こえませんけど~?何か言いました先輩~?もう一度お願いします」


 白石の声は、明らかに聞こえているくせにとぼけている。その顔には人が困っているのを見て楽しむ、いつもの意地の悪い笑みが浮かんでいる。


「お前! 絶対聞こえただろ!!」


「あれ?顔を赤くして可愛いな先輩は!なら私も……」


 白石は、そこで一旦言葉を切りオレの顔をじっと見つめた。そして弾けるような笑顔でとんでもない言葉を口にした。


「秋人先輩。どうですか?可愛いですか?ときめいちゃいますよね?」


 オレの下の名前。その響きと白石の満面の笑顔にさっきまで以上に顔が熱くなるのを感じた。心臓がドクドクと煩いくらいに脈打っている。耳まで熱い。恥ずかしさで死にそうだ。


「うぜぇ……」


「もう!先輩は照れ屋さんですね!」


 本当にこいつには何を言っても無駄だ。オレの反応を全て見透かしてそれを楽しむ。そしてどこまでも自分のペースを崩さない。くそっ。素直に最初から夏帆って呼んでおけば良かった……そうすれば、こんな物理的な攻防も、この恥ずかしい秋人先輩呼びも、避けられたかもしれないのに。後悔してももう遅い。


 結局、オレは名前ごときで白石に翻弄され、そしてこれ以上ないくらい恥ずかしい思いをするのだった。

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