24. 白石の中でオレは相手に言わせたいタイプらしい。
24. 白石の中でオレは相手に言わせたいタイプらしい。
オレの部屋は、今、画面から放たれる光と、電子音に満たされているはずなんだが……
「あんっ!……それダメ!先輩!」
「……。」
「もっと優しくしてください……あっそこです。そこいい」
「……手加減しろって言ってんのか?」
「だって……私、初めて……なんですよ?先輩も初めてじゃないんですか?独り善がりはよくないですよ……2人で気持ち良くなりたいです……」
「その言い方やめろ!なんか卑猥に聞こえるんだよ!ただのゲームだろうが。お前が下手なだけだろ!」
本当に、言葉の選び方がどうにも危なっかしい。こいつは、無自覚なのか、それとも分かってて言っているのか。後者な気もするから腹が立つ。
オレと白石は今、この難しいパズルゲームに悪戦苦闘している。2人協力プレイなんだが、白石が全く思い通りに操作できないから全然先に進めないのだ。
「もうちょっと右……そうそこ!先輩、私の1番いいところわかってる……」
「黙れ」
「あぁ〜そこじゃないですよ〜」
「じゃあどこだよ? 自分で動かせ」
「え……そういう感じですか先輩?いきなりドSですね。まぁ私が主導でと。なるほど」
なるほどじゃねぇよ。これはゲームだからな。変に意識したらオレの負けだ。その後も白石は、説明したいのは山々だが、言葉でうまく伝えられないという様子だ。そのもどかしそうな、ムカつく甘ったるい声と、画面の中でキャラクターが立ち往生している様子にオレはため息をつくしかなかった。
というかこんなにも下手なのに、白石はオレとゲームをやろうとする。一体何がしたいんだコイツは? 面白いのかこれ? まあ、白石は楽しそうにしているからいいんだけど。
「ほら、ここを動かせばいいんだろ?」
オレは画面をよく見て、白石がやりたいであろう操作を推測し代わりに操作してやった。するとパズルがカチリと嵌る音がした。
「そうです! 先輩なら分かってくれると思ってました。さすが私の彼氏!」
白石の声がぱっと明るくなった。そしてまた出た「彼氏」発言。条件反射のように訂正する。
「彼氏じゃないな。ほら、もういけるだろ?」
オレの訂正は、もはや白石には聞こえていないようだった。白石は画面に集中し次の操作を成功させた。
「はい!やったー!クリアできました!」
ステージクリアのファンファーレが鳴り響き、画面に「クリア!」の文字が表示される。白石は、本当に心から嬉しそうに両手を上げて喜んだ。その、子供みたいに無邪気にはしゃぐ姿を見ていると、なんだか可愛いな……と思ってしまう。普段の人をからかう意地の悪い顔とは全く違う表情。
でも……こういう無邪気なところは可愛いな……と思うと同時にさっきまでの操作のおぼつかなさや、くだらない発言を思い出して、少しウザいかなとも思う。いや……正直、かなりウザいな。この、可愛いとウザいが同居している感じが白石という人間の厄介なところだ。
ゲーム画面は次のステージに進もうとしている。白石がふとこちらを向いた。その顔には、少しだけ不安の色が浮かんでいた。
「ねぇ先輩。私とゲームやって楽しいですか?」
「は?」
「私、ゲーム下手ですよね?つまらなくないのかなって思って……」
「いや別につまらないとは思ったことないぞ。それよりお前は楽しいのか?」
正直、めちゃくちゃ楽しいかと聞かれると微妙だが、全く楽しくないわけでもない。むしろ、白石が楽しそうにしているのを見るのは嫌いじゃない。
「はい。下手ですけどゲームやるのは好きですし、先輩となら何でも楽しいです!」
白石は顔を上げ満面の笑みを浮かべた。その笑顔を見た瞬間、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。まるで胸の中に温かいものが広がるような感覚だ。顔もきっと赤くなっているだろう。この、理由の分からないドキドキと顔が熱くなる感じは一体何なんだろうか……
その感じを悟られたくないので、オレは再びゲーム画面を見る。次のステージが始まっていたらしい。しかし、白石との会話に気を取られていたせいか操作が遅れてしまった。画面には「ゲームオーバー」の文字が表示されていた。
「うわっ!? ごめんなさい、先輩! 私のせいで……」
「なら……もっと練習するんだな。そしたらもっと楽しくなるだろ?ゲームくらい、いつでも付き合ってやるからよ」
なぜか白石が申し訳なさそうにしているのが気になった。だから練習しろと言った。そして、その延長線上でゲームくらいならいつでも付き合ってやると言ってしまった。普段なら、早く帰ってほしい、もう関わりたくないと思うことばかりなのに……
「え?じゃあ毎日先輩の家で練習ですね!いや~ん。お互いに初めてですし……あの練習もしちゃいますか?」
「あの練習ってなんだよ!」
「私に言わせないでくださいよ~!恥ずかしいの分かってるのに相手にそういうの言わせたいタイプですか?」
「うぜぇ。お前はもう2度と来るな!」
本当にこいつはウザい。わがままだし、人をからかうし、突拍子もないことを言い出すし。でも、こうして一緒にいて笑ったり驚いたり、時にはイライラしたりする時間は決して悪い気にはならないんだよな。
この、厄介だけど、どこか惹きつけられるような関係性はこれからも続いていくんだろうな。そして、その過程でオレの気持ちは一体どうなっていくのだろうか。その答えはまだ、白石の笑顔と同じくらい掴みどころのないものだった。




