22. やはり本気の愛情に神様は味方してくれるらしい
22. やはり本気の愛情に神様は味方してくれるらしい
スーパーで大量に購入した食材と、新品の調理器具を持って部屋に戻ってきた。段ボールから出てきた真新しいフライパンや鍋、包丁が、今まで殺風景だったキッチンの隅を占領する。これから自炊を始めるわけでもないのに、なんだかキッチン周りが充実してしまいそうだ。
しかも、ほとんどが白石のために買ったようなものだ。オレは自炊なんてしないのに……全く無駄な出費だった。白石は購入したものをテキパキと棚にしまい始めた。どこに何があるか、まるで自分のキッチンであるかのように把握している。そして、一通り片付けを終えると満足そうに手を叩いた。
「さてと。まぁ、先輩はゆっくりゲームでもやっていてください!」
「ああ、そうさせてもらう」
言われるがまま、オレはリビングスペースに戻り、ソファーに座った。ゲームでもして、白石が料理している間の時間を潰そう。そう思ってコントローラーを手に取ったその時だった。
「あっ! 言うの忘れてたんですけど?」
白石がキッチンの方からオレに声をかけてきた。なんだ? まだ何かあるのか?
「なんだよ?」
「もし、私の手料理が美味しかったら、毎週週末は先輩の家で夕飯作って一緒に食べるってことでいいですよね?」
白石は、何の悪びれもなく当然のことのようにそう言った。その言葉を聞いた瞬間、コントローラーを持つ手が止まった。
「は?良いわけねぇだろ!」
何を言っているんだこいつ?しかも、あたかも当然ですよね?とでもいうような顔をしやがって。その、人の同意なしに物事を進めようとする態度が心底気にいらない。
「良く考えて見てくださいよ先輩。ちゃんと栄養のつくものが食べれるし、お金もそんなに減らない、しかも可愛い彼女の手料理なんですよ?良いことだらけですよね?」
白石は得意気に自分の提案のメリットを並べ立てる。栄養、節約……確かにそれは間違っていない。
「最後のは一旦置いておく。それじゃオレの時間がなくなるだろうが!」
夜は、オレにとって貴重な自由時間だ。それを毎週週末、白石の料理と食事に費やす? それはあまりにも大きすぎる犠牲だ。
「どうせご飯食べてるときなんて、テレビ観たり、スマホいじったりしてるだけじゃないですか。それなら2人でご飯食べた方が楽しいですよね?違いますか?」
白石はまたしても、有無を言わせぬ瞳でオレに同意を求めてくる。その真っ直ぐすぎる視線と自信満々の表情を見ていると、何を言っても無駄な気がしてくる。そうだ、何を言っても無駄だ。この状況を打開する唯一の方法は――
要は、こいつの料理が美味しくなければいいんだ。シンプルに考えろ。難しく考えなくていい。不味ければ、約束は無効だ。毎週料理されるという最悪の未来は回避できる。
「分かった。とりあえずオムライスを作れ。」
「えぇー? なんか適当ですね……まあいいですけど……」
不満そうにしながらも白石はキッチンに戻り、オレの視界から消えた。そしてカタカタと調理を始める音が聞こえてきた。野菜を切る音、フライパンが温まる音。オレはソファーに座ったままその音を聞いていた。
……こいつ手際がいい。野菜を切るリズム、フライパンに油を引くタイミング。普段から料理をしている人間の手つきだ。想像していたおっかなびっくりな様子は一切ない。期待を裏切るなよ……白石。不味い料理を作ってオレを解放してくれ。
その後も、調理の音はリズミカルに続いた。卵を溶く音、鶏肉と玉ねぎを炒める音、そしてケチャップで味付けする音。部屋の中に美味しそうな匂いが漂い始める。あれ? なんだか、本当にちゃんとしたものを作っているっぽいぞ?
……しかし意外だった。こいつ、めっちゃ家庭的じゃないか。想像もしていなかった姿に驚きを隠せない。認めたくないんだが……白石が料理ができる人間だなんて。
やがて、調理の音が止まり、白石がリビングに戻ってきた。手にはお皿に乗せられたオムライスが二つ。黄色い卵に包まれたオムライスはふっくらとしていてケチャップでハートマークが綺麗に描かれている。
「はい。出来ましたよ先輩。食べてみてください!」
白石は、満足そうにオレの前にオムライスを置いた。その完璧な見た目にオレは思わず固まった。
「おっ、おう……ふーん……まぁ、食べれそうだな。良かった良かった」
なんとか平静を装おうとしたが、声が少し上ずったかもしれない。ヤバい……すごい旨そうだ。見た目は完璧だ。問題は味だけだ。
「先輩。なんか動揺してません? 私が料理できないと思ってたんでしょ?」
「いや?オムライスくらい誰でも作れるだろ。見た目は悪くない。問題は味だけどな?言っとくが普通だなって思ったらさっきの話はなしだからな」
最後の希望を込めてそう言った。味だ。味さえ不味ければ全てはオレの計画通りになる。
「失礼ですね。まあ、食べてみてくださいよ。夏帆ちゃん特製のオムライスなので!自信しかないですから私!」
白石は自信満々にそう言った。夏帆ちゃん特製というのがウザいが。まぁいい。オレは、恐る恐るフォークを手に取りオムライスを一口食べる。
――瞬間、口の中に広がる優しい卵の風味と鶏肉と玉ねぎの旨味、そして甘酸っぱいケチャップライス。バランスが取れていてどこか懐かしい、家庭的な味だ。
……普通に美味しい。
「どうですか?美味しいですよね?このオムライスには私の先輩への愛情がこもってますからね!」
白石が、期待に満ちた瞳でオレを見つめてくる。正直に答えるしかない。
「うん……普通に美味いな」
普通にどころじゃない。想像を遥かに超えて、美味しかった。今まで食べたオムライスの中でもオレの好みだった。うわぁあああああああ!!!!!心の中で叫んだ。絶望の叫びだ。何でだよ!何で美味いんだよ!不味かったら、この面倒な契約を破棄できたのに!
「もう先輩ったら。照れちゃいますよ~」
くそっ……何でこんなに悔しいんだ!?不味かったら笑って、冗談半分で「罰ゲーム」とか言えたのに。全然嬉しくねぇ……逆に腹が立つぞ……
神様はいないんですね……オレのささやかな願いは、完全に聞き届けられなかったらしい。白石の料理の腕は、オレの想像を遥かに超えていた。
「じゃあ約束通り、週末は先輩の家で夕飯を食べることに決定ですね!やった!」
白石は、勝利宣言をするかのようにそう言った。もう、反論する術はなかった。彼女の料理が美味しかったという事実がオレの全ての抵抗を打ち砕いたのだ。
こうしてオレの、誰にも邪魔されないはずだった週末の夜は、白石との夕飯の時間として確定してしまった。白石の料理の腕前という、予想外の要素によってオレの時間は確実に削られていくことになったのだった。
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