18. ジュース『は』先輩も飲むじゃないですか!……は?
18. ジュース『は』先輩も飲むじゃないですか!……は?
オレの部屋は、またしても白石の指定席と化したソファーを中心にいつもの時間が流れていた。白石はそこに座って、テレビを観たりスマホをいじったりしている。オレはといえば、すぐそばにあるテーブルで適当に時間を潰しているか、こいつから話を振られれば応じるといった具合だ。
こうして同じ空間でほぼそれぞれ別のことをしている。それなら、自分の部屋でもできることだろうに。わざわざオレの部屋に来て、こんな風に過ごす意味が未だに理解できない。まあ、もはや日常の一部になってしまった光景だが。
そんな中、白石がスマホから顔を上げオレの方を見た。
「あの先輩。ジュースもらってもいいですか?」
「いつも勝手に冷蔵庫を開けて、プリンやアイスとかを食べるくせに、なんでジュースの時だけ聞いてくるのかは疑問なんだが?」
冷蔵庫の中身は、なぜか白石によって消費されていると言っても過言ではない。特にプリンとアイスは、オレが自分のために買っておいても、気づけばこいつの胃袋に収まっている。なのに、ジュースの時だけ律儀に許可を求めてくる。その基準が全く分からない。
「だってジュースは先輩も飲むじゃないですか!」
「プリンもアイスもオレが食べるから買ってあるんだよ!」
白石は、それが当然だとでもいうように答えた。いやいや、プリンもアイスもオレが食べたいから買ってるんだし、お前のために買ってるわけじゃない。もちろん、こいつが勝手に食べていることを今さら咎めるつもりはないが、その理屈は通らない。
オレは立ち上がり、キッチンの方へ向かった。冷蔵庫を開け、冷えたオレンジジュースのボトルを取り出す。そして流し台には、白石専用のコップが置かれている。ガラス製のごく普通のコップだが、そこに白石の名前が書いてあるわけでもないのに、いつの間にか白石が使うようになったものだ。正直、オレの部屋に白石のコップがあること自体気に入らない。
しかし、かと言って専用のコップを使わせないと、「もしかして先輩、私と間接キスしようとしてます?」とか、くだらないことを言い出すのが目に見えている。面倒なことになるよりはマシだと自分に言い聞かせている。
白石のコップにオレンジジュースを注いでやると、彼女は嬉しそうにそれを受け取った。そして、美味しそうにゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。
「ぷはーっ!ありがとうございます!……先輩って本当に優しいですよね。さすが私の彼氏ですね!」
ジュースのお礼を言ったかと思えば、すぐにこれだ。本当にブレないやつだ。
「彼氏じゃないからな? ジュースくらい自分で買ってこいよ」
適当に受け答えをしながら、オレは自分のコップにもオレンジジュースを注いだ。冷たいジュースが喉を通り過ぎていく感覚に少しだけ落ち着く。
「もう、先輩ったら照れちゃって~。可愛いんだから!」
「はいはい」
適当にあしらいながら、オレたちは二人でソファーに座ってテレビを見ることにした。特に面白い番組をやっているわけでもないが、なんとなく画面を見つめる。部屋の中には、テレビの音と二人分の息遣いだけが漂っている。この、なんとも言えない緩やかな空気にいつの間にか慣れてしまっていた。
それをボーッと見つめていると、ふと、横に座っている白石が気になった。彼女はテレビ画面に集中しているようだ。その横顔は、普段の騒がしさが嘘のように静かで穏やかな雰囲気を纏っている。一体何を考えているんだろうな。
よく見ると、やっぱり可愛い顔をしているんだな、と改めて思った。まつ毛は驚くほど長く、伏せられた目元に影を落としている。肌は透き通るように白く、滑らかに見える。そして、肩にかかるくらいの髪は、光を受けてサラサラと輝いているようだ。こうして近くで見ると、本当に整った顔をしている。そんなことを考えていたせいか、無意識のうちに白石の横顔に見惚れてしまっていたらしい。時間も忘れて、ただじっと彼女の顔を見つめていた。
「ん? なんですか先輩?」
「えっ!? いや、別に……」
「もしかして私のこと見てました?」
白石の目が、好奇心に満ちた光を宿してオレを見つめてくる。ここで正直に「見てた」なんて言えるわけがない。何を思われるか分かったものじゃない。
「見てねぇよ!」
「ホントですかぁ? まあいいですけど~」
白石は、オレの慌てた様子を面白がっているのか、それとも本当に気にしていないのか、どちらとも取れるような言い方でニコッと笑みを浮かべた。その笑顔を見た瞬間、またしても心臓の鼓動が早くなるのを感じた。さっきのドキドキとは少し違う。これはなんだか、温かくて柔らかい心地の良い種類のドキドキだ。
この気持ちが何なのかは分からない。彼女の笑顔が綺麗だったからか、それとも別の理由があるのか。いつものこいつに対するイライラや困惑とは全く違う。暖かな陽だまりに包まれたような、そんな感覚。自分でも理解できない感情にオレはただ少し戸惑うしかなかった。白石の笑顔がオレの中にまた一つ未知の扉を開いたような気がした。
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