12. 普段とのハードルが低すぎると何でも「良い」と勘違いしてしまう
12. 普段とのハードルが低すぎると何でも「良い」と勘違いしてしまう
今日の天気は快晴だったがオレの気分はどこか晴れなかった。というのも、今日は不当な約束だが、白石と出かけることになっている。約束の時間きっかりに、オレは白石の家の前に立っていた。少し息を整え、インターホンに手をかけようとしたその時ドアが軽快な音を立てて開いた。
「おはようございます先輩!」
まぶしい笑顔と共に現れたのは、今日の待ち人、白石だ。朝から元気な声を聞かされると少しだけ気が滅入る。
「おっ、おう……おはよう」
間の抜けた返事しかできなかったのは、目の前の白石の姿に一瞬言葉を失ったせいもある。今日の白石は、いつもの制服姿とは全く違う雰囲気だった。白のシンプルなブラウスが清潔感を際立たせ、腰からふわりと広がる紺色のロングスカートは、すらりとした脚を隠しつつ上品な印象を与える。全体的に清楚でどこか大人びている。白石はそんなオレの様子に気づいたのか、小首を傾げながらニヤッと意地の悪い笑みを浮かべた。
「この前も思ったんですけど、先輩私の私服姿、好きなんですか?」
そう言いながら、彼女はスカートの裾を少し持ち上げくるっと一回転してみせた。風がスカートをふわりと持ち上げ、彼女の動きに合わせて揺れる。悔しいが正直とても似合っている。普段とのギャップに心臓が一瞬跳ねるのを感じた。
そんな内心を見透かされたかのように、白石がふいっと顔を近づけてきた。ほんの数センチの距離まで接近した彼女の顔はいたずらっぽくどこか挑発的だ。かすかに香る、彼女のシャンプーか何かの甘い匂い。そして、耳元に唇を寄せ、囁くような声が鼓膜を震わせた。
「可愛いですか? 嬉しいです……」
ゾク、と背筋に電流が走ったような感覚。白石の声が耳から直接脳へと流れ込み、あっという間に全身を駆け巡る。心臓がバクバクと跳ね上がり体温が急上昇するのを感じた。きっと、顔が真っ赤になっているに違いない。情けない姿を隠すようにオレは慌てて白石から視線をそらした。
「顔、赤くなってますよ先輩?」
「うるさい! 早く行くぞ!」
我ながら乱暴な物言いだったが、これ以上からかわれたくなかった。足早に歩き出したオレの後ろから、白石の「あー待ってくださいよ~」という、心底楽しげな声が追いかけてくる。
駅まで歩き、電車に乗って繁華街の方へ向かう。電車の窓の外を流れる景色はどんどん都会めいていく。車内は休日ということもあってかそれなりに混み合っていた。つり革を掴みながら、隣に立つ白石をちらりと見る。彼女は窓の外を見ているのか、それとも何も考えていないのか、ぼうっとした表情をしていた。少し落ち着いてきたところで、ふと、今日どこに行くのかを全く知らないことに気づいた。
「ところで、どこに行こうとしているんだ?」
隣の白石に声をかけると、彼女はぱっとこちらを向いた。その顔は先ほどまでの無表情から一転、わくわくとした子供のような表情に変わっていた。
「えっ?それはですね……内緒です」
そう言うと、白石は人差し指を自分の唇に当てて悪戯っぽく微笑んだ。その仕草が妙にサマになっていて、また少しドキリとさせられる。本当にこいつは人を翻弄するのが上手い。
まぁ、行き先なんてどこでもいいのだが。でもこんな風に、心の底から楽しそうな白石を見るのは、もしかしたら初めてかもしれないな……そんなことを考えていると目的の駅に着く。
「着きましたよ先輩! さぁ、入りましょう」
白石に手を引かれるようにして電車を降り駅を出る。連れてこられたのは、最近できたばかりだというガラス張りの壁がお洒落なカフェだった。外から見ただけでも、洗練された雰囲気が伝わってくる。正直、オレ一人では絶対に入らないような店構えだ。
店内に入ると、白石が選ぶだけあって期待を裏切らないお洒落さだった。木目調のテーブルや椅子、柔らかな照明、そして店内のあちこちに飾られた観葉植物が落ち着いた空間を作り出している。客層もやはり女性が多く、話し声が心地よいBGMのように響いていた。白石に促されるままオレたちは窓際の席に着いた。窓からは賑やかな街の景色が見える。
席に着くなり、白石が嬉しそうに話し始めた。
「このお店、友達がお洒落なお店だから、先輩とデートで行ってみたらって教えてくれたんですよ」
「ん?お前……友達にオレとのことなんだって言ってんだ?」
何気なくそう尋ねたオレの言葉に、白石はきょとんとした顔をした後、当たり前のように言い放った。
「え? 彼氏ですけど?」
「はぁ!?お前……友達に嘘つくなよ! 変な誤解されるだろうが!」
思わず声が大きくなってしまった。周りの客がちらりとこちらを見た気がするが、今は白石の言葉に頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
「でも、事実じゃないですか」
「事実じゃねぇし! オレはお前と付き合ってないだろ!」
一体こいつは何を言っているんだ?完全に会話が成り立たない。オレの常識と白石の常識は、どうやら根本的に違うらしい。しかも何を言っても、こいつの中の妙な理屈で返されてしまう。疲れる……
「まぁまぁ先輩。とりあえず注文しましょう! 何がいいかなぁ……」
白石はすぐにメニューを開き、真剣な顔でどれにしようか悩み始めた。その顔を見ていると、さっきまでのイライラが不思議と収まっていく。何を考えているのか全く分からない掴みどころのない奴だ。でもこうして楽しそうにメニューを選んでいる姿を見ていると、なぜだろう……全く憎めないオレがいるのだった。この不当な約束も悪くないのかもしれないなんて、一瞬だけ思ってしまった。
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