11. 結局いつでも人は非日常を求めるものだ
11. 結局いつでも人は非日常を求めるものだ
部屋の空気はどこか淀んでいて、少しだけ埃っぽい匂いがする。カーテンの隙間から伸びる光の帯の中を、小さな塵がキラキラと舞っているのが見える。今日もまた、この部屋には不法占拠者……と化した白石がいる。ソファーに寝転がったり、テーブルの上に教科書を広げたり、好き勝手に振る舞っている。いつもの光景だ。
そんな白石が、ふと体を起こしてキラキラした目をオレに向けてきた。何かを企んでいるときのあの独特な表情だ。嫌な予感しかしない。
「ねぇねぇ先輩」
白石は少し甘えたような声を出して、ソファーから降りてオレのそばに寄ってきた。また距離が近い。
「今度の休みにデートしましょうよ!」
…は?
「私たち付き合ってから、まだ一回しかデートしてないですよ?たまにはお出かけしましょうよ~。」
「その一回って、この前のお前が遅れてきたやつだろ?ただの買い物だ。あれを大袈裟にデートとか言うなよ」
事実を淡々と告げる。あれはあくまでただの買い物。すると、白石はにやぁと悪どい笑みを浮かべた。
「あれあれぇ?先輩、『付き合ってること』は否定しないんですね?」
ぐっ…!しまった。揚げ足を取られた。普段なら真っ先に「付き合ってねぇだろ!」と否定するところを、デートかどうかという点に気を取られて、そこを疎かにしてしまった。
「もう何百回も否定しているが?お前とオレが付き合うなんて、天地がひっくり返ってもありえないだろうが」
改めて強い口調で否定する。これでもかというくらいに。しかし白石は少しも怯まない。それどころか、むぅー、と不満そうに唇を尖らせまるで駄々をこねる子供のようにブーイングを始めた。
「むぅー!先輩のいじわるー!もう知りません!」
そして次の瞬間、白石は話題を唐突に変えてきた。この切り替えの早さもこいつの恐ろしいところだ。
「じゃあ、先輩の好きな人ってどういう人なんですか?タイプとか教えてくれてもいいじゃないですか!」
「は?なんでそんなこと、お前に言わなくちゃいけないんだよ」
警戒心が警報のように鳴り響く。こんな情報、こいつに与える必要はないし、与えたら何をされるか分かったもんじゃない。
すると、白石はさらに一歩踏み込んできた。その表情は、真剣なのか冗談なのか判別がつかない。
「えー、教えてくれないんですか?じゃあ先輩の好きな人は私だと認識しますからね?そうしたら、次からは『付き合ってない』なんて、そんな悲しい否定をしないでくださいね?」
本当にうぜぇ。マジでこいつ……どこまで図々しいんだ。情報を引き出すためならこんな屁理屈まで並べるのか。ある意味、感心するほどいい性格をしている。
「どうなんですか先輩?可愛い系?それとも美人系?」
白石が、さらに畳み掛けるように問いかけてくる。その探るような目に思わず視線を逸らす。仕方ない。このまま答えないと面倒だしな。
「……そうだな。強いて言うなら、可愛い系、か?」
少しの照れと、なぜこいつにこんなことを答えているんだという自問自答を抱えながら、ぽつりと呟く。オレの答えを聞いて白石はにっこりと笑った。そして悪魔のような言葉を口にした。
「へぇ?可愛い系ですか?それって、まさか私のことじゃないですよねぇ?」
「それはないから安心しろ。断じてない」
こいつは何を言っているんだろう……。いや、何を言いたいのか、白石の意図は痛いほど分かる。
「でも、私って可愛い系ですよね?よく言われますし?」
自分で言っちゃうあたりが、あざといっていうか、なんだかなぁ……内心で呆れながらも、反論する言葉が出てこない。確かに顔だけを見れば白石は可愛い。それは間違いない。
「なら、私でもいいですよね先輩?可愛い系なんですから。違いますか?だから、私が彼女でも問題はないということで、解決ですね!はい、論破!だから、今度の休みにデートしましょう!」
この強引な論理展開。自己完結型の話し方。そして、全てを自分の都合の良いように解釈する能力。本当にこいつはめんどくせえ……白石の顔を眺める。確かに整った顔立ちをしている。黙っていれば可愛いと思うぞ?でも喋るとこうだ。ウザい。理屈が通じない。
結局、この話しはどこまで行っても平行線だ。白石のペースに巻き込まれて疲弊するだけだ。勝手に「彼女」だと言い張り、勝手に論破したことにして、強引にデートに持ち込もうとする。このループ。どうせ何を言っても無駄だ。一度引き受けてしまえば、それで話しは終わる。
「……はぁ。わかったよ。今度の休み、空けとく」
力なくそう答える。白石はオレの返事を聞いて、飛び上がりそうなほど喜んだ。
「やったー!ありがとうございます先輩!」
キラキラした目で、矢継ぎ早に質問を繰り出してくる白石を見ながら、内心でため息をついた。デート、か。本当にオレたちの関係は一体何なんだろう。彼女だと勝手に決めつけ、強引に日常に入り込んできて、そしてこうして強引に「デート」に連れ出そうとする。面倒でウザくて理屈が通じない。
でもほんの少しだけ、いつもの日常から抜け出すことへの微かな期待がないわけでもない。という全くもって複雑な感情を抱いている自分に気づきさらにため息をつくのだった。
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