第6話 さいきょうのAIばくたん!?
おっさんの朝は普通だ。
目覚ましも鳴らさずに、9時に起床。
えらいな、俺。
定年退職者にしては、かなりの俊足だと思うぞ。
エアコンのスイッチを入れる。
今朝も寒いので、窓とカーテンを少し開き外気を入れる。寒いからちょっとだけ。
コーヒー用のお湯を電気ポットで沸かす。
淹れるのはドリップコーヒーだ。
ドリップにコーヒーの粉を2杯投入する。
シアトルのコーヒー屋さんで一番細かく挽いてもらった。
東南アジア産の濃い豆だな。
おっさんはダークな味が好きなのだ。
酸味が強いのはだめだぞ。
コーヒーを入れる間にパンをトーストする。
一枚で十分だな。
トーストができたら、フランス産の塩味の効いたバターを少し。
量は控えめにする。
気持ちだけな。
コーヒーの香りが鼻孔をくすぐる。
トーストとともに味わっていただく。
朝から贅沢だって?
ぼっちなおっさんはグルメなのだ。
これは常識だぞ。
ゆっくりとした時間を過ごす。
今日はこれから大仕事だ。
今はその前の大切な準備時間なのだ。
***
パソコンの電源は入ったまま。
さあ、準備は整った。昨日の続きだ。
タスクバーになにやら新しいアイコン。
ビックリマーク(!)が点滅している。
まだアップデートは終わっていないのか?
ビックリマーク(!)をダブルクリックしてアップデートを進める。
なにやらメッセージが…
『パーソナルナレッジデータベースの構築を開始します』
『パーソナルSLMを最適化するため、ローカルリソースのスキャンを実施します』
『同時に、ローカルデータのインデックス化を行います』
『構築中はパソコンをAC電源に接続し、電源を落とさないでください』
『パーソナルAIシステムの初期プロンプト設定まで…残り3時間です』
まだかかるのか?
散歩に行こうかな。
***
結局、散歩ついでにお昼は外食にした。お腹いっぱいだ。
さてさて、どうかな?
メッセージが溜まってるな。
『パーソナル AIシステムの構築は正常に完了しました』
『これより初期設定に移ります』
『初期設定に同意しますか? YES/NO』
初期設定に同意するってどういうこと?
まぁ、YESだな。ほい。
『パーソナル AIシステムの名称を設定してください』
名称?
表示されたダイアログに入力だ。
「汎用箱型決戦AI」っと
『却下されました』
え、ええっ、なんで?
仕方がない。じゃあ、これだ。
「かちょう」
『却下されました』
なぜに却下?
おっさんのロマンが満ち満ちた名前なのに。
次々に却下されて、名前が決まらない。
まいったな、先に進めないぞ。
なんか、子供の命名みたいだな。
なかなか決まらないってよく聞くな。
いやいやそうじゃない、俺は先に進みたいんだ。
ダイアログにあるHELPで確認しよう。
ほいっ。
『プライベートAIの成長には適切な名称が必要です』
そうなんだ。
名は体を表すってか?
体はあるのか?
『オススメを表示しますか? YES/NO』
YESだな。
『ちょっと君』
はぁ?なに、これ?却下だ却下。
NOと。
『却下されました』
えっ、なぜに却下?
何度か試したが、何度やっても却下される。
めんどくさいな。
もういいや。YESっと。
『承認されました』
決まったみたいだな。なんてわがままなんだ。
『利用者の情報取得フェーズに移行します』
大げさだなぁ。
『利用者の姓名および固有情報を提供してください』
はいはい。
名前は「喜多 公輔」
読みは「きた こうすけ」
血液型は……O型
生年月日は……19XX年4月1日
好きなバンドは……極楽バンド
好きなお弁当は……唐揚げ弁当
好きな花言葉は……???
え、ええぇ……。
こんなのいるのか?おっさんだぞ?
ようやく終わったな。
なんだったんだ、これ?
砂時計が動き出した。
『パーソナルAIの最終構築はまもなく終了します』
『ほぎゃーーー!』
えっ、赤ん坊!?
***
『はじめましてー、ぼくはちょっとくん。おっちゃんのぱーそなるえーあいだよー』
おっちゃんって誰?俺のこと?
親戚の子供か?
『しすてむこうせいじに、じどうせいせいされたんだよー』
変えられないの?
『できないよー』
まあ、太郎じゃないからいいか。
山田さんの気持ちがよくわかった。
ChottAIのアップデートからなにが起こったのか聞いてみよう。
生成AIだから、答えられるよな?
大体こんな感じだ。
・ちょっと君は、ChottAI(クラウド型AI)から派生したパーソナルAI(ローカル型AI)。
・アップデート時に試験的なプロトタイプが導入された。
そうなのか?
・クラウドAIの弱点を補い、パーソナルAIとして機能。
・俺のPCはローカルAI構築に向いていた(グラボ制御はちょっと君の管理下に)。
・クラウドAI(ChottAI)とも連携可能だが、インターフェースはちょっと君が担当。
・知識データベースを構築し、ローカルで学習する。
・喋れない(発話モジュールは有償)。
こんなところか?
すごい、すごすぎる!
まさに俺が望んでたパーソナルAIが誕生したんだ。
これは嬉しい。
ワクワクが止まらない。
よし、まずは王道の命令だ。
「なぎはら……違った。」
「爆上がりする銘柄を教えてくれ!」
『わかんないよー (´・ω・`)』
何!?
そこは予測できないの?
なぜに絵文字?
やっぱりAIに丸投げしちゃダメか?
いや、でもちょっとは期待してたんだぞ。
次回 RPGは神
おっさんは伝説の勇者の夢を見るか?
※この作品は【訳あり品】です。
正規品(?)はAmazon Kindleにて公開予定──かもしれません。