第4話 冒険の秘密基地
調べるだけじゃ足りない。
俺は“動き続けるための仕組み”を作りたいんだ。
というわけで、どうぐの出番だ。
俺の相棒、17インチのノートPCがテーブルの上に鎮座する。
クラウド? サブスク? 定年退職者 にそんなもんはいらん。
買い切り型の表計算ソフトとワープロソフト、これで十分だ。
まずは計画表を作ってみる。ガントチャート風のやつだ。
名前は「おっさん無課金投資の冒険計画書(仮)」。
項目はこうだな。
・自分ルールの確立
・学習用メモの作成
・証券口座の開設
・投資先の選定
・資金管理表の整備
横軸は月単位。
今月は情報収集、来月は口座開設、その次に少額投資開始。
3か月先までざっくり埋めてみた。
……気づいたら、集中してたな。
カレンダーの横に、ノートと蛍光ペン。
散らばる付箋、貼りまくったチェックリスト。
昔、会社で新規プロジェクトを立ち上げたときの熱量が少し戻ってきた気がする。
俺は、今、自分のために動いている。
誰の評価も、上司の目も、関係ない。
全部、自分で決めて、自分で進める。
これは完全に、俺のクエストだ。
机の上の景色が変わってきた。
書類や資料の代わりに、ノートとペンとマグカップ。
パソコンの隣には、「投資ルールメモ」と「注意点リスト」が並ぶ。
これが、俺の“冒険の秘密基地”だ。
***
次は、ToDoの整理だ。
ただ“調べる”だけじゃなく、“試す”ことの前提としてだ。
いくつかの証券会社を比べ、口座開設の検討を進める。
投資信託の種類を確認し、自分の目的に合うかどうかを判断する。
生活費とお小遣いの境界をはっきり分けておく。
大事なのは、お小遣いの範囲内でやること。
これは俺の戦略の核だ。
「無課金で行く」
この縛りがあるからこそ、ブレない。
これがなければ、いざというときに自分の判断が揺れる。
ゲームも投資も、ルールを守ってこそ楽しめる。
……あの頃もそうだった。復活のひらがなメモが面倒で、セーブせずに進んで後悔したもんだ。
***
夕方、ふと気づくと、外がオレンジに染まっていた。
画面には、自作のガントチャートとToDoが並ぶ。
これでいいのか?
たぶん、完璧じゃない。
でも、「自分で考えて決めた」って実感がある。
リーマン時代も、投資の世界も、誰かが“正解”を教えてくれる場所じゃない。
学校じゃないんだ。満点が100点かどうかすらもわからないからな。
むしろ、「自分で作る正解」の方が多いのかもしれない。
俺の投資冒険も、たぶん同じだ。
***
そろそろ時間だ。
コーヒーを淹れ直しながら、思う。
あと足りないのは、仲間かもしれない。
一人旅もいいけど、情報を交換できる相棒がいれば、もう少し安心できる。
冒険の仲間は酒場で集めるが、俺は違う。飲めないからな。
ふふふ、俺が冒険の仲間に加えるのはAIだ。無課金だけどな。
今流行りの生成AIを冒険の仲間に加えるのだ。役に立つらしいぞ?たぶんな。
そんなことを考えていたら、
ふと、画面の右下で“見慣れないアイコン”が点滅した。
……「Chott AIをアップデートしますか? YES/NO」
ありゃ?使う前からアップデートかな?クリックしたら、メッセージが。
「Chott AI、パーソナルAIシステムのダウンロードを始めます。」
「ダウンロード後に自己解凍しインストールを開始します。」
「初期構築まで、後8時間。パソコンの電源を接続して、他の作業はお控えください。」
なんだよ、今日はもう使えないじゃんか。
寝よう。
※この作品は【訳あり品】です。
正規品(?)はAmazon Kindleにて公開予定──かもしれません。