第3話 村人Aは情報を集める
よし、今日は情報収集だ。
山田店長に投資の話を振られてから、どうにも落ち着かない。
知らないことをそのままにしておくと、心がザワザワする。
これはリーマン時代から変わらない、俺の性分だ。
パソコンを立ち上げる。17インチのノート型、俺の相棒。
ディスプレイが大きいのは正義だ。老眼には特にな。
まずは「S&P500」ってやつを検索。
出てきたのは……数字の羅列と横文字の山。現役の時のようだな。
うへぇ。だが、逃げない。むしろ燃えてくるぞ。
調べると、S&P500はアメリカの大企業500社をまとめた指数らしい。
日本で言う日経平均みたいなものか。なるほどな。
次は「NASDAQ100」。これもアメリカだ。IT系が多いのが特徴だ。
S&P500よりも成長性重視だって。そりゃそうだろ、俺も業界人だったしな。
山田店長の言ってた「右肩上がり」って、たぶんこのことだな。
さらに「NISA」についても見てみる。
非課税で運用できる制度? へぇ……今は「新NISA」になったのか。
昔のNISAより、使える金額も幅も広くなってるらしい。
なるほど、少しずつ全体像が見えてきた。
けど、ここで一つ気をつけていることがある。
SNSやYou◯ubeの“おすすめ解説”は、今はまだ見ないようにしている。
ああいうのは、“最初に何を信じたか”で後の判断がブレやすくなるからだ。
まずは、ウィキ◯ディアで用語の意味をざっくり押さえておく。
その上で、公式サイトや信頼できそうな記事で裏を取る。
このやり方は、現役時代に身につけた「情報確認のクセ」だ。
ちょっと待て待て。
俺は、何のために投資をしようとしているんだろう?
金儲け? いや、それだけじゃない。
山田店長の言葉が、ふっとよみがえる。
「投資って未来の自分に対する贈り物なんスよ」
その言葉を、自分なりに消化しようとしている。
お金だけじゃなく、自分の“選択肢”を増やすことか?
そうか、未来に向けて、「まだ俺は終わってない」と言える何かを持つこと。
──そういう気がしてきた。
パソコンの画面に、いくつかの単語が並ぶ。
・ETF
・インデックス投資
・分散投資
・リスク管理
……どれも大事そうだけど、ぜんぶ一気に覚えようとすると混乱する。
だから俺は、「わかったこと」をノートにまとめることにした。
紙のノートに丁寧に書く。手で書くと記憶に残る。
そして、あとで見返せる。
文字を書きながら思う。
投資って、知識を集める“冒険”に似てる。
知らない世界を、一歩ずつ踏みしめながら歩いていく感じ。
昔、ドラ◯エのマップを一歩づつ手書きで描いていた頃を思い出す。ここは毒の沼じゃないだけマシだ。
あれと同じように、今は投資というダンジョンを“手描きの地図”で攻略している最中だ。
この地図が、いつか誰かの役に立つかもしれない。
いや、立たなくてもいい。
これは俺自身の地図だ。俺だけの冒険だ。
そして、この“情報集め”こそが、
村人Aのおっさんが一歩ずつ勇者に近づいていく準備のフェーズなのだ。
「そうびしますか?」
なんだか、そんなログが画面に出てきそうな気がした。
※この作品は【訳あり品】です。
正規品(?)はAmazon Kindleにて公開予定──かもしれません。