第15話 山田一族の迷走
今日も下北沢のマッサージ店「りらぽん」にやってきた。
「へい、大将やってる」
おっさんのノリは常に平常運転だ。
受付を済ませるとユウが視線を外さない。
「ん?」
「シショー、施術が終わったら時間もらえないかな?」
この言い方は、何か迷ってる時のヤツだ。
いいよ、特に用もないし。
山田店長の施術を受ける。
「喜多さん、背中から腰にかけて安定の鉄板ですねー」
こちらも平常運転。平和が一番だ。
施術を終え、ユウに連れられて店を出る。
今日のお店は行きつけらしい。
意外、年季の入った居酒屋だ。
和風だな。女子率高いなぁ。
変に気後れしそうだ。おっさんなのに。
小上がりもあって家庭的な雰囲気もプラスポイントだな。
下北沢は若者が多い。人気の町だからな。
あの小上がりにいるグループもみんな若い。
大人組とJK組かな?
飲酒はダメだぞ。ジュースにしなさい。
ダメな大人になるぞ。
あっダメな大人がいる(いつものスカジャンのお姉さんだ。よく見るなー)。
酔っ払っているところばかりだけど。
他の大人組の視線がキツいな。
いや、JK組の視線はもっとキツかった!
「お待たせしましたー」
飲み物とおつまみが運ばれてきた。
居酒屋で2人ともジュースってのも何だけど、ユウも飲まないからな。
さて、話を聞こうじゃないか。
「それで、投資を始めたいんだな」
「うん、そうだよ」
「で、何か考えがあるのか」
「それがわからないから困ってるんだよー、相談に乗ってよ、シショー」
と言いつつ、ジュースを注いでくる。
こいつ、手慣れてるな。
ジュースだけど。
「シショーも始めたばかりでしょ?だから教えて欲しいんだー」
確かに、初心者だからこそ話せることはあるかもな。
「山田さんには相談したのか?」
「相談したよー。だからシショーに相談してるんじゃん」
山田さん、えらい言われようだな。
ツッコむのはやめとこ。
話を聞くと、俺の体験談が知りたいらしい。銘柄の話だけしか出てこなかった時点で山田さんとは合わなかったんだな。
「そうだな、俺は伝説勇者の冒険をモチーフにしたんだよ」
「何それウケるー。意味わかんない」
だろうな、そこで詳しく説明だ。
「なるほどー、シショーはそうやって投資のスタイルを決めたんだね」
「俺は定年退職者の年金受給者だからな。冒険するにはちょっと厳しい。なので投資はお小遣いの範囲にした。だから追加で資金投入しない無課金でゲームとして楽しむことにしたんだ」
おっさんだからな。
「おもしろーい、ノリが軽過ぎるー」
「無課金ゲームと考えれば楽しめるだろ?」
ただしユウはまだ若い。リスクも取れる。
それをどう捉えるかだな。
「そうか、やっぱり方針が大事なんだね」
「そうだ、骨格がしっかりしてないとその上に筋肉つけても持たないからな」
「だね、勉強になるよ」
なら、ちょっとだけヒントをあげよう。最後のかわいい弟子だしな。
「ラノベって読んだことあるか?」
「あるよ。学生の時はハマった」
じゃあ大丈夫だな。
定番の異世界例え話だ。
〈ドラゴン討伐案件〉
ドラゴン討伐をどうするか?
それを考えてみよう。
ドラゴンを投資市場とみなすんだ。
「シショー、どゆこと?」
どうするか、考えてみな。
「ん?仲間を集める」
投資に仲間はいないぞ
ぼっちな冒険だからな。
「じゃあ、いい武器と防具を装備する」
無課金だぞ。
「うーん、勇者にお願いする」
お前はやらんのか?
大事なことがあるぞ、
「うーん、ううう……」
答えは、まずドラゴンを調べる事だ。
「?」
ドラゴンは何ドラゴンだ?
「あっ、そうか。炎ドラゴン、水ドラゴン、土ドラゴンもいるね!」
そうだ、まず戦う相手(銘柄)を調査しないとダメだ。
炎ドラゴンと水ドラゴンじゃ戦う時の武器や装備が違うよな。
「そうだね!」
なので、戦う相手(銘柄)の本質を知ることが大事だな。収益率よりもな。
「なるほど、よくワカるー」
もう一つあるぞ。
「何?」
冒険者ギルドに討伐依頼を出すのもありだ。
「そうか!自分で戦わないからリスクが少ない。この作戦がベストなの!?」
冒険者ギルドに討伐依頼を出すってことはプロの冒険者を雇うってことだな。
「うん」
ところが冒険者ギルドに討伐依頼を出すには依頼料がいる。
「そうだね」
討伐依頼を出しても討伐が成功するかどうかわからない。
「確かに」
討伐依頼を出し続けるにはずっと依頼料が必要だ。
「ううう……」
もちろん討伐成功の報酬が得られることも多い。
投資に置き換えれば、冒険者ギルドへの依頼は投資信託だな。
プロが戦って(運用)してくれるから、自分で戦う(運用)よりも手慣れてるだろう。
とは言え、プロに頼むのだからコストはかかる。
それをどう取るかを決めることができる人だけが投資を続けられると思うぞ。
「シショーもそうなの?」
冒険者ギルドの助けを借りるのもアリだ。
でも、俺はゲームとして楽しみたいんだ
だから自分で戦う。
俺にとっての投資ってそういうもんだ。
おっさんのこだわりだな。
〈山田ユウ視点〉
やはりシショーの話は深い。
私の興味のあるネタで寄せてくれる。
シショーのくせに。
投資って、漠然とした未来への不安を払拭するものだと思っていた。
でも、違う。
投資ってそれぞれの人生を写す鏡なんだ。
だから、退職したシショーとまだ若い私じゃ全く別物になる。
それがわかってよかった。
「シショー、ずっと私のシショーでいてね(……そう思っていいよね?)」
おい、照れるじゃないか。
おっさんのレベルがあがった
しんらいが3ふえた。
〈山田店長視点〉
山田◼️◼️です。名前はまだない。
いやあります。
伊集院拓也が良かった。
さっきユウが喜多さんを連れて行った。
投資の話だろう。
俺にも話しかけてきたけど、納得はしてなかった。
それぐらいは、わかる。
でもね、40前の独身おっさんだぞ。
(自覚はあった)
勝負せずにどうする。
投資という戦場では収益率が全てだ。
収益はすべてのために、すべては収益のために。
投資の鉄則だ。違ってるか?
収益が上がる銘柄を、いかにはやく選別することこそが勝利の方程式なのだ。
さらに俺には山田一族の最終奥義?もあるぞ。
【通常の3倍キルト】
レバレッジを利かした俺の必殺技だ。
長期じゃできないが、短期の赤字はこれだ!
戦いは数だよ兄貴。
ひとりっ子だけどな。
ともあれ、俺の投資は通常の戦いだけでなく、必殺技が戦局を変えるのだ。
ユウにはまだ無理だな。
無理無理無理無理無理ーーー!
投資は大人の戦場なのだ。
***
その頃、おっさん宅のお子ちゃまAIはまちくたびれていた。
『『はやくかえってきてー』』
お子ちゃまたちの叫びが共鳴する。
スマホを自宅に忘れちゃった。てへ。
次回 Z世代山田ユウ 証券会社を選ぶ
※この作品は【訳あり品】です。
正規品(?)はAmazon Kindleにて公開予定──かもしれません。




