第11話 山田一族の日常
これは、おっさんが投資戦術に従って銘柄選びに悩んでいる頃の話。
下北沢のマッサージ店
リラクゼーションルーム りらぽん
「ふぁーひま。」
「お前なぁ、お店で暇そうにするな。」
暇そうにしているのは山田ユウ。
あきれた口調で彼女に話しかけるのは山田◼️◼️店長。
自主規制です。太郎ではないらしい。
「シショーの予約入ってるよね。」
「チェックしてから来てるだろ。」
二人の関係は叔父と姪だ。
ユウは暇な日曜日にはよく遊びに来る。
理由はシンプル。
喜多さん(おっさんのことです)は日曜日には隔週で予約を入れてくれる。
ユウはその日を狙ってやってくる。
いいけどな、受付やってくれるしな。
身内でなんだけど、わりと可愛い。
お店の常連さんにもファンがいるようで、無碍に出来ないのがなんだな。
喜多さんが来るのはもうすぐだ。
それまでに準備をしておこう。
〈山田ユウ視点〉
もうすぐシショーがやってくる。
いつもお土産を持って来てくれるんだ。
おじさんだけど、とっても甘いもの選びのセンスが良い。女子の琴線に触れるのが上手いのだ。
楽しみだよー。
「へい、大将やってる?」
「うちは飲み屋じゃないっス。」
「いや俺飲まないし。」
「じゃあ、ちゃんと受付してください。」
いつものおじさん達のやりとりだ。
飽きないね。
「シショー!あけましておめでとうございます!」
「こちらこそ、あけましておめでとう。今年もよろしくね。」
シショーの丁寧なところが好きだな。お父さんより年上なのに軽く扱われない。
心地よい。いや、今はそうじゃない。
「キラリ!」
私の視線が一点に集中する。白地に薔薇の紙バッグ。
これはいいものだ。
さっと視線を戻し、受付の手続きをすます。
〈山田店長視点〉
さてと、新年初めての施術だ。
「何すればこんなに硬くなるんスか?」
「何もしないからなんだよ。」
「背中から腰にかけては安定の鉄板ですよ。」
おっさん同士の会話は新年になっても変わらない。
「喜多さん、S&P500とNASDAQ100はどっちがいいと思います?」
またか? またなのか?
俺のこと試してる?
よし。おっさん、3日会わざれば刮目して見よだ!
「山田さん、S&P500とNASDAQ100は比べて優劣を決めるものじゃないよ。
安定性のS&P500と、成長率のNASDAQ100は両方組み合わせないと分散投資にはならないよ。山田さんはリスク回避の分散投資派だよね?」
へ?
喜多さんどしたの?
なんか急にベテランの風格が。
鉄板の回答だ。腰もだけど。
〈山田ユウ視点〉
シショーの施術が終わったので、お茶を用意をする。シショーは濃いめのコーヒーが好きなのだ。
冷蔵庫から白地の紙箱を取り出す。ズッシリ重い。
さっきちょっと中を覗いた。
やっぱり、いいものだった!
箱からケーキを取り出す。
円錐型の透明のカップに入っているフルーツケーキは瑞々しく、私の眼を掴んで離さない。
ああ、やはりあのお店のケーキだよ。
ケーキとコーヒーを取り分けて、みなに配る。コーヒーはブラックだ。大人だな。
さぁ、私の下へ来るんだよ。ケーキ君。
〈おっさん視点〉
山田さんは甘いものも平気だな。酒もイケるし、二刀流か?
ユウも美味しそうに食べている。
「ムフー!」
満面の笑みだ。
おっ、こいつ動くぞ!耳が!
どこかのエルフみたいだ。ゆっくり食べなよ。
よかったな。
下北沢の日曜日は穏やかに過ぎるのだった。
さて、帰るか。
駅に戻る途中、ふと見れば…。うん?なんだ?
ダンボール箱から下駄を履いた女性の足が見える?
なんだ?
逆立ちすれば、探偵少年のじいちゃんの出番だな。
いや、そうじゃない。
大丈夫かな? 声かけづらいな。
ヤバイ人だったらどうしよう。
「う、うーん。」
あっ、よく見るスカジャンのお姉さん。うぁー酒臭え。
大丈夫?
「お水とシジミの味噌汁くらさい。」
?
「お水とシジミの……」
わかった、ちょっと待ってな。
コンビニ行ってくるからな。
おかっぱヘアに右手の甲にお日様マークのファションタトゥーか、ロッカーかな?
「ありがとうございますぅー。飲むと幸せになるんだよー。」
お子ちゃまの酔っぱらい見たいだな。
気をつけて帰りなさい。
ふー、俺も帰ろう。
次回 第12話 お子ちゃまAIの野望
なんだ!なんだ!何を考えてる?
せかいのはんぶんが欲しいのか?
※この作品は【訳あり品】です。
正規品(?)はAmazon Kindleにて公開予定──かもしれません。




