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第54話 いつも隅で酒を飲んでいる男

「お前を初めに見た時ハ、泣き喚いて使いものにナラんと思っていたガ、フン……いざ戦わせレば、アレほどできる男だったとはナ。思ってもいなかっタゾ」


 マッケンジーは腕を組み、キツく睨みを効かせながらそう言った。

 威圧的な態度だがシドの腕前は認めているみたいで、これから行う〈レッドドラゴン海賊団〉討伐作戦も、シドと組むことに異存はないようである。

 ただ、やはり初日の印象は強いらしく、シドがギルドの受付で討伐作戦の詳細を尋ねようとした矢先にこの話題を出してきた。


「あはは……その節はお手間をおかけしまして……」


 シドもあの時の醜態と、安直に傭兵になった自分の愚かさを思い返せば、穴があったら入りたい気持ちである。

 身を縮めてマッケンジーに詫びを入れた。


「しょうがないですよ、あの時のシドさんはギルドに登録したばっかりだったんですから。急に出撃要請をされたら誰だって平静ではいられませんよ」

「モニカさんそれは……」


 モニカがそうフォローしてくれるが、傭兵になったそもそもの理由が動画のネタのためなので、助け船を出されるのも申し訳なさで辛くなる。


(うぅ……モニカさんがこっちを気遣うような目をしてるけど、胸が痛んで直視できねえ。実はちょっとやったらすぐ辞めるつもりで登録しました、なんて口が裂けても言えねえし、強引にでも仕事の話に戻さないと)


 シドは一刻も早くこの話題を打ち切り、元の海賊退治の話へと戻そうと口を開きかける。

 だがそこに黒髪の若い男性が現れ、二人に話しかけてきた。


「マッケンジーさんにシドさん、どもです。お話中にすんません。ちょっイイっすか?」

「……なんダ?」


 馴れ馴れしい口調で話に割り込んできたこの男性は、ここ白馬ギルドの傭兵で、シドの記憶では確か同じ戦闘機乗りだったはずだ。

 名前はオマール。コロニー防衛戦の打ち上げだか何かの時の飲み会で話をしたことがあり、歳が自分の一つ上の23歳であったのを覚えている。

 オマールは度胸があるのか図太いのか、眉間に皺を寄せるマッケンジーに邪魔者を見る目でギロリと睨まれてもまるで意に介する様子もなく、あっけらかんとした態度で話を続けた。


「お二人はこれから例の〈レッドドラゴン〉とかいう海賊を潰しに行くんスよね? 自分も行きたいんスけど、ご一緒してOKスか?」

「駄目ダ」


 マッケンジーはオマールの頼みをにべもなく却下する。

 だが彼はへこたれることなく「そこをなんとか」と手を合わせて拝みだした。

 チッ、とマッケンジーの大きな舌打ちが響く。


「駄目と言ったら駄目ダ。足手纏いは必要ナイ」

「頼んますよ〜。俺の彼女(ツレ)、〈恋娘彗星(ココ・コメット)〉なんス。彼氏(カレシ)としては落とし前?つけてもらわないとじゃないスか。どーかこのとーり」


 そう言ってオマールは勢いよく頭を下げて合わせた両手を頭上に突き出す。

 本人は真面目なのかもしれないが、側から見れば滑稽な仕草だ。

 シドはマッケンジーがブチ切れるのではないかとハラハラしている。


「モニカさん、彼、止めた方がいいですよね?」

「えっ? ああ、大丈夫ですよシドさん」

「……へっ?」


 オマールをこの場から引き離した方がいいのではとモニカに声をかけたのだが、彼女はどうしてか平然とした様子だ。

 意外な返答にシドが驚いたのとマッケンジーが折れたのはほぼ同時だった。


「……勝手にシろ。俺の邪魔をしたら殺す。……ワークスもそれでイイナ?」

「えっ! あっ、はい……」

「あざます!」


 オマールは満面の笑みで礼を言い、マッケンジーは渋面を浮かべて大きなため息を吐いている。

 そしてシドはマッケンジーがすんなりと同行を認めたことに驚きすぎてキョトンとしていた。


(絶対モメると思ったのに……)


 そうシドが思っていると、モニカが顔を近づけコソっと耳打ちをしてくる。


「マッケンジーさんっていつも不機嫌そうで、言葉もキツいですけど、実は結構面倒見がいいんですよ。ああいう風に頼まれたら、絶対に断らないと思ってました」


 それは予想外である。

 シドが「本当ですか……?」と聞き返すと、モニカは大きく頷いた。


「はい。仕事中にもよく他の人をサポートしていると聞きますし、人付き合いもマメで、打ち上げには必ず参加されています。態度で誤解……というにはアレですけど、見た目ほど怖い人ではないですよ」

「そう……なんですか……っ! そういえば、ちょっとした飲み会にも……いつも参加してた……ような……っ」


 モニカはこしょこしょ声で囁いているのだが、とても距離が近い。

 耳に彼女の吐息が当たってくすぐったいし、ふとした拍子に唇が触れてしまいそうだ。

 彼女の言葉にもイマイチ集中できず、気恥ずかしさと右手を締め付ける痛みに襲われ、シドは色々と大変だ。

 二人が内緒話をしていると、今の騒ぎを聞きつけた他の傭兵たちが我も我もと集まってきた。

 用件は総じて同じ。自分も討伐隊のメンバーに加えろというものだ。

 ギルドのメンツに関わることなのでみんな乗り気である。手が空いている戦闘機乗りが全員参加する勢いだ。

 傭兵たちは一遍に来たので受付前がぎゅうぎゅう詰めになる。

 あまりの混雑っぷりに、今度こそマッケンジーの堪忍袋の尾が切れた。


「ええい鬱陶しいゾ、貴様ラ! もう付き合ってられン。ついてくるなら好きにしロッ! いくゾ、ワークス!」


 マッケンジーは周りの傭兵にそう言うと、乱暴に手を振って彼らをどかし、スタスタと早足で出口へ向かって歩き出した。

 これに焦ったのはシドだ。


「待ってください! 俺まだ作戦のことなんも聞いてないです!」

「知るカ! そんなものはドウとでもナル。ノロノロしてると置いていくゾ!」


 シドが待ってくれと言ってもマッケンジーは歩みを止めない。

 やはり彼も蛮族の一人なのか、作戦というものを大して重要視していないようだ。


「シドさん、あとで私がアジトの座標などをメールしておきますので、マッケンジーさんを追いかけてください」

「ありがとうございます! 助かります!」


 結局、作戦の詳細は聞けずじまいだが、このままだと置いていかれてしまう。

 シドはモニカに必要事項をメールしてもらうことにして、マッケンジーのあとを追いかけたのであった。


 ◇◇◇


 傭兵ギルドから宇宙港までは徒歩10分もかからない。

 しかし、その短距離でもシドがタクシーに乗って移動するのは、()()なることがわかりきっていたからだ。


「あれってシド・ワークスじゃね?」

「マジ?」

「本物じゃん!? ヤバっ!」

「ねえ、アナタ見て! シド・ワークスさんよ!」

「おおっ、本当だ!」

「写真撮らないと!」


 シドの姿を見つけた通行人がざわつき始め、次々とカメラを向けてくる。地元の有名人の登場に、誰もが色めき立っていた。

 有名税といえばそれまでだが、止めてくれと叫びたくもなる。

 ましてや今は同行者がいるのだ。……ちょっとばかり厳ついが。


「……つーか何の集団だ?」

「シド・ワークスがいるってことは傭兵?」

「どっかに殴り込みに行くのか?」

「雰囲気ヤベー」

「ちょっ、目ぇ逸らせ」

「ママ〜、あの人たちってこわい人なの?」

「コラっ、指差しちゃいけません」


 通行人たちはシドの後ろにいる面々に気づいて顔色を変える。

 彼の後ろに付き従っているのは、今回の作戦に参加することになった傭兵たちだ。

 ギルドが最初に編成した討伐隊メンバーは20数人程度だったが、先程の一件で一気に人数を増やし、現段階では50人ほどとなっている。ちょうどギルドにいて、手の空いていた者は全員参加したようだ。

 殺気だった荒くれ者どもがガン首を並べて行進していて、見た感じはまるでヤクザの出入りである。

 一般人にしたらそれはもう怖いであろう。

 そしてその先頭になって歩いているのがシドとマッケンジーの二人だ。悪い意味でかなり目立っている。


(……ネットに何て書かれるんだろうな? ……もうどうでもいいか)


 シドは恥ずかしさのメーターが振り切れ、どこか達観したような心持ちで歩みを進める。

 後ろからは仲間たちの「畳むぞ」とか「ぶっ殺してやるぜ」などの物騒な言葉が聞こえてきた。

 辺りからはカメラのシャッター音とヒソヒソ囁く声も聞こえる。

 今晩の地方ニュースのトップは決まったも同然だ。


(こうなったのは全部、あんな所にいた海賊たちのせいだ。……責任とってもらうぞ)


 この羞恥と苛立ちは全て〈レッドドラゴン海賊団〉にぶつけることを決め、シドは再び宇宙に出るべく宇宙港に入っていくのだった。

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