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第53話 白馬最後のCランク傭兵

 キョウコら〈恋娘彗星(ココ・コメット)〉は、三ツ頭ステーションからの帰路でも当然の権利とばかりに公船緊急通行警報をバンバン出しながら猛スピードで飛ばした。

 道中では海賊の襲撃を警戒していたが、結局何もトラブルが起きることは無く、一行は誰からも遮られずに白馬コロニーへと帰還する。

 このまま一緒にギルドへ報告に帰るのかと思ったが、彼女たちは別口の仕事がまだあるらしく、シドはコロニーの宇宙港で〈恋娘彗星(ココ・コメット)〉の面々と別れた。

 港のタクシー乗り場に向かう途中、シドのマーズフォンにその傭兵ギルドから着信が入った。

 シドは歩きながら電話に出る。ロナとの会話のためにいつも耳にイヤホンを付けているので、いつでもハンズフリーで通話できるのは楽だ。


『もしもし、お忙しいところすいません。シドさん今ちょっと大丈夫ですか?』


 電話の相手は受付嬢のモニカだった。どうしてか、ひどく申し訳なさそうな声色だ。

 シドはとりあえず用件を尋ねる。


「モニカさん? はい、大丈夫です。どうしました?」

『実は、昨日皆さんを襲撃した〈レッドドラゴン海賊団〉の討伐隊をギルドで組むことになったのですが、シドさんにもご参加をお願いしたくて……』

「それは……随分と急な話ですね」

『はい……シドさんには続けてのご襲撃になってしまい、大変恐縮なんですけど……』


 昨日の今日だというのにもう討伐隊が組まれるようだ。ギルドのフットワークの軽さにシドは少し驚く。

 ただ、討伐隊を編成するのは構わないが、今まさに一仕事終えようとしているシドまでメンバーに組み込むとは、彼が言ったように急な話である。

 電話の向こうでモニカがすまなさそうな顔をしているのが想像できた。


「いえ、それは大丈夫なんですが……あー、ちょっと待ってください。予定を確認しますんで」

『あっ、はい。お願いします』


 断りを入れてシドはいったん通話保留を入れる。そして「そっちはどうだ?」と伺うように右手のバングル型PCへと視線をやった。

 すると、トンッと1回シドの皮膚を叩く感触があった。前に決めておいた「OK」のサインである。簡単なやり取りや、声を出せない時のために決めておいたのだ。

 因みに2回叩くのが「NO」で、手首をギュゥゥゥッと締め付けるのが「こんにゃろう」の意思表示である。

 とまあ余談はさておき、ロナから了承を得たので、シドは討伐隊への参加を決める。

 保留を切り、モニカへその事を告げた。


「モニカさんお待たせしました。予定、大丈夫です」

『ありがとうございます。助かります』


 モニカはシドの参加を聞いてホッと安堵したようだ。

 緊急の仕事だが、シドが何の苦でもなさそうにサラッと承諾したこともあり、彼女の声のトーンも柔らかいものになる。


『では、白馬コロニーに戻りましたらギルドの方へおいでください。詳細はそちらでお伝えいたします』

「はい」

『因みに今どの辺りですか? コロニーに着くのは何時くらいになりそうでしょう?』

「えっと……実はもう着いてます。これからタクシーに乗るとこです」

『えっ!?』


 モニカの驚いた声が聞こえる。まだコロニーに到着していないと思っていたようだ。

 賑やかな宇宙港だが、最近のイヤホンは優秀で、周囲の環境音をしっかりカットしてくれるのでこういう勘違いも起きてしまう。


『えっ、えっ、もうですか!? 三ツ頭ステーションからですよね!?』


 ちょっと混乱している。

 到着が早過ぎると言いたいのだろう。その気持ちはシドもよくわかる。

 通常6時間の航路を4時間ちょっとで走破したのだ。早いに決まっている。


「その…… 〈恋娘彗星(ココ・コメット)〉の皆さんがスピードをかなり出されまして……」

『あっ! あぁー……なるほど……』


 〈恋娘彗星(ココ・コメット)〉と聞いて合点がいった様子だが、普段のおおらかなモニカのイメージからは想像できないような、やけに力の無い草臥れた「なるほど」の一言だ。

 きっと普段からあんな感じでスピードを出しているのだろう。一般の船からギルドの受付にクレームも来ているのかもしれない。

 モニカも彼女たちには苦労をさせられているようである。


 ◇◇◇


 モニカとの通話を終えたシドはタクシーに乗ってギルドに直行。昨日に続いて今日もそのドアをくぐった。

 受付に赴くと、そこにはモニカの他にもう一人、黒のライダースジャケットを着た長身の男がいた。


()たカ、ワークス」

「あれ? あなたは確か……」


 外国の訛りがある、ややカタコトの王国語で話す男性。シドは彼を知っている。

 シドがギルドに登録し、その直後に非常事態警報が鳴った際に彼をアドホック号に引き摺っていった傭兵たちの内の一人だ。

 男は腕を組み、鋭い目つきでシドを見据えながら名を名乗った。


「名()るのは初めてダナ。マッケンジー・ウォルシュ。Cランク戦闘機乗り(ファイター)ダ」


 マッケンジー・ウォルシュ。年齢29歳。胸元に銅色のギルドバッジを輝かせる、ここ白馬傭兵ギルド最後のCランク傭兵である。

 180cmの長身で地黒。顔は面長で、ゆるくウェーブがかった茶褐色の髪を後ろでお団子にまとめたマンバンヘアにしている。

 髭は丁寧に剃っており、眉毛もシュッとしていて、細身の男前だ。

 ただ、顔立ちは良いのに目付きがひどく悪い。

 緑色の瞳は常に不機嫌そうにこちらを睨みつけ、眉間にも薄く皺が寄っていて、口元も喋る時以外はムスッと閉じられている。

 気難しげでとっつきにくそう。それがシドが抱いたマッケンジーの第一印象であった。


「えっと……シド・ワークスです。よろしくお願いします……」


 マッケンジーのキツい眼光にたじろぎながらも、シドはペコリと頭を下げて挨拶を返す。


「フン……よろしくスル必要などナイ。互いにプロフェッショナルとして、やることをやるだケ。違うカ?」


 突き放すような物言いだ。彼の後ろでモニカが苦笑いしているのが目に入る。

 この白馬ギルドは距離感が近いというか馴れ馴れしいというか、フレンドリーなメンバーが多いので、こういう人物は珍しい。


「ええと……」

「まあ、そんなことはドウでもイい」


 シドが曖昧な笑みを浮かべながら何と返答すべきか悩んでいる間に、マッケンジーはさっさと話題を変えてしまった。


「ターゲットは雑魚ダ。お前は好きにやレ。俺も好きにやル。つまらない仕事だガ、ギルドに手を出すとドウなるかは知らしめねばならン」

「はあ……?」


 シドはピンときていないが、今回ギルドで〈レッドドラゴン海賊団〉討伐がここまで速やかに決定されたのは彼らがシドと〈恋娘彗星(ココ・コメット)〉を襲ったからである。

 舐められたらお終いの稼業だ。身内に手を出されたからには徹底的に報復するのが業界のルールである。

 だからこそ白馬ギルドの最高戦力であるシド(とロナ)に加え、トップ層であるマッケンジーをメンバーに選出しているのである。

 なお、〈レッドドラゴン海賊団〉のアジトと残存戦力は、昨晩のうちに捕らえた海賊を子爵軍(と一部有志の傭兵女子)が尋問することによって判明している。

 あとは行って潰すだけ。

 わざわざ他領から流れてきた海賊たちの命運は明日が来る前に尽きそうである。

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