第48話 傭兵女子は気合いが入ってる
「頼みたいことってのが、まさか〈恋娘彗星〉の護衛だったとは……」
久しぶりに乗るエールダイヤのコクピット内でシドが呟く。
いま彼が言ったように、Cランク輜重兵のキョウコ・ストレイトが言っていた「頼みたいこと」というのは、彼女たち輸送支援部隊〈恋娘彗星〉の護衛だった。
〈恋娘彗星〉はキョウコがリーダーを務める女性のみで構成されたクラン(傭兵同士で組むチーム)で、輸送船による兵員や兵器の輸送を主な活動としている。
今回緊急で宇宙ステーション「三ツ頭ステーション」という場所まで軍需物資を運ぶこととなり、その道中の護衛をシドにしてほしいというのだ。
現在シドとロナはエールダイヤに乗って白馬コロニー近郊の宙域にて停機中だ。〈恋娘彗星〉は物資の積み込みなどで出発がどうしても遅れるので、先にこの合流場所に到着し、彼女たちを待っているのである。
「どう考えても護衛が要りそうなメンツには見えないんだけどなぁ」
彼女たちの気合いの入った装いを思い出し、つい口からそんな言葉が漏れてしまった。
確かに彼女らの服装は不良やチンピラといったアウトローのそれであるし、そもそも中身は傭兵というガチの戦争屋だ。下手な男よりずっと危ない女性たちである。
シドとしても可能ならば距離を取りたい類の人種だ。
だから依頼を断りたい気持ちも相まって護衛なんか必要無いんじゃないかという考えが口を突いて出てきたのだが、スピーカーからロナの声が聞こえてきて嗜められてしまった。
『シド、失礼ですよ。理由は聞いたじゃないですか。道中での襲撃が予想されるなら、輸送部隊に護衛が必要なのは当然です』
「そうだけどさぁ……」
往生際が悪くブーたれるシド。
彼らが向かう予定の三ツ頭ステーションはシャモニー子爵領内にあり、白馬コロニーからは比較的距離が近い場所にある。
本来ならば護衛など必要ない航路なのだが、ここ数日、ヒーステン伯爵軍を名乗る武装集団が三ツ頭ステーションに向かう貨物船を襲撃し、積荷を強奪する事件が複数回発生していた。
だからこそシドに話が回ってきたのである。
「三ツ頭ステーションにはシャモニー子爵軍が駐留しているんだよな? 伯爵軍は兵糧攻めってやつをしてるのか?」
『かもしれません』
シャモニー子爵軍は、ヒーステン伯爵軍に奪われた最後の占領地である黒龍コロニー奪還に向けて目下作戦行動中だ。
残る戦力を近くの三ツ頭ステーションに集結させ、総力を挙げて攻撃を仕掛けるつもりらしい。
シドが言ったのは、武装集団はその駐留部隊への補給物資を狙い、黒龍コロニーへの軍事作戦を妨害しようとしているのではないかということだ。
『さっと調べたところ、襲われた貨物船は民間のものですが、軍からの要請を受けて駐留部隊への補給物資を運んでいました。その可能性は高そうです』
「……だったら子爵軍が護衛してくれればいいのによ」
『ニルス航空基地の奪還すら傭兵ギルドに委託したくらいです。よほど戦力がカツカツなのでしょう』
実はロナの予想は当たっていたりする。
惑星ペルザス奪還時に多くの戦力を失った子爵軍は、もう僅かな兵力も損なえないと、今回の補給についても傭兵ギルドを頼ることにしたのだ。
黒龍コロニー奪還作戦の戦力としてシドに声が掛かっていないのは、子爵軍上層部の最後の意地(もしくは自棄)であろう。
「……本当に大丈夫か子爵軍? 黒龍コロニーで壊滅したりしないよな……?」
『さあ? でも、もしそうなったら私たちで代わりに伯爵軍を撃滅してあげましょうか』
「ははは……」
これが大言壮語ではなく本当に可能なのがロナである。
その戦場に共に飛び込むことを考えると、シドは乾いた笑いしか出てこない。
『なんですか、そのやる気の無い笑いは。わかっているでしょうが冗談ではありま――おや、着信ですね』
雑談をしていると、ふいに通信が入ってきた。モニターに表示されている発信者の名前はキョウコだ。
ロナがすぐに回線を開いてくれる。
『待たせたね。〈恋娘彗星〉全員集合したよ』
「は、はい……お疲れ様です……」
モニターにキョウコの端正な顔が表示される。
と、同時にモニターの映像を見てシドがキョドった。その原因は彼女の船の運転席の内装である。
全面に赤色のビニールレザーが張られて、背面にはデカデカと漢字で大書された「恋娘彗星」の文字。所々に金の装飾が入っていて、内部照明もやけにゴージャスな意匠だ。
操縦桿も特別使用で、トラックについているような大きめのステアリングホイールになっており、しかもそれもツヤツヤしたレザー素材である。
かなりエキセントリックなデザインだ。
『どうしたんだい?』
目を泳がせているシドを不審に思ったのか、キョウコがそう問いかけてくる。
まさか「凄い趣味ですね」とも言えず、シドは言葉を選んで返事を返した。
「いえ……その……素敵な内装ですね」
『わかるかい!? いや〜アンタ見る目があるよ! このカスタムにはアタイも自信があってね。前はもっと派手だったんだけど、落ち着いたのもいいかなって、思い切って改装したんだよ。正解だろ?』
「そ、そうですね。いいと思います」
内装を褒めるとキョウコは喜色満面となり、途端に饒舌になった。
シドは赤と金で彩られたこの運転席のどこが落ち着いているのだろうという疑問が頭を過ぎるが、慌てて押し込めておべっか笑いを浮かべて彼女に追従する。
彼女に逆らうのが怖いのだ。
『気に入った! アンタには今度バイクも見せてやるよ。アタイが小娘だった頃からの相棒で、そっちもビッと気合い入ったカスタムしてんだ』
「……ありがとうございます。楽しみです(ああ、やっぱりバイクも持ってんだ……)」
キョウコがバイクを持っていると知り、シドは妙な納得感を覚える。ごく自然に彼女がバイクに跨っている光景が想像できたのだ。
そんな会話をしていると、段々と彼女たちの輸送船の姿が見えてくる。
「おっ、船も見えてきま――うぉっ!?」
『…………』
モニターでそれを確認したシドの目がギョッと見開かれる。気のせいかロナも絶句しているような気配がした。
総勢21隻の団体なのでそれだけでも壮観なのだが、彼女たちの船は普通のものとは見た目がひと味もふた味も違っていたのだ。
通信先のキョウコが大きく口を開けて笑っている。
『素っ頓狂な声出してどうした? ビックリしたかい?』
「え、ええ……皆さん凝ったデザインをされてますね……」
『だろ〜? アタイらの魂だからね!』
「はい……(色々と)凄いです」
傭兵たちが機体を組み立てると趣味的になる傾向があるが、彼女たち〈恋娘彗星〉の輸送船はデザインの方向が大きく二つに分かれていた。
一つはこれ見よがしに改造パーツを取り付け、攻撃的なデザインを施した族車タイプ。
もう一つが、ボディ全体に過剰なまでの装飾を付けて光り輝かせ、側面にはアートが描かれているデコレーショントラックタイプだ。
〈恋娘彗星〉の中でも小型〜中型が前者、中型〜大型に後者が多い傾向のようだ。
リーダーのキョウコは前者の族車タイプである。
新幹線のようなスリムなフォルムをした真紅の船体で、全長25メートルの中型船。船の先端、顔に当たる部分に牛のツノに似た2本の突起があるのが特徴だ。
船体側面には彗星のマークと共に「直線暴牛」、「御意見無用」などの漢字が美しい書体で書かれている。なお、余談だが、これらの字は全てキョウコが書いた字がデザイン元である。
どの船も一般航路を通行していたら周りの船がビビって道を譲りそうな威容だ。
シドは改めてロナに聞いてみた。
「なあ、ロナ。もう一度聞くけど、護衛……要ると思うか?」
『……必要無いかもしれません』
聞こえるはずがないので幻聴だと思うが、不思議とエンジンを吹かす音と大音量の音楽が聞こえてくる気がする。
シドはこの一団と一緒に行動しなければならないと思うと居心地の悪さを感じずにはいられなかった。
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