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第47話 鉄火肌の女

 その日、自宅にて口うるさいコーチのロナと共にゲームの練習に励んでいたシドの元にギルドから緊急の要件だという連絡が入ってきた。

 なんでも、急遽任せたい仕事があるそうだ。

 急ぎとはいえ職場に行くのにさすがに上がTシャツ一枚はダメだろうと、クローゼットから適当に上着を選んで着て、マンション前の道路で丁度捕まえたタクシーに飛び乗り一息つくと、耳元のイヤホンからロナのぼやきが聞こえてきた。


『昼前に届く予定の荷物があったのですが、受け取りはできそうにありませんね。運送会社に連絡して配達日を遅らせてもらいます』


 どうやら何か注文していたらしい。

 オークションで落札したメタモルシェルのことかと思い、シドは電話をしているフリをしながら尋ねてみた。

 シドの顔に見覚えがあるのかタクシーの運転手がチラチラとこちらに目線を向けているので、こういう小芝居が必要なのである。


「もしもし。――おう、そうそう。今タクシーに乗ったとこ。でさ、さっきの話なんだけど、それってこの間狙ってたやつ?」


 しっかりと意図が伝わったようでロナから返事が返ってくる。やはりメタモルシェルが届く予定だったようだ。


『はい、そうです。高価な品物なので置き配不可ですし、ひとまず配送センターで保管しておいてもらいます。他にも注文した物がありますが、そちらはマンションの宅配ボックスに入れてもらうよう連絡しました』

「他にもなんか買ったのか?」


 本人確認書類も銀行口座も持てないロナが、シドの名義とクレジットカードで買い物をするのはよくある事だ。

 気がつけば小難しいタイトルの電子書籍が増えていたり、宅配ボックスにミニチュアの可愛いイスが届いていたりする。

 以前にした約束通り、時々は彼女の方から欲しい物をねだってくることもあるが、傭兵としての報酬が増えてきたことでロナが自分で注文することが多くなった。

 彼女曰く、「ちゃんと私の取り分の範囲で買い物をしています」とのことだ。


『ミキサーやグリルプレート等の調理器具を少々買いました』

「えっ、なんで?」


 聞けば意外な答えが返ってきた。

 首を傾げるシドに、ロナは呆れた声で言う。


『メタモルシェルを入手したら私が料理を作ってあげると言ったじゃないですか。さては忘れていましたね?』


 そういえばそんな話もあったが、冗談だと思ってすっかり頭から抜けていたのだ。

 思い出したシドは気まずそうに頬を掻く。


「あー……そうだったな。すまん、マジだと思ってなくて」

『まったく、アナタときたら……』


 イヤホンから「やれやれ仕方ない人ですね」と言いたげなため息が聞こえてくる。

 雰囲気から察するに怒ってまではいないようだ。シドは取り繕うように「楽しみにしている」と言って会話を終わらせた。もうすぐ目的地である傭兵ギルドに到着するのだ。

 それがわかっているからかロナも大人しく口を閉ざした。

 なお、運転手は最後までシドの顔をチラ見していた。

 この時代の車はAIへの忌避感から完全自動運転にはなっていないが、安全機構にはそのぶん力を入れている。

 高度な自動ブレーキやレーンキープアシストが搭載されているので多少運転手が目を離しても事故は起こらないが、それでも前を見て運転してほしいものだ。


 ◇◇◇


「うおっ……!」


 おっとり刀で駆けつけ、ギルドに入ったシドは、エントランスに(たむ)ろする集団を見て、思わずギョッと声を漏らしてしまう。

 そこには、派手なジャージやパーカーにだぼだぼのズボンを着たヤンキーのよう格好の女性や、ガテン系のファッションをした女性がざっと20人ほどいたのだ。

 20代から30代までと年齢層は比較的若く、総じて柄が悪そう。髪色もピンクに紫、金髪、茶髪と様々だ。

 むくつけき男たちには慣れてきたシドだが、彼女たちのようなタイプの女性にはまだ免疫がない。

 ここにいるということは同業者なのだろうが、彼女たちに囲まれてカツアゲされる光景がどうしても頭に浮かんでしまい、腰が引けてしまう。


「おっ、シド・ワークスだ」


 その中の一人、20代と思わき、柄Tシャツにダメージジーンズを履いた長髪の女性が入口のシドに気がついた。

 その言葉で他の女性陣も彼に気付き、一斉に視線を向けてくる。

 彼女らは妙に目力が強く、ジロリと見られたシドは肩をビクッと震わせてしまう。


(怖っ……目を合わせないでおこう……)


 関わりたくないのでシドは「あっ、お疲れ様です」と軽く会釈だけしてソーッと横を通り抜けようとする。

 だが、残念ながらそうはいかなかった。


「ちょ、待て待て行くなって」

「シドさん、ストップっス」

 

 彼女たちが待っていたのはシドだからだ。


(……マジか)


 声をかけられたのであれば無視はできない。シドはビクビクしながら足を止めた。


「姐さん、ワークスさん来ましたよ」

「おっ、そうかい。早いじゃないか」


 黒いつなぎを着たウルフパーマの女性が集団の最奥、エントランスのソファーに腰掛ける女性にシドの到着を告げた。

 “姐さん”と呼ばれた女性は張りのある声で返事を返すと、スクッとソファから立ち上がり、道を開けた女性たちの間を大股で歩いてシドに近づいてきた。

 身長は女性にしては高く170cmほど。年齢は30前後だろうか、黒髪ロングに一筋だけ金のメッシュを入れて後ろに流した髪型で、瞳は黒色。スラリと足が長い。

 目鼻立ちがはっきりした美人だが、気の強さが目つきと眉に出ていて、ややキツそうな印象だ。

 化粧をしっかりとしていて、ほのかにスパイシーな香水の香りがする。

 タンクトップに黒のブルゾンを羽織り、ハイウエストのスラックスにガッチリしたブーツを履いている。キラリと輝く両耳のピアスと胸元のネックレスが印象的だ。

 そしてブルゾンの襟元を見ると、ノアのと同じ銅色のギルドバッジが付いている。

 女性はシドの前に立つと、片手を腰に当て、よく通るハツラツとした声で名を名乗った。


「アタイはキョウコ・ストレイト。Cランク輜重兵(トランスポーター)さ。後ろの連中はアタイのクラン、〈恋娘彗星(ココ・コメット)〉のメンバーたちだ。よろしくな、シド・ワークス」


 そう言ってキョウコはニヤリと笑って右手を差し出してきた。握手をしようというのだろう。

 シドは萎縮しそうになる心を奮い立たせ、笑顔で彼女の手を握った。


「シド・ワークスです。こちらこそよろしくお願いします、ストレイトさん」

「お京でいいよ。みんなアタイのことはそう呼ぶんだ」


 シドの手を握るキョウコの力は強い。彼女の負けん気がそのまま出ているかのようだ。

 痛い、と口に出しそうになるのを我慢し二度三度と手を軽く振ると、ようやく手を離してくれた。

 シドは手のヒリヒリを我慢しながら目の前のキョウコに質問を投げかけた。呼び方は本人の希望通り「お京」だ。


「もしかしてお京さんが俺を呼んだんですか?」

「ああそうさ。アンタに頼みたいことがあってね」


 キョウコはこくりと頷いた。

 そして腕を胸の前で組むと、その「頼みたい事」を説明し始める。

 アイハムと同様、彼女も仕事を手伝ってもらいたいようだ。

 ノア、アイハムに続きこれで3人目。Cランク傭兵たちに便利に使われるシドであった。

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