第44話 VS ロブ・ノーマン&トマス・アイランド
惑星ペルザスのニルス砂漠上空、ゴオォォォッという猛烈なエンジン音と共に白い飛行機雲をたなびかし、ロナが操縦するオリックスS-3000がグングンとその高度を上げている。
ブースターは全開。上昇角度は70度ほど。
機体高度を示すメーターが凄まじい速度で数字を増している。
その後ろからは10発のミサイルが追いかけてきていた。
ミサイルアラートが鳴り響くコクピット内で、その音に負けじとロナが大声でシドに指示を飛ばす。
『シド、私の合図で後ろからのミサイルに対してフレア(おとり用の熱源弾)を発射してください!』
「了解っ!」
『いきますよ! ……今っ!』
「おうっ!」
シドがボタンを押すと機体からフレアが後方に向かって発射され、追尾してきたミサイルがそちらに誘導される。
続けてロナは、前方のターゲットに向かってミサイルを発射するようシドに言った。
『次は空対空ミサイルを2発発射。目標は前方から接近中のXT-2。トマス・アイランド機です』
オリックスS-3000の進路上には、こちらをめがけて飛んで来る、トマス・アイランド大尉が駆るXT-2の姿がある。
シドたちより先に高高度へとたどり着いていたトマス機は、高所よりオリックスS-3000へと攻撃を仕掛けようと急降下。昇るシドたちと反対に、坂落としのごとく空を駆け降りていたのだ。
急速に縮まる両者の距離。
このままであれば敵機により機銃なりミサイルなりで攻撃されるが、むざむざと撃たれるのを待つ理由などない。
正面から向かって来るトマス機を迎撃すべく、ロナによりミサイルがロックオンされ、すかさずシドが発射ボタンを押す。
オリックスS-3000の翼より放たれる2発の空対空ミサイル。
すると、ほぼ同時に敵機も同じくミサイルを2発撃ってきた。
ロケット噴射の白い軌跡を描いて交差する互いのミサイル。
もちろんその瞬間も両機は真っ直ぐに前進し、自ら敵ミサイルへの距離を縮めている。
それぞれの目標に命中するまであと3秒も無いであろう。
迫り来るミサイルに対し、トマス機が選択したのは左方向への急旋回による回避運動とフレアの発射だったが、ロナは違う。
『シド、機銃を!』
「了解っ!」
ロナは機銃の照準を敵ミサイルに合わせ、シドに鋭く指示を飛ばす。
シドの指がトリガーを引き、オリックスS-3000の機首から弾丸が放たれる。
瞬きより速くロナがミサイルに狙いをつけ、シドは指示を聞いてからコンマ3秒以下の反応で操作。全て合わせても1秒も経っていない早業だった。
機銃の弾は見事ミサイルに命中。2発とも空中で爆発し、辺りに炎と黒煙を撒き散らす。
『突っ切ります!』
ロナはブーストそのままに爆炎を正面突破。オリックスS-3000にて煙火を貫いた。
そこでロナは初めて操縦桿を右に傾ける。
空中に弧を描いて狙うのは、急旋回中の敵機の背中だ。
トマス機は、ミサイルを回避したことで結果的に無防備な背後を晒すことになったのだ。
トマス・アイランドにとって誤算だったのはロナがミサイルの回避ではなく、撃墜を選択したことだろう。
開戦早々に1発のミサイルを撃墜したのは目撃したが、その芸当が2発同時、しかも命中まで数秒しか猶予のない近距離でもやってのけるとは想像の埒外だったのだ。
『背後を取りました。私を侮りましたね、トマス・アイランドとやら』
ロナの言う通りである。
第6艦隊を破った相手であると知っていながら、彼は心のどこかでシドというゲーマー上がりのパイロットを侮っていたのだろう。
さらには怒りにまかせて冷静さを欠き、単純な機動と攻撃ばかりをした。
それがこの結果に繋がったのである。
いまさら言っても仕方ないが、本当ならばもっとノーマンと連携すべきだったのだ。
ロナはどこまでも冷徹な声で、
『ご自身で言っていたように刺し違えるつもりで向かってくれば良かったものを……選択肢を間違えましたね。――シド、バルカン砲を連射してください』
と静かに言う。
シドがトリガーを引くと、腹部のバルカン砲が束ねられた6本の長い銃身を高速で回転させ、凄まじい破壊力を持つ弾丸を放った。
弾丸はトマス機に殺到し、尾翼、両翼、胴体と、機体全体に命中。次々と穴を穿つ。
機体はコントロールを失い、炎上しながら落下を始める。
パイロットが脱出する様子は無い。バルカン砲がコクピットにも命中していることから、既にトマス・アイランドの命は失われているのだろう。
ロナはモニターに表示されている落ちゆくトマス機の映像をプツンと切り、地上に残るノーマンのマルージア改の映像を拡大する。
『シド、残りは一機です。今度はこちらが上から攻める番と参りましょう』
「そうだな、やってやろう」
『いい返事です。では行きますよっ!』
その言葉が終わると同時にオリックスS-3000が宙返りをしながら180°ロールをする。
一回転しきる手前でループを止め、急降下の態勢に入った。先程の急上昇とはちょうど上下逆方向に機首が向く形だ。
モニターの向こう、ロブ・ノーマン中佐が操縦するマルージア改のモノアイがこちらを睨んだ。
仲間を落とされた怒りを強く感じる。その眼差しが「よくもアイランド大尉を! この疫病神めっ!」と言っているように見えた。
(――ッ、撃ってくるっ!)
攻撃の予兆をシドが感じ取ったのと敵機が背負うミサイルポッドのハッチが全開放されたのはほぼ同時。
そして、ミサイルが発射されるより早くロナの指示が飛んできた。
『シド、バルカン砲掃射! ミサイルを撃ち落とします!』
「りょ、了解!」
バルカン砲の発射トリガーを引くようにとのロナの鋭い声。シドはすぐさま言う通りにする。
高速で流れていく視界の中、コクピット内に響き出すミサイルアラートに、バルカン砲の唸り声が混ざる。
『この程度の数などっ!』
マルージア改から放たれた10発のミサイルがこちら目掛けて飛んでくるが、ロナは細かくバルカン砲の照準を動かし、その全てを撃墜した。
『次は本体です!』
ミサイルを撃ち落とし終えたロナは、本命であるマルージア改に止まらぬ回転で弾を吐き出し続けるバルカン砲の砲塔を向ける。
だが相手も、そうくるのは百も承知だとばかりに左手の大楯を機体前方に構えていた。
弾丸は全弾命中。しかし、重厚な大楯に阻まれ肝心の胴体には一発たりとも通らなかった。
『……やはり面倒な盾ですね』
少しだけ忌々しそうなロナの呟き声がスピーカーから聞こえてくる。
バルカン砲の弾を防ぎ切った敵機は次のアクションを起こす。
マルージア改の両脚部底面より圧縮した空気が放出され、機体が砂上を離れて僅かに浮かび上がったのだ。
さらには脚部にあるブースターから勢いよく炎を吹き出したことで機体は押し出されたように前進。
いわゆるホバー移動だ。
「速っ!?」
思わずシドが叫んでしまうほどにマルージア改の機動力は飛び抜けていた。
無骨で重装備、どちらかと言えば鈍重そうな見た目を裏切るように、目で追うのがやっとのスピードを出している。
砂漠を滑らかに移動する姿は、まるでスピードスケートかボブスレーを観ているかのようだ。
マルージア改は大楯を構えたまま上半身を捻り、反対の手に持つ大型のガトリング砲を構え、シドたちを狙って撃ち始める。
「うおっ!?」
『回避します。舌を噛まないでくださいよ」
ロナは機体をロールさせ、大きく右方向へとカーブさせた。
ガトリングの弾が数瞬前までオリックスS-3000がいた空間を貫いていく。
一発撃って終わりになる訳もなく、ノーマンはガトリング砲を連射したままマルージア改の右手を動かす。
この機体が装備しているガトリング砲の連射性能は毎秒100発近くにもなる。つまりそれだけの弾丸がシドたちを狙って空にばら撒かれているというわけだ。
「くそっ、射線が途切れねえ!」
シドが舌打ちまじりに悪態をついた。
マルージア改のホバー性能は旋回性も優れている。逃げるオリックスS-3000を追いかけ、ターン移動で射線に入れ続けてくるのだ。
絶え間なく襲ってくる弾丸。
ロナはただ飛ぶだけではなく、ピッチの上下や細かなローリングを駆使し、うねる蛇のような軌道で回避を繰り返す。
『問題ありません。人間にしては正確な射撃ですが、だからこそ読み易いというもの。例え10万発撃たれようとも、この私には掠りもしません。弾切れの方が先に起きるでしょう。……ですが、そこまで時間をかける気はありません。――ですので!』
ロナは自信に満ち溢れた声で決して当たりはしないと豪語する。
そして機体を一瞬だけマルージア改の方へと向けて腹部のバルカン砲の射線内に収めると、シドへ大きなボリュームでトリガーを引くように指示をした。
『今です!』
「っ!」
たった一発だけオリックスS-3000より放たれた弾丸は真っ直ぐに飛んでいき、マルージア改が持つガトリング砲の中心を正確に撃ち抜いた。
ロナは弾切れまで避け続ける気は無いので武器自体を壊してしまおうと考えたのであろう。
銃撃の間隙を縫ってこれほどのショットをやってのけたのは流石としか言いようがない。実際にトリガーを引いたシドでさえ、コクピットシートの上で口をポカンと開けている。
撃たれたノーマンはもっとであろう。
派手な音を立てて弾け散るガトリング砲に、マルージア改の動きが驚愕で止まった。
その隙にロナは機体を操作し、再び急降下の姿勢に入る。
『シド、爆弾投下! 今度は2発です!』
「了解っ!」
マルージア改目掛けて再度投下される爆弾。ただし今回は急降下爆撃、その勢いは段違いだ。
一度足を止めてしまった機体では爆発範囲外まで退避などできない。
さらに、ホバー状態で爆風に煽られるのも転倒の恐れがある。
瞬時にそこまで考えを巡らしたノーマンは最初と同じ対処を選んだ。
つまり、両脚のホバーを切り、地面に踏ん張っての大楯での防御である。
それを見て、やはりそうしたかとロナは言った。
『盾での正面防御。やはりそうする思っていました』
「ちょっ、ロナ!? 地面が! ぶつかる、ぶつかるって!!」
着弾し、周囲一帯を吹き飛ばすような爆発が巻き起こる。
だが煙と炎の向こう、中心部のマルージア改は無事だ。
爆発の衝撃で脚がやや埋まっているも、大楯を構えたポーズのまま次の攻撃に油断なく備えている。
もちろんそれもロナは折り込み済みだ。
「落ちるーーっ!?!?」
『落ちるわけないでしょう!』
爆弾を投下した後、ロナはオリックスS-3000を上昇させず、右方向へ傾けただけで降下を続けた。
そして墜落寸前で機首を上げ、地表スレスレで姿勢を戻した。
逃げれないコクピットの中で近づいていく地面を見ていたシドは生きた心地がしていない。
どんな絶叫マシンより恐ろしい体験に心臓は張り裂けそうなほど高鳴り、寿命も数年分は失った気分だ。
「ゼーハーゼーハー……」
『息を整えて! すぐに攻撃に移りますよ。バルカン砲準備!』
息も絶え絶えなシドに、容赦なくロナの指示が投げかけられる。
翼が擦りそうなほどの低高度を、オリックスS-3000はマルージア改を中心にして反時計回りに大きく旋回。
大楯とは反対方向。機体の右側へと回り込んだ。
ノーマンもレーダーでオリックスS-3000の動きを確認していたであろうが、一度ホバーを切ったのが命取り。
機体を動かして盾を右の方に向けようとするも、砂に脚部が沈んで踏み込みがきかず、もたついて思うように動けない。
バルカン砲の射線に入ったその時でさえも無防備な右半身を晒したままであった。
『シド、トドメを』
「ゼーゼー……わかった!」
オリックスS-3000のバルカン砲が回転を始め、騎士二人との闘いに終わりを告げる砲火が放たれる。
ノーマンのマルージア改は、避けようとすることも出来ずに全身を無数の弾丸に撃ち貫かれて崩れ落ちた。
『中々優秀な機体とパイロットでしたが、私たちの方が一枚も二枚も上手でしたね』
機体を上昇させ再び空へと帰る中、ロナはそう締めくくるのであった。
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