第43話 1対2へ
「白馬ギルド所属、Fランク戦闘機乗りのシド・ワークスだ」
『シド・ワークスだと……ッ!』
『嘘だろ!? なんでこんな所に!?』
通信画面にシドの姿が現れると、ロブ・ノーマンとトマス・アイランドの騎士二人が双眸を見開いて仰天する。まるで真っ昼間にオバケを見たかのような驚き様だ。
『驚いたか、騎士サマ? これで勝負はわからなくなったな。それともあれか? 諦めて降伏でもするかい?』
『くっ……』
騎士が二人もいるからと降伏を薦められた意趣返しか、アイハムが愉快そうに挑発する。
対するノーマンは、苦虫を噛み潰したような表情で画面越しに彼を睨みつけた。
シドの存在は完全に予想外であったようで、先程までアイハムに見せていた余裕の態度は完全に消え失せている。
およそ30秒ほど無言でそうしていた後、ノーマンは眉間に深く皺を寄せ、コクピットの側面に一度強くこぶしを叩きつけると悔しそうにアイハムへと返事を返した。
『……死地にいるのは私たちの方だったようだな、《鉄人》アイハム……そしてシド・ワークスよ。だが、騎士の誇りに懸けて決して我らは降伏などしない。そうだろアイランド大尉?』
『その通りです、ノーマン中佐! 元より不退転の覚悟でこの地に残ったんです。たとえ相打ちになろうともシド・ワークスを撃墜し、第6艦隊の仇を討ってやります!』
口角泡を飛ばしてそう宣言したトマスは、身体中闘志むき出しでこちらを睨んでくる。
先程までシートに背中を預けていたのがいつの間にか前のめりになっていて、今にも飛びかかってきそうであった。
『トマス・アイランドとかいう騎士は、随分と頭に血が昇っていますね。わかりやすく殺気がこちらへと向けられています』
コクピット内にあるスピーカーからロナの落ち着いた声が聞こえてくる。
トマスの敵意が一直線にこの機体に向けられているのだと言う。
未だ技量的には半人前の域を出ないシドも、ここまで明らかであると、さすがにピリピリとしたものを肌に感じる。
『ですが我々が相手をするのは片方だけではありません。シド、彼らを挑発してください。二人がかりでこちらを攻撃するように誘導するのです』
もはや伯爵軍との戦闘は確定したも同然だが、シドたちに課せられたオーダーは騎士二人をいちどきに相手取ることだ。
トマスは何も言わなくとも襲いかかってくるであろうが、ノーマンに他の傭兵をターゲットされない為にもアクションが必要である。
「……わかった。やってみる……」
殺気立つエースパイロット相手に喧嘩を売るのは心底怖いが、ロナの指示なのでシドは渋々と頷いた。
縮こまりそうな心を奮い立たせ、怯えを顔に出さないように気をつけて、シドはノーマンとトマスの二人に言い放つ。
「アンタ一人で俺をやれるわけないだろう。めんどくせぇから二人まとめてかかってこいよ」
考える時間が無かったのでとりあえず思いついた言葉をふてぶてしい態度で口にしてみたが、その効果は抜群であった。
シドのセリフが終わった途端、騎士二人が目を吊り上げて激昂したのだ。
『なんだとテメェ!』
『騎士を愚弄するか、シド・ワークス!』
両者とも恐ろしい剣幕だが、特に顔を赤くしているのがトマス・アイランドの方である。
自分一人では相手にならないと言われ、ただでさえ上がっていたボルテージが更に振り切れたようだ。
『ふざけやがってツギハギ野郎め! ノーマン中佐、やりましょう!』
ツギハギ野郎とは言わずもがなシドのことである。
最初に乗ったアドホック号の見た目から伯爵軍内でそう呼ばれているのかもしれない。
トマスの呼びかけに、ノーマンも強く首を縦に振る。
『ああ、その驕り高ぶって伸びた鼻をへし折ってやろう。ヒーステンの騎士を侮辱したこと、死んで後悔するがいい!』
ノーマンの乗るマルージア改と、トマスが乗るXT-2が同調してシドとロナのオリックスS-3000へと攻撃目標を変える。
挑発は大成功。
シドもここまで効くとは思っていなかった。
騎士というのは今も昔もプライドが高い生き物なのかもしれない。
『バッチリじゃねえか、シド』
「……ありがとうございます、フジタさん」
モニターにサムズアップしているフジタの顔が表示される。
トマスが乗るXT-2から先制のミサイルが発射され、両軍の戦闘が始まるのであった。
◇◇◇
『正面からミサイル。撃墜します。シド、機銃を』
「了解!」
ロナの指示に従い、シドは機首にある機銃のトリガーを引く。
発射された実弾は、高速で向かってくるミサイルへ吸い込まれるように飛んでいき命中する。
砂漠の上空に大きな爆発が花開いた。
『敵XT-2にフルブーストの気配無し。ワープ機能は搭載されてなさそうですね』
ロナは敵戦闘機の動きを観察し、ワープ装置が搭載されていないと見抜く。
実はトマス本来の機体は先の戦闘で故障しており、このXT-2は基地にあったものを鹵獲したものだ。
とはいえエースパイロットであるトマスの腕前にかかれば一般機であってもその動きは別格だ。
トマス機はミサイルが撃ち落とされたのを確認するや否や、爆炎と煙を目隠しにしてその裏で機体を思いっきりピッチアップし、XT-2を天へと昇らせた。
やや強引な操縦だが、彼の判断力と技量あっての機動である。
シドの目は爆発の影から飛び出すように空へと立ち昇ったトマス機に釘付けになった。
「上だ!」
『いえ、下です! シド、爆弾投下! 早くっ!!』
「えっ!? お、応っ!」
XT-2を見上げながら言ったシドの言葉に被せるようにロナの指示が飛ぶ。
彼女の差し迫った物言いに急かされ、シドは訳も分からず投下式爆弾の投下スイッチを押し込む。
こういう時に理由を後回しにして半ば反射で動けるのがシドの長所である。
オリックスS-3000の右翼に積まれていた爆弾の一つが機体を離れ地上へと落ちていく。
「下に何が……?」
と、ボタンから指を離したシドがそこで初めて地上を確認する。
「いっ!?」
爆弾の落下予想地点。そこにいたのは、大型のガトリング砲をこちらに向けて発射態勢をとっていた騎士ノーマンのマルージア改であった。
通信をしていた時はかなり距離が離れていたはずなのに、いつの間にかガトリング砲の射程内にまで近づいている。
接近にまるで気がついていなかったシドの背筋に寒いものが走った。
「もうこんな近くに!?」
『ブーストで近づいていました。標準機のおよそ1.8倍の推進力があると見ていいでしょう』
エース用のカスタム機だけあってスペックが高いらしい。
上昇するトマス機に気を取られていれば下から蜂の巣にされていたであろう。息の合った恐ろしいコンビネーションである。
ノーマンのマルージア改は正確に自機めがけて迫ってくる爆弾に対し、回避ではなく防御を選択した。
移動用のホバーを切り、太く逞しい二足の脚部で砂漠を踏みしめる。
左手に持つ重厚な大楯を前にかざし、正面から待ち構えた。
爆弾が盾に直撃し、先程のミサイル以上、周辺一帯を吹き飛ばすほどの爆発が起きた。
だが黒煙の向こう、マルージア改は健在だ。
黄土色の機体に煤焦げた跡こそ付いたがそれだけ。無骨な大楯はほんの少しひしゃげたが、その機能は何一つ損なわれてはいない。
地上からマルージア改の無機質な単眼がシドたちを睨んでくる。
『ほう、爆撃にも耐えますか。良い盾ですね。製造方法を知りたいものです』
興味深そうに盾の性能を褒めるロナ。喋りながらも操縦は当然続けている。
トマス機と同様に機首を上げ、オリックスS-3000を天空へと向かわせる。
優れた耐G機構のおかげで身体に負荷は少ないが、視界は別だ。眩しい太陽が視界の端に入り、シドは目を細める。
地上のノーマン機はお返しとばかりにミサイルの照準をロックオンしてきた。すかさず背中のミサイルポッドから大量のミサイルを発射する。
「撃ってきたぞ!」
コクピットにミサイルアラートが鳴り響く中、シドは叫ぶ。
だがロナはお構いなしとばかりにスピードを上げた。
『手間がかかりそうな盾持ちは後回しです。先にXT-2を落としますよ!』
砂漠の太陽が照りつける空の上、XT-2を追いかけてオリックスが宙を駆け上がった。




