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第42話 適切な分担

『こちらアイハム・アル=イブン。野郎ども、レーダーは見てるな? 敵さんのお出ましだ。出撃()るぞ』


 ニルス航空基地から出てきた敵部隊が接近するのを察知したシドたち白馬ギルドの面々は戦闘準備に入る。

 味方全体に向けたアイハムの通信が終わると同時に大型トラックが停車し、荷台の扉が開いて次々とパワードスーツを着用した傭兵が降りてくる。各々手には銃火器を持っており、中にはバズーカを担いだ者もいる。

 先頭で飛び出したのがアイハムだ。肩にコブラにマークがあるカーキ色のパワードスーツを装備しており、手にはサブマシンガン。腰には大振りの高周波ナイフが吊り下がっている。


『監視衛星からの映像は来てるな? 見りゃわかるが、敵の機動ロボはカスタム機だ。十中八九、騎士が乗ってる。連中はお行儀が良いから問答無用で攻撃して来ねえ。今に通信があるぞ』


 アイハムがそう言った直後、彼の言葉を証明するように敵機の方からオープンチャンネルで通信が発信された。

 発信元はやはり(くだん)の機動ロボである。

 シドが乗る機体のモニターにも、パイロットスーツを着た、彫りが深い顔で青い目をした中年男性の姿が表示される。

 およそ40代半ば。髭をしっかり剃っており、目つきがキリリとして眉毛もはっきりとしている。鼻筋が通っていて、いかにも生真面目な軍人といった容貌だ。

 男は見た目通りのハキハキとした口調で名乗りを上げてきた。

 

『私はヒーステン伯爵家が騎士にして、伯爵軍中佐ロブ・ノーマン。この部隊の指揮を取っている。諸君らはシャモニー子爵軍に雇われた傭兵だな。そちらの指揮官は誰だ?』


 寡兵であるとは思えないほど落ち着いた様子である。倍以上の人数と対峙しているというのに、とてもそうは見えない。

 傭兵を代表してアイハムが通信に応じた。


『俺が指揮官だ。白馬ギルド所属、Cランク陸戦兵(レンジャー)アイハム・アル=イブン。よろしくな、騎士サマ』

『《鉄人》アイハム……!』


 アイハムの名前を聞いてロブ・ノーマンは一瞬驚いた表情になる。彼の名前は伯爵軍にも知られているらしい。

 アイハムがニヤリと口角を吊り上げる。


『おっと、俺をご存知とは光栄だね』

『……王国の軍人で貴殿を知らない者はいないだろう。各地の戦場で名を残した古強者に出会えて、こちらこそ光栄だ。……だからこそ口惜しいな』

『ああん……?』


 ノーマンが残念そうに首を横に振ったので、アイハムが怪訝な顔をした。


『……どういう意味だ?』

『このような僻地の小競り合いで貴殿のような名のある方が命を落とすのはまことに残念でならない、という意味だ、《鉄人》アイハム・アル=イブン』

『ほう……言うじゃねえか』


 あくまでも淡々とした口調で挑発するノーマンに対し、アイハムは愉快そうに歯を剥き出しにする。


「敵の騎士はどうしてあんなに落ち着いているんだ? この戦力差だぞ」

『衛星の映像からずっと監視していましたから、援軍も伏兵もいないはずです。……かと言って虚勢を張っている訳でもなさそうですね。彼の目には自分たちの優位を確信している色が滲んでいます』


 ノーマンの態度を不思議に思ったシドが疑問を口にすると、ロナは断定するような口調でそう言った。


「そんなにあの騎士は強いのか?」

『いえ、考えられるとすれば()()()()ですね』

「どれだ?」

『8機いる敵戦闘機の内の一機です。スペックも武装も他と同じXT-2ですが、一機だけ動きが洗練されています。乗っているのは間違いなくエースパイロットでしょう』


 XT-2は戦闘機の名前だ。ソリスティア王国で広く配備されている大気圏内用戦闘機である。

 彼女曰く、他の機体と機体性能は同じだが明らかに動きが違うのが一機いるのだと言う。それがノーマンの余裕に繋がっているのだそうだ。

 その推理が当たっていたことは、続くアイハムとノーマンの会話により示された。


『《鉄人》アイハムが率いる隊といえど、騎士二人には勝てまい』

『二人だと……!』


 またもや敵からオープンチャンネルで通信が発せられる。

 モニターに映るノーマンの顔の隣りに、新たに30代前半くらいの男性の顔が表示された。

 今度は明るい茶髪に褐色の目をした陽気そうな男だ。


『騎士トマス・アイランドだ。階級は大尉。戦闘機のパイロットをやっている』

『なるほどなぁ……(地上)だけじゃなくて()にも騎士サマが居やがったか』

『そういう事だ《鉄人》。諦めて大人しく降伏しろ。我ら騎士が二人もいれば、この程度の兵力差など、どうという事はないと貴殿ならわかるはずだ』


 ノーマンはそう言って降伏を薦めてきた。

 確かに騎士が二人もいれば、多少の戦力差はひっくり返る。

 とはいえこちらにもシドがいるのでアイハムが降伏することはないであろう。

 彼はどう返事をするのかとシドが思っていると、当のアイハムから味方全員に向けて通信が入ってきた。いわゆるグループ通話だ。

 ロナが即座に応答し、回線が開かれる。


『よう、話は聞いていたな。騎士サマは俺らに降伏しろって言ってきたが、返答は決まってるよな?』

『当たり前ですぜ、おやっさん』

『目にもの見せてやりましょうや』

『白馬を舐めやがって。ぶっ潰してやる』


 血気盛んな意見にアイハムは満足そうに頷く。

 誰も恐れた様子が無いのはさすが蛮族たちである。


『おうとも。やるしかねえわな。――ただし! 騎士二人とまともにぶつかるとこっちの被害も尋常でないのは事実だ。そこで一つ提案なんだが、あの二人は小僧に任せて、俺らは残りとやり合わねえか?』

「……へ?」


 予想外の言葉に一瞬シドの認識が遅れる。

 今、アイハムは何と言ったのか?

 騎士二人の相手をシドに押しつけると言ったのではないか?

 その通りである。


「俺ですか!?」

『あ? 小僧ならできんだろ』

『当然です』


 アイハムの言葉に即答したのはロナだ。

 彼女はもうやる気十分のようである。


『シド、心配無用です。たった二人の相手など造作もありません。お湯を沸かしてカップ麺をつくるより簡単な作業です』

「……マジかよ」


 ロナが乗り気である以上、シドに(いな)はない。

 彼はガックリと肩を落として、渋々とアイハムに了承の意を伝えた。


「……わかりました、アイハムさん。やります」

『おう、気張れよ』


 アイハムからはその一言。

 他の傭兵たちからはどよめきが起きた。


『スゲェな、シド。いけんのか』

『やっぱ違うな』

『天才じゃん』

『ヤベェーよ、半端ねぇーって』

『死ぬなよ、マジで』


 いくら称賛されようともシドは嬉しくない。それどころか、ロナが騎士二人に勝って、また名前が上がることの方が憂鬱なくらいだ。


『よーし、小僧が騎士サマを相手にしてくれるのなら、あとは簡単だ。地上部隊は俺と共に突撃。空はフジタが指揮を執れ』

『『『うっす、おやっさん!』』』

『フジタ、ヘリを含めて相手は9機。こっちは小僧が抜けて4機だが大丈夫か?』

『問題ないですぜ、おやっさん』

『おう、なら任せた』


 話がまとまったところでアイハムは再度ノーマンと通信を始めた。


『降伏を決めたか? 《鉄人》アイハム』

『馬鹿野郎、勝てる(いくさ)を投げるやつがいるかよ』

『なんだと?』


 アイハムのあざ笑うかのような言動に、今度はノーマンが顔を顰める番となる。

 ノーマンはアイハムに食ってかかった。


『どういう事だ、アイハム』

『こっちにもタレントはいるって事だ。ほれ、自己紹介してやれ』


 話の流れ的にシドも会話に参加すべきなのであろう。

 ロナに回線を開いてもらい、シドはできるだけ真剣な表情を心掛けて真っ直ぐにカメラを見つめた。

 シドの顔が表示されると同時、騎士二人の双眸が見開かれる。

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