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第3話 折れる心

 アドホック号のブースターを全開にして戦闘宙域へと近づくシド。そこでは既に傭兵たちと伯爵軍の戦闘が始まっていた。

 移動中にフジタが言って通り、傭兵部隊は各自バラバラに行動している。流石は腕っぷし一つで金を稼いでいるだけあって個々の戦闘スキルは高い。さらに度胸も据わっている。

 傭兵たちは圧倒的に戦力が勝る伯爵軍に対しても臆さず攻撃をしかけ、その巧みな操縦で敵機を翻弄し、敵中団の撹乱という作戦目的を果たしていた。

 シドは初めて間近で見るリアルな戦場に気圧されそうになる。いくらバーチャルリアリティが進歩しようとも、シドが今までやってきたのはあくまでもゲーム。感じる空気がまるで違うのだ。


「こ、これが本物の戦場……人が……死んで……」


 AIや無人兵器が条約によって禁止されている現代において、戦場にいるのは全て有人兵器である。

 いま爆発した伯爵軍の戦闘機にも人間が1人乗っているのだ。

 命懸けの戦い。そこに飛び込んだのだと彼は改めて実感し、頭の中が瞬く間に恐怖で塗りつぶされてしまう。

 だが、「逃げなきゃ」という言葉が脳内をよぎった瞬間、シドは激しく頭を振ってその考えを追い出した。


(ダメだっ、空気に呑まれるな! 俺も死んじまうぞっ!)


 逃げれないというのは、先程から何度も自分に言い聞かせている。ここで弱気に支配されてしまえば、万が一の生還の可能性すら潰えてしまう。ゲームでもフラフラ飛んでいる初心者は真っ先に狩られるのだ。

 シドは大きく深呼吸し、一人きりのコクピットであえて声を張り上げた。


「よ、よしっ! 俺も行くぞ! 大丈夫。乱戦ならVRで何度もやってきた。ゲームと同じ。楽勝だ楽勝。最後まで生き残ってやるっ……!」


――どうせ無理だ。

――ゲームと同じわけないだろ。

――俺はここで死ぬんだ。

 

 心の奥から聞こえる囁きを無視し、自身を無理矢理にでも励まして操縦桿を握りしめるシド。Uターンはできない。彼はアドホック号を戦闘宙域へと突っ込ませた。

 とはいえ、なにも無策で突撃するつもりはない。いま彼が頼れるのはゲームでの経験だけだ。それを活かして少しでも生存確率が高そうな地点へと陣取り、ほどほどに味方をサポートするつもりである。

 幸い敵の目は先に突撃した他の傭兵たちに集中している。今のうちなら目立たずに動けるはずであった。

 しかし、ゲームでもリアルでも、世の中は思い通りにはいかないものだ。シドの目論見はあっさりと崩れてしまった。


「まずは敵の注意がこっちを向いてないうちに少しでもいいポジションを探してーーえっ? 嘘だろ、もう見つかった!?」


 レーダーで味方と敵機の位置と動きを確認し、僅かでも飛んでくる弾が少なさそうな場所を探すシド。だが、ある一機の敵戦闘機が急に進路を変え、真っ直ぐにシドの方へと向かってきたのだ。

 実はこの時、敵機は先行した傭兵部隊との交戦で被弾してしまったので機体修理のために戦線を離脱したところであった。その進路が偶然アドホック号がいた位置と重なったのである。

 敵パイロットはシドを無視して後方に下がろうと考えていたのだが、アドホック号があまりにもオンボロだったので、帰りがけの駄賃として撃墜していくことにしたのである。


「やばい、撃ってきた!」


 敵戦闘機はアドホック号を有効射程圏内に収めるや否や底部のビームガンを撃った。

 恐るべき速度で宇宙に軌跡を描くビーム。もし当たれば、アドホック号のゴミのような耐久力では1発で機体が爆散してしまうであろう。

 絶対に当たれない致命の一撃。それをシドは余裕の動きで避けた。

 知っての通り、シドはこれが初実戦である。とはいえ機体の操縦はVRゲームで何度もやっており、それこそプロ級の腕前だ。

 その経験からか、撃たれると感じた瞬間には手慣れた動作で操縦桿を傾けていたのだ。


「よ、避けれた! ――うわあっ!?」


 初撃を回避してホッとする暇もなく、敵は次々とビームを撃ってきた。オンボロ戦闘機にあっさり避けられたのがそんなに頭にきたのか、ムキになったように乱射している。

 今度はシドも必死だ。機体に負荷がかかるのも構わず、可能な限りの回避機動でビームをかわしていく。

 なお、前述の通り、AIと人類の戦争があって以降、AI技術はかなり規制されている。特に軍事技術に関してはその縛りが非常に強く、機械による殺人に繋がるとしてコンピュータによる全自動射撃や完全自律式ミサイル等は禁止。必ずどこかのプロセスで手動による操作が入るように義務付けられていたりする。

 つまり、今ビームを撃ちまくっている敵パイロットは何度も何度も発射トリガーを引いているわけである。どうやら随分とカッとなりやすい性格のパイロットのようだ。


「くそっ、やたらめったに撃ちやがって! このまま殺されてたまるか!」


 このまま一方的に撃たれてばかりではいつか撃墜されてしまう。シドは覚悟を決め、反撃に転じることにした。……が、話はそう簡単ではない。


(反撃しようにも、こっちの武装は機首についてるビーム機銃とミサイルだけ。ミサイルも、真っ直ぐにしか飛ばない安物。どうにかして相手の背後をとらないと。……ん? あっちの左ブースターなんか変だな。出力が安定してない?)


 回避しながらも敵の動きを観察し、左翼ブースターに異常があることを見抜く。まさしくそこが敵機の被弾箇所であった。


「そうとわかればっ! うおおおおおォォォっ!」


 シドは雄叫びをあげアドホック号を限界ギリギリのスピードで急旋回させる。相手のバックサイドへと回り込み、有利な位置どりで戦うつもりだ。

 敵機も、逃がしてたまるかとスピードを上げてアドホック号を追尾したが、これが悪かった。加速に耐えられず、ボンッと小さな爆発と共に左のブースターが止まってしまったのだ。


「うおっ、マジか!?」


 降って湧いたチャンスに驚くシド。これに関しては流石に彼も見越していなかった。完全に敵の不運である。

 コントロールを失い、敵戦闘機の機動が大きく乱れる。結果、敵は戦場では許されないほどの致命的な隙を晒すことになった。

 全ては、あっさり撃墜できると考えたアドホック号に手こずって頭に血を上らせたパイロットの責任であろう。

 そしてシドは、この好機を逃すほど愚かではなかった。


「くらええええええっ!!」


 シドはアドホック号の機首をふらつく敵機に向け、照準を合わせてビーム機銃の発射トリガーを思いっきり引く。狙い過たず、銃口から連射された何十発ものビーム弾は敵機に命中した。

 その内の何発かが機関部に命中したのであろう。エンジンから火を吹いて爆発する敵戦闘機。シドの初戦果である。


「や、やった……! ははは、やったぞ……っ!」


 命懸けの戦いに勝利し、心の底から湧き上がる高揚感に笑みを浮かべるシド。だが急転直下、すぐに彼は絶望の底に叩き落とされることになる。


「ん……? お、おいおいマジかよ……ふざけんじゃねえって……」


 先程の敵戦闘機が救援信号を出していたようだ。

 シドはこちらへと高速で近づいてくる敵機が3機もいることに気がついた。

 とてもではないが、アドホック号で渡り合える数ではない。

 しかも、もう間近まで迫ってきている。

 初めてのリアルドッグファイトに視野が狭まり、レーダーを全く見ていなかったせいだ。

 向こうは味方を撃墜したシドを絶対に許さないであろう。確実に仕留めにくるはずである。

 3対1では絶対に勝てない。鈍足なアドホック号のスピードでは今から逃げ切ることもできない。

 どうあっても撃墜される未来しか見えない。

 ないないない尽くし。

 シドは自分の心がポッキリと折れる音が聞こえた気がした。


「あっ、ダメだ……死ぬ……」


 途端に全身から力が抜け落ちるシド。最後の悪あがきをする気持ちも湧いてこない。

 まるで死神に生への渇望を根こそぎ刈り取られてしまったかのようだ。


「もう……おしまいだ……」


 諦め切ったシドは操縦桿からも手を離してしまい、アドホック号は、ただ真っ直ぐ飛ぶだけのガラクタになってしまう。

 今まで必死に心の奥底で押し殺していた弱音がシドの口をついて出てきた。


「やっぱり無理だったんだ……。ははっ、そうだよな。ゲームとおんなじなんて馬鹿な話、あるわけねえよな……」


 泣きそうな顔でモニターを見るシド。そこには望遠カメラで捉えた3機の敵戦闘機の映像が映っており、そのどれもがビームガンの銃口をこちらに向けていた。

 もうあと数秒で向こうの射程に入る。降伏を宣言しようにも間に合わないだろう。何かを言う前に撃たれて終わりだ。


(もっといっぱいやりたい事あったな……。大会優勝したかったし、首都星バカンスも行けば良かった。あとは彼女つくって、惑星に土地買って結婚とか……。でももう……)


 やりたかった事、叶えたかった夢。後悔、悲嘆。様々な感情が渦巻く中、シドが最後に想ったのは――


(父さん、母さん、ごめん……)


 シドは心の中でもう一度両親に謝り、少しでも死の恐怖から逃れるためギュッと目を閉じた。

 本来であればここで彼の人生は幕を閉じたであろう。

 だがその時、アドホック号のコクピット内にあるスピーカーから見知らぬ女性の声が聞こえてきた。


『――極めて不本意ですが仕方ありません。あなたを助けてあげます』

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