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第35話 初めてのペア……?

「なるほど、エールダイヤが使えなくても問題無いとは、こういう事だったのか……」

「どうですか、先生? 私の『ポーターデルフィン』ちゃんの乗り心地は」


 シドがFランク戦闘機乗り(ファイター)になった2日後、彼はCランク工作員(エージェント)のノア・レンダと共に仕事を受けた。

 集合場所は傭兵ギルドが管理している宇宙船ハンガーの一角。そこにノアの所有する戦闘機が格納されていた。

 ノアと合流したシド(とロナ)はそのまま()()に機体に乗り込み出撃。

 シドの、正確にはロナの操縦で目的地まで移動している途中である。

 そう、“一緒に”である。

 

「二人乗りの機体は初めてだけど、すぐ後ろに人がいるのはなんだか不思議な感じだな。この機体はノアが?」

「はい、複座式強行偵察型戦闘機『ポーターデルフィン』! 共和国の偵察機『マリーン6V』をベースにカスタムして完成させた、自慢の荷運びイルカちゃんです!』


 ノアのポーターデルフィン号はコクピットの前後に座席がある二人乗りの機体だった。

 デルフィンとはスペイン語でイルカのことである。

 その名前の通りバンドウイルカのような艶やかな灰色をした、先端が丸みのある(くちばし)の形になっている流線型の戦闘機で、イルカの背びれと尾ひれを模した尾翼が特徴だ。

 いわゆる複座戦闘機と呼ばれる機体で、通常は一人が操縦、もう一人が火器管制、カメラ、レーダー等を担当するといった役割分担をするための設計である。

 だがノアの機体はそのように作られてない。


「まあ、複座と言っても操縦も火器管制も全部前席に集中してるんスけどね。後ろ側の席はいっつも荷物置きに使ってます。自分、工作員なんで必要な道具とか結構あって。あっ、時たまお客さんを運ぶ事もあるんで、その時も使ってます」

「へー、そうなんだ」

「でも自分が後ろに座ったのは初めてっスよ。他の人は絶対にダメですけど、先生だから特別っス」

「ははは、そりゃ光栄だな」

「ぶー、もっと真剣にありがたがってほしいっス」


 彼女が言ったようにこのポーターデルフィン号は前席に全ての機器が集約されていて、後席は申し訳程度に通信機器とレーダー、そしてパイロットシートがあるだけだ。

 ノアは基本ソロで活動しているらしいのでこのような作りになっているのであろう。カスタム機ならではだ。

 座席は小柄なノアに合わせて調整されているのでシドなはちょっと狭いが、無理なほどではない。操作も問題なく行えそうだ。


(俺はともかく、問題はこっちだな)


 シドは操縦桿を握る右手に嵌められたバングル型PCに触れ、後ろの席のノアに見られないように顔を前方に向けたままコッソリとキーボードで文字を打ち込んだ。


>ロナ、そっちはどうだ? 動かせそうか?


 文字入力を終えると、耳に装着したイヤホンに返事が返ってきた。

 ロナの美声がいつもより気持ち小声で聞こえてくる。


『はい、既に機体システムを掌握しました。この子(ポーターデルフィン)はもう私の手足も同然です』


 囁くような声量がやけに耳にくすぐったい。


「尊敬する先生だから信頼して操縦桿を託すんですからね。そこんところわかってくださいよ?」

「はいはい」

「もー、おざなりな返事は女の子にモテないっスよ」


 元気よく話しかけてくるノアとも会話しながら、シドは次の文を打ち込んだ。


>あとでシステムログをチェックされたらロナの存在がバレたりしないよな?


 聞いておいてなんだが、シドはあまりこの点に関しては心配していない。

 エールダイヤやアドホック号に乗っていた時も戦闘時のログデータを各所に提出しているが、一度たりとも疑念を持たれたことは無いのである。

 一応念のためにと軍や警察から不正AIなどが使用されていないかチェックされたこともあるが、それもあっさりと擦り抜けている。

 歴史上でも突出したレベルのAIであるロナにしてみれば現代の対AI用チェックプログラムはザルらしく、簡単に騙せる程度らしい。

 彼女曰く、『2歳児相手にかくれんぼをするようなもの』だそうだ。

 当然の如く、余裕だと言わんばかりのセリフが返ってきた。


『バレるわけないでしょう? 「立つ鳥跡を濁さず」、きっちりと痕跡一つ残さないようにしておきます』


 彼女がそう言うのならシドも一安心である。今回の仕事もいつも通り安心してトリガーを引くことに集中できそうだ。

 そう考えたところでシドは背中をツンツンと突かれた。犯人は言うまでもなくノアだ。

 いきなりどうしたと、シドは軽く後ろを振り返った。


「なんだ?」

「そういえばなんスけど、先生はペアで仕事するのも初めてっスよね?」

「えっ?」


 なんとも返答に困る質問だ。

 公式には確かにシドはソロオンリーでしか依頼をこなしたことはないが、真実はまるで逆、ペア専門である。

 軽い口調で聞いてきたことから裏がありそうではないが、ドキリとしてしまう質問だ。

 動揺をできるだけ表に出さないように気をつけながら、シドは言葉を濁しつつ答えた。


「あー……まあ、そうだな。……どうしたんだ急に?」

「いやいや、先生の初めてのパートナーになれるなんて照れるなぁと思いまして」


 そう言って「ヘヘッ」と嬉しそうにはにかむノア。

 真後ろなのでシドには彼女の顔が見えないが、ちょっと頬を赤くしていたりする。

 シドが思っている以上にノアの彼に対する好感度は高いようだ。


『ハッ、残念でしたね小娘。ずっと前からシドには私というパートナーがいます。あなたなどお呼びでないのですよ』


 耳元のイヤホンからはロナの勝ち誇った声が聞こえてくる。

 人間とという意味では確かにノアが初ペアなのだが、独占欲強めな彼女としてはパートナーの座は譲れないのだろう。ばちばちに張り合っていた。


「ははは……」


 女性たちに挟まれ、下手な発言が命取りになると直感したシドは、どっちつかずの苦笑いをするしか選択肢が思いつかなかった。

 ……まあ、それは悪手だったが。

 

「ちょっと先生、恥ずかしいこと言ったんですから先生も照れてくださいよー。ホントにもー、乙女心傷ついちゃうなぁー」

『その苦笑いはなんですか。アナタも私のことをパートナーだと思っているなら、笑ってないで「そうだね」とでも同意の文章を打ち込みなさい』

「……すいませんでした。以後気をつけます……」


 結構双方からダメ出しをくらってしまう。乙女心がわからないのはシドも気にしているところだ。心にくるものがある。

 シドはロナとノアの両方に向けて詫びを入れたが、この任務中はずっとコレが続くのかと思うと、別の意味でハードな仕事になりそうである。


「まっ、いいでしょ。今回はこの頼れる先輩に任せてくださいっス。白馬流のやり方をしっかりレクチャーしてさしあげます」


 ぶー垂れていたノアだが、謝られたことで気を取り直したようだ。自信満々にそう言ってきた。

 と、そこでシドは今向かっている場所についてノアに確認をする。


「そういえば、これから行くのって何処なんだ? 言われた座標に向かって飛んでるけど、そこってコロニーもステーションも何もない場所だろ。そろそろミッション内容を教えてくれよ」


 実はシドはまだ何をするかほとんど教えられていない。

 あらかじめノアから説明された仕事内容は、警察と協力しての合同捜査とだけ。情報漏洩の危険があるから詳細は出発してからと言われていたのだ。

 だが、出発した今ならもう尋ねてもいいだろう。そう思っての質問だった。

 ノアは「はい」と返事を一つして、今回の仕事について説明を始めた。


「今日我々が行うのはヒーステン伯爵領に不正に物資を流している密輸業者の摘発っス。指定の座標にはその業者が倉庫として使っている拠点があるっス」


 ヒーステン伯爵の反乱が始まってから王国から伯爵領への移動や商取引は停止されている。

 だからこそノアが言ったような密輸業者の需要が生まれるのであろう。

 現在ソリスティア王国では個人団体合わせて数十の密輸業者の存在を察知している。

 業者の中には食料品や生活必需品以外にも軍需物資まで運んでいるところもあるので、王国も摘発に力を入れているとニュースでやっているのをシドも見たことがあった。


「じゃあ、警察と協力してその拠点を制圧するのか?」

「そうなんですけど、警察も今は治安維持が忙しくて、特殊部隊の手があまり空いてないそうなんです」


 対叛乱軍との前線地域というのもあるが、先日の惑星イマリを襲ったテロリストの件もあって、警察の特殊部隊は治安維持に引っ張りだこらしい。

 なので傭兵ギルドに戦力の要請があったのだろう。暴力という点では傭兵たちはプロフェッショナルだ。


「なるほど、という事は俺たちの仕事は――」

「はい、その特殊部隊の代わりに拠点を鎮圧して、そのあと警察に引き渡すことです。あっ、因みにその拠点は自分が特定したっス」

「おおっ、さすがCランク工作員(エージェント)

「へっへっへ、可愛いだけの女の子じゃないんスよ」


 鼻高々なノアを背にシドはモニターのマップを見る。向かう先は伯爵領との境界近くの空白地域だ。

 ミッション難度はCランク相当。間違ってもFランク傭兵に手伝わせる仕事ではないが、それは今更であろう。

 ロナなら大丈夫だと信じているが、世の中なにが起きるかわからないのは身をもって知っている。

 シドは気を引き締め、操縦桿を握り直すのであった。

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