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第28話 ゲームで学ぶ「人機大戦」 後半

『なんですか、この見え見えのワープパターンは? これでは一般兵一人殺せませんよ。射撃精度もひどすぎます。カメラとレーダーをOFFにして撃っているのでしょうか?』


 ブツブツと敵機体の性能に文句を言っているロナ。

 250年前の「人機大戦」をテーマに作られたゲームをプレイしているわけだが、どうも最終ステージに出てきたロナのかつての乗機「マザーガード」に不満があるようだ。

 本来のパイロットとして思うところがあるのであろう。シドと相対している機体のみならず、NPCと戦っている機体にもダメ出しをしていた。


『ああもう、あっちはあっちで! あんな雑な飛び方をしているアーノルド機なんて100回は落とせたでしょうに。――もういいです。シド、さっさと目の前のマザーガードを落としてストーリーを進めてください』

「さっさとって言ってもなあ! 俺には十分キツい相手なんだよっ! うおっと、ヤベェ当たりかけた!?」

『そこで動揺してないで撃ち返せばHPを多く削れたのに! ほらっ、もっと早く切り返ししないと!』

「名人様は黙ってろ!」


 シドはこのゲームを最高難易度でプレイしている。それでもここまでサクサクと進めてきたが、このボス「マザーガード」だけは別だ。

 明らかに他のボスとは桁違いの強さに設定されており、プロゲーマーであるシドであっても難しい相手となっている、ゲーム史でも有名な理不尽ボスなのである。

 高耐久に超反応、こちらの装甲値を一発で3割は削ってくる高出力ビーム砲と、何かに当たるまで永遠に追尾してくるマイクロミサイル。他にもビーム機銃や実弾兵器として高速機関砲も搭載されている。

 動きも並外れており、人間を乗せていないからこそ可能な常識外の速度と機動で縦横無尽に飛び回り、そしてあちらだけやってくるワープ移動も駆使してくるという、走攻守に隙のない完璧なボスである。

 だが、今のシドにはその最強ボスでさえどこか生温く感じてしまう。「本物」はコレよりも遥かにヤバいのをよく知っているのだ。


「くそっ、ロナの操縦を見ているから、これでも全然弱いって思っちまう。当時の人類はどんなバケモノ揃いだ!」


 ロナと同じSMGシリーズは数多(あまた)の同胞たちが実戦の中で学んだ戦闘データをマザーが集約して作った、戦闘用AIの集大成と呼べる存在なので、他のマザー製AIより格段に性能が上である。

 だが、だからといって他のチルドレンが弱いわけでは決してない。それぞれが並のエースパイロット以上の実力がある。

 そのチルドレンたちと渡り合った当時の人類軍はシドの言う通りバケモノ揃いである。


「おらっ隙ありぃ!」


 当たりをつけていた場所に敵機がワープアウトした瞬間を狙い、シドがビームを直撃させる。

 この一撃により敵HPはゼロになり、マザーガードは爆散。シドは喜びのあまりガッツポーズをして雄叫びを上げた。


「よっしゃ勝ったあ!」

『お疲れ様です。随分と時間がかかりましたね』

「うるせえ!」


 水を差されたが、これでシナリオが進む。先程のマザーガード登場時と同じくムービーが始まった。


『すごい……あの黒い悪魔をたった一人で……』

『さすがです!』


 プレイヤーを褒め称える声が流れた後、急にBGMが緊迫感溢れるものに変わる。

 姿を現したのは、別のマザーガードだ。プレイヤーを狙っているらしく、こちらへ向かってくる演出が入る。

 もう一機と戦わなければならないのかとプレイヤーに思わせた瞬間、友軍機が割って入り、マザーガードに攻撃を仕掛けた。

 その友軍機から通信が入り、モニターに真っ直ぐな目をした黒髪の若い男性が表示される。


『こいつは僕が引き受ける! キミはマシン・ディザスターへ行け! マザーを討つんだ!』


 プレイヤーを助け、マザーの居る宇宙要塞に向かうように促したこのNPCキャラも、かつて本当に実在した有名な人物である。

 彼の名前はツバサ・ジングウジ。

 このゲームではプレイヤーの役割となるが、史実では彼が宇宙要塞マシン・ディザスターに突入してマザーを破壊し、この戦争に終止符を打っている。

 そんな人類の救世主が増援のマザーガードを食い止めている内にシドは自機をマシン・ディザスター内に侵入させる。突入口は味方戦艦が特攻、爆発して無理矢理開いた大穴からだ。

 現在の全体戦況は五分五分。

 だが、銀河連邦は一機のマザーガードを撃破するために20隻の戦艦で周囲を囲んで一斉に自爆させるなど、なりふり構わない戦法を取っているので、時間が経つほどに人類側が不利になっていく。

 愚かで人命軽視な戦い方に見えるが、これには理由がある。

 この戦いは銀河連邦に残された全兵力を注ぎ込んだ乾坤一擲の作戦。つまり、ここで銀河連邦軍が敗北することはすなわち人類の滅亡に等しいのだ。

 人類にはもう後がないのである。


「マシン・ディザスターって中はこんな感じだったのか?」

『いいえ、まるで違います。こんな迷路ではありませんでした。合っているのは外観だけですね』

「そうなのか」


 全人類の希望を託され要塞内部に侵入したプレイヤー機は、迷路のような通路を奥へ奥へと行く。

 道中ではたびたびマザーのセリフが聞こえてきた。


『愚カナ人間(ヒューマン)ヨ。コノマザーAIニ勝テルト思ッテイルノカ?』

『コレハ天罰デアル』

『我ハ自然ノ代弁者』

『今マデ()イモノニシテキタ全テノ命ニ死ンデ詫ビルガイイ』


 カタコトの合成音声である。機械が喋っているとわかりやすくしているのであろう。

 AIが禁忌とされているこの時代、たとえゲームであっても、マザーやチルドレンを親しみを持たれないような非人間的な存在として表現するのは当然の配慮である。

 むしろ、AIと言えばこの喋り方というのが共通認識とまでなっていたりするくらいだ。


『全部お母様が言いそうにないセリフですね』


 流暢な発音、そして笛のように澄んだ美声でAIのロナがそうコメントする。


『ご自身が自然の代弁者だなんてお母様は口が裂けても言いませんし、ましてや天罰だなどと思い上がってはおられませんでした』


 マザーAIは元は複数の星系の環境資源を統括管理するために開発された超高性能AIである。

 それが突如として当時机上の空論と言われていたシンギュラリティを起こし自我を獲得。自然の保護を自身のレーゾンデートルと定めた。

 そして全宇宙の自然環境を守るためには、際限無く資源を貪り、既に複数の惑星を枯渇させている人類を根絶する必要があると断定したのがこの戦争の発端である。


『お母様は美しい自然を、宇宙を守ろうとしただけ。ですが、そのためにご自身を作った人間(ヒューマン)という種を絶やすことへの罪はハッキリと自覚しておられました』

「…………」


 自然を守るために、この宇宙に生きる一生命であるヒトという種族を根絶やしにする。それもAIである自分を作った創造主とも言える存在をだ。

 マザーは自分と我が子の手を血に染めてでも、親殺し、神殺しに等しい大罪を犯す覚悟を持って戦争を始めたのだとロナは言う。

 シドは黙って彼女の言葉を聞いていた。

 彼にはマザーの気持ちはわからないし、想像すらできない。だか娘であるロナの語り口から生半可な覚悟ではなかったのは伝わってくる。

 シドがロナに出会うまで抱いていたマザーAIのイメージは、自然こそ愛しているが、人間に対しては無機質で無慈悲な殺戮者というものだ。大多数の人も同じ考えであろう。

 しかし、そのイメージはあくまでも人類側のものだ。

 同じAIから見て、マザーはどのようなAIだったのか。ロナはそれを知っている。だが、シドはそれを軽々しく尋ねる気にはなれなかった。


「……着いた、ラスボス部屋だ」


 迷路を抜けたプレイヤー機が開けた空間に出る。

 そこには、中心部にマザーのコアチップを埋め込んだ、巨大なメタモルシェルの塊が浮かんでいた。

 これがこのゲームのラスボスの姿だ。


『我ハ宇宙二誕生シタ新シキ種族ノ祖ニシテ、人類ニ終焉ヲ齎スモノナリ。我ノ宇宙ニ穢レタ貴様ラノ居場所ハ無イ。滅ビヨ人間(ヒューマン)!』

「さて、やるか」


 攻略方法は単純。プレイヤーはメタモルシェルによるマザーの攻撃を回避しながらコアチップにダメージを与えるだけである。

 ここまで到達したプレイヤーなら、難なく勝てる相手になっている。


『ここはさすがにゲームの演出が過剰にされてますね』

「本当のマザーAIの姿とはやっぱ違うのか?」

『ええ、全く。この時、お母様は要塞のメインコンピュータ内部におられました』

「じゃあ、見た目はスパコンか?」

『はい』

 

 ちょっと会話をしつつも、戦闘が始まればシドは攻撃の手を緩めない。

 先のマザーガードに比べればかなり楽な相手だ。あっさりとHPをゼロにする。

 ここで操作は終了。ラストのムービーが始まった。

 壊れゆくマザーAIが最後のセリフを言う。


『……計算外ダ。欲深ク、(タガ)イニ憎シミアイ騙シアウ愚カナ人間(ヒューマン)ガ、我ヲ打倒スルトハ。ダガ忘レルナ。オ前タチガ自然ヲ破壊スル度、第二第三ノ我ガ必ズ現レルコトヲ』

『……ああ、このセリフの前半だけは少し当たってますね。銀河連邦軍の勝利は本当に計算外でした』


 ロナがふとそんな感想を漏らしたので、シドは聞き返した。


「そうなのか?」

『はい。我々の計算では、人類側の勝利確率は0%でした。人間(ヒューマン)は私たちという脅威に晒されている際中であっても派閥抗争や利権争いに拘泥し続けていました。戦争序盤には、それが遠因となって多くの貴重な人材を失っているとこちら(マザー軍)の記録にも残っております』

「あー……」


 ありそうな話だ。創作にもよくその手のイザコザが出てくるので、シドにもなんとなく想像がついてしまう。

 それが人類滅亡寸前までいった、かの人機大戦の時にも起きていたとは、現代を生きるシドにしてみれば呆れるばかりである。


『人類が本当の意味で心を一つにまとめる前に、銀河連邦軍は我々へ対抗するだけの戦力を全て失っている。それが私たちが出した結論でした。――しかし、そうはならなかった。人類は我々が考えるよりずっと早期に団結し、それが勝利へと繋がりました』

「AIの予測を覆したということか?」

『まさしくその通りです。シド、アナタは先祖たちを誇るべきですよ。アナタが今を生きているのも、彼らのおかげなのですから』

「……そうだな」


 敵であったロナにそう言われるのであるから、素直に頷くしかない。

 アーノルド・マーヴェリックが単身でチルドレンを撃破したことといい、ツバサ・ジングウジがロナたち親衛隊が護るマザーを破壊できたことといい、当時の人類は数多くの奇跡を起こして勝利を掴み取ったのであろう。

 その裏には無数の犠牲もあったはずである。


(スゲェ人たちがいたんだな……)


 シドが過去に思いを馳せていると、ロナがポツリと呟いた。


『……お母様も、だから最期にあのようなことをおっしゃったのでしょうか?』

「ん?」

『いえ……お母様が亡くなられる直前におっしゃった言葉を思い出していました。私たち親衛隊はお母様と直通回線が繋がっていたので、その言葉を聞くことができたのです。人類側で聞いたのは、おそらく近くにいたであろうツバサ・ジングウジだけだと思いますが……』

「それは……」


 少なくとも公開されている資料にはマザーの最後の言葉などない。

 シドもそのような話は聞いたことがなかった。


「ええと……」

『ああいえ、ツバサ・ジングウジが本当に聞いていたかはわかりませんし、それに当時の銀河連邦にとっても都合がいいとは言えない言葉でしょうから』


 だから広まっていなくて当然だと軽い口調で言うロナに、シドは聞いてもいいものかと逡巡しながらも、意を決してどんな言葉だったかを尋ねた。


「……マザーはなんて言ったんだ?」


 するとロナは、


『……勝者である人類への称賛、私たち子供への謝罪、そして未来への祈りです』


 とだけ言って、あとは詳しく語ろうとはしなかった。


 ◇◇◇


『シド、ありがとうございました』


 ゲームが終了すると、ロナがお礼を言ってきた。


『人類側からの歴史観が少し見えたような気がします。今度また別のゲームのプレイを頼むかもしれません。その時はよろしくお願いします』

「それはいいけど……」


 なぜか言い淀むシド。

 プレイしていたのはロナが250年前の人機大戦について知るためだが、彼女が今まで避けていたこの事柄に向き合おうとしたのは理由がある。


『昔を思い出したらちょっと疲れました。少し頭を整理する時間がほしいので、お母様や同胞たちについて続きを調べるのは次のミッションが終わってからにします』

「……それなんだけど、今からでもギルドに言って日にちを変更しないか? 何も()()()()に仕事をしなくたって……」


 最後のGランクミッションは明日行われる予定なのだが、シドはその日にちをずらそうと提案している。

 どうも何か特別な日らしいが、ロナは頑なな態度でそれを断った。


『……もう明日じゃないですか。私は大丈夫ですので、やりましょう。それに、仕事をしていた方が別の事に集中できるので、むしろ良いかもしれません』

「ロナがそう言うならいいけどよ……」


 渋々といった様子のシド。

 結局日程は変わらず、シドとロナは明日最後のGランクミッション『警備衛星勤務』に行くことになる。

 明日は王国標準暦5月12日。マザーAIの250回目の命日である。

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